M&A全般

M&Aの主流は売り手主導。戦略的に買い手を選ぶための「タイミング」

売り手オーナーが買い手の役員に!?

 

M&A市場の流れがここにきて変わってきている。40歳代、50歳代のオーナーでも積極的に会社を売却するようになってきた。業界に刺激を与えたい、よりよくしたいと売り手・買い手が意気投合して一緒に経営していくスタイルが根付いてきたといえるだろう。

 

代表的な事例が福岡で当時上場していたトータル・メディカルサービスをメディカルシステムネットワーク傘下のファーマホールディングが買収したケース。現在、売り手のオーナーが買い手企業の副社長になっている。従来のように事業承継のため会社を売り経営者が会社を去るのではなく、その後も買い手とともに経営にいそしむ。トータル・メディカルのオーナーはM&A当時、55歳であった。

 

30歳代、40歳代の売り主も多くいる。自分一人の経営だけで会社を伸ばし続けるには限界があると感じ、M&Aを検討するのだという。IPO(株式新規公開)も、資金が調達でき、信用がつくため、会社の飛躍的成長の機会になる。しかし、会社の成長を加速させるヒト・モノ・情報・拠点づくりは、M&Aのほうがはるかに時間を短縮することができ、成果につながりやすいため、会社・社員ともレベルアップするために戦略的に売却しようと考えるのである。

 

 

M&Aの目的が変わった

 

かつて、M&Aには敵対的なイメージが強かった。敵対的M&Aはセンセーショナルに報道されがちだが、実際には敵対的M&Aは日本のM&A数万件のうちの100件にも満たない。少なくとも未上場企業のM&Aにおいては、オーナーの同意なく株式を譲渡することはできないため、敵対的M&Aは起こりえないのである。

 

M&Aを事業承継の手段としてきた側面もある。60~70歳のオーナーが跡継ぎを探す。子供がいない、あるいはいても大手企業に勤務していたりして継がない。社員に継がせたくても、数億円の株式を買い取り、さらに借り入れの連帯保証も引き受けられる社員はほとんどいないので、M&Aで第三者に承継するのだ。

 

 

最近のM&Aの流れは、上記のようなものではなく、売り手主導の戦略的M&Aだ。売り主が戦略的に自社を格上げするにはどこと一緒になったらいいかと考えて、相手を探していく。売りたい会社の数自体は少ないが、買いたい会社は非常に多いので、売り手市場になる。

 

その場合、業界によってM&Aに適したタイミングは異なっている。例えば業界が成長期にある場合、M&Aをポジティブな選択肢と捉えさらなる成長のきっかけとすることが可能だ。従業員10人の会社で20人分の仕事が来ても受けることはできないが、20人の社員がいる他社と一緒になって、30人体制になればもっと大きな仕事を取れる。逆に、ガソリンスタンドや家電販売業界など成熟度が高い業界では、再編が完了し大手企業に集約されているので、M&Aは活発には起こらない。

 

 

戦略的M&Aのタイミングを知る

 

再編過程の事例としては、医薬関連がわかりやすい。医薬品卸業界はかつて約350社存在したが、現在ではおおむね4社に統合され業界再編は完了したといえる。隣接業界であるドラッグストア業界は、少し前の時期にM&Aが盛んにおこなわれており、いまは再編の最終局面で業界上位10社のシェアが70%近い。通例、業界の上位10社のシェアが50%に到達する前後に、各県トップの会社の売却が盛んになる。実際ドラッグストアは2013年に一斉に売却された。いずれも年商300億~400億円の地場の名士企業で、以前は買い手だった会社である。

 

業種のライフサイクルは、導入期、成長期、成熟期、最終(衰退)期の四つに分けられる。上位10社のシェアが約10%になると成長期に入り、業界再編が始まる。成熟期はシェア約50%から。シェアが約70%まで進むと、最終期入りで上位10社の統合が始まる。これを私どもは「50:70の法則」と呼んでいる。

その法則に従えば、調剤薬局はいよいよ成長期に入る。アインファーマシーズ、日本調剤、クオール、総合メディカルが大手の調剤薬局は、上位10社で現在10%程度のシェアしかない。シェアが大きくなっていくと、「なの花薬局」などといった薬局ブランドで選ばれる時代に変わってくる。国は在宅介護・医療を推進し、「かかりつけ薬局」の質も向上させようとしている。6年制卒の薬剤師の争奪戦も加わり、調剤薬局は淘汰や売却の方向へと加速されそうだ。まだ10年はM&Aが続くとみられる。

 

 

IT・ソフトウエアや人材派遣業界でも再編が盛んである。日本で一番M&A件数が多いのがIT・ソフトウエア業界で、第2次再編時代に入った。第1次再編時代には、技術革新への対応のため、大企業がIT子会社をIT専業会社に譲渡していた。その結果大手4社への集約の流れができ、大手はその後海外企業の買収に動き出している。現在の第2次再編は、中堅クラスの会社同士が集合している。年商2億~10億円の会社が好機と見て、2倍~10倍程の規模の会社に売っていく動きであり、少なくともあと5年は増加傾向が続く勢いだ。

 

人材派遣業は、登録者の獲得コストに左右されるビジネスモデルである。高額給与者は著名な派遣会社に登録していくので、規模の大きくない会社はほかの派遣会社からの融通で人材を獲得してきたが、このモデルも難しい局面を迎えている。また大企業の人材派遣子会社による自社派遣も50%以上はできないという制限があるため、グループから人材派遣子会社切り離しも、M&Aの動きを促している。

 

 

業界再編期こそM&Aのベストタイミングである。高く売れ、買い手先のグループの中でもいいポジションになれる。「圧倒的高値の売却」と「会社の飛躍的成長」を実現するためには、業界のタイミングを見極め、戦略的に動いて相手を選ぶ必要がある。

業界再編部 物流業界支援室

宮川 智安

群馬県出身。実家は七代続く水産業の卸売。早稲田大学卒業。大学時代は競走部に所属(400mで全国IH準決勝)、2020年新卒で日本M&Aセンターに入社し、全国の物流業界を専門にM&A業務に取り組む。

群馬県出身。実家は七代続く水産業の卸売。早稲田大学卒業。大学時代は競走部に所属(400mで全国IH準決勝)、2020年新卒で日本M&Aセンターに入社し、全国の物流業界を専門にM&A業務に取り組む。

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