建設・住宅不動産・設備工事業界

【2019年】建設業界のM&A総まとめ

過去最高成約件数を連続更新!更に活発化する建設業界のM&A

2019年における建設業界の当社M&A成約件数は11月末時点で102件と前年の83件を22%以上も大きく上回る増加を見せ、今年も昨年から引き続き建設業界は好景気に沸く一年となりました。

 

オリンピックという巨大な建設需要や、自然災害の多発による復旧工事需要の増加等、建設需要を増加させる出来事が起きた一方で、建設業界の働き方改革導入による厳しい残業規制、そして引き続き深刻な就業人口の激減という業界課題もこれまで以上に目立つ年となりました。

 

建設業界はまさに大変革時代の真っただ中にあります。その中で業界プレーヤーがどのような目的を持って、どの様なM&Aを実施しているのか、この一年間の動向を振り返りたいと思います。

 

2019年の一年間だけで当社宛に譲渡相談を頂き、具体的にお相手探しを始められた建設会社数は177社、売上は数千万円から数十億円と様々な規模の建設会社がこのタイミングでの会社譲渡を決意し実施しました。

 

譲渡理由としては、後継者不在、行先不安、早期引退、成長戦略と様々であるが、本当に注目すべきは「なぜ景気の良いこのタイミングで会社を売るのか」という点です。直近3年間で純資産、キャッシュがしっかりと積み上げられ、依然として収益性が高い会社を譲渡するのは気分なのか、戦略的なのか。

 

これに対する答えは、「会社は戦略的な計画がない限り、どこも引き受けてくれない」ということです。このロジックは後程しっかりと説明していきます。

2019年における業種別の成約割合

建設業界での当社M&A成約件数が過去最多ですが、29ある建設業界のどの業種が割合として多いのかを見て行きましょう。

 

2019年度、11月末時点における各業種の業界全体に占める成約割合としては、管工事、ゼネコンそして測量設計が他業種に比べて多く各11%程度(業界全体の33%を占める)、次いで電気工事、土木工事、そして鉄筋・鉄骨が各7%程度(業界全体の21%を占める)、その他はそれぞれ2~4%でした。

 

M&Aは相手がいて初めて成り立ちます。娯楽品を売り買いするのではないのですから、相手に必要とされて初めて成約が実現するのです。

 

これは売手買手両方に言えることで、この観点からいうと建設業界の成約業種は今建設非常において必要とされる割合が高い業種であると考えられるでしょう。

 

日本はインフラの老朽化が進んでおり、維持修繕が行われやすい管、市場のシェアそのものを獲得する為に必要なゼネコン、そして河川道路トンネル等社会インフラの調査・測量・設計を行う企業が3トップでした。

 

次いで全ての設備工事の根幹に必要な電気、水道本管や通信機能というインフラ工事に付随する土木工事、そして構造物の根幹を担う鉄筋鉄骨が4~6位となりました。

 

これを見て分かる通り、今年の建設業界におけるM&A成約会社は社会のインフラ機能に関連する業種が主です。

 

売手買手間の立場の逆転、売手が交渉力を持ったM&Aの構図

 

M&Aが行われる際、多くの場合売手買手のどちらかが他方を選ぶという構図になります。2019年の建設業界はどのような構図が多かったのかを見ていきましょう。

 

従来、建設業界のM&Aは買手が売手を選ぶという構図でした。つまりM&A実施時の価格を含む諸条件の決定において買手側が優位性を持っていたのです。2019年度における建設業界の当社M&A成約事例では、売手買手の立場は逆転しており、売手側が強い交渉力を持つM&Aの実施が目立ちました。

 

この要因大きく2つあり、①高い収益性と②買手が有さない技術やノウハウの存在である。実際に私が携わった成約事例のうち2件は売手1社に対し最終的な買手候補が複数社名乗りを上げ、交渉過程を経て売手に優位な諸条件が作り込まれていきました。

 

勿論買手はこの条件に納得した上で成約をします。

 

1社は2社の買手候補が競合関係になり、もう1社は3社の買手候補が競合関係になった。いずれの場合もその中の1社が成約を実現したのであるが、売手にとって候補先の選択肢が複数あるという事は非常に望ましい。

 

 

価格やM&A実施後の運営体制等含むM&Aの諸条件はやはり売手にとって好条件が提示されやすいのが現在の建設業界におけるM&Aです。

 

好景気の仕組みを理解することの重要性、オリンピックが生み出している好景気が

前述の通り、ここ数年の間建設業界は好景気に沸いており、市場は需要過多の状態です。今どの建設会社にインタビューを実施しても、どこも仕事がありすぎて、施工管理技士が足らずに仕事を断っている状態なのです。

 

つまり純資産がしっかり積み上がっていて、収益性が高い財務状況です。これにはオリンピックという巨大な建設イベントが関係しています。

 

良く勘違いされるのが、自分たちはオリンピック関連の受注は受けていないから建設業界の好景気はオリンピックとは無関係だという理論があるが、これは正しくありません。

 

オリンピックの様な大きな建設イベントがある時期は、大手やその協力会社の施工能力がそのイベントに集中し、中小規模の工事までは取りに行かない状況となる為、中小企業が大手の手が回らない工事を受注出来ているのです。

 

これにより今中小企業は高い収益力を保持しています。しかしながらオリンピックの様なビッグイベントが終わると、大手グループとその協力会社は全力で中小規模の工事を受注しに動くようになります。

 

そうなると今仕事が取れている中小企業はもう太刀打ち出来なくなり、収益性は低下、純資産が減少、いざ会社を譲渡しようとしても買手候補を見つけることが困難を極め、廃業しか選択肢がなくなってしまいます。

 

これが冒頭少し触れた「会社は戦略的な計画がない限り、どこも引き受けてくれない」という事の本質です。

 

M&Aは実施しようと思えばいつでも会社を売れるというものでは全くもってありません。5年後10年後の経営計画実現の為の障害となる課題を認識したその瞬間から本気で相手探しを始めなければ、瞬く間に交渉力を失うことになります。

 

だからこそ収益性が良い時にこそM&Aを実施すべきなのです。この超好景気が永続するわけではないという事実をしっかりと理解し受け入れ、M&A実施の時期が今であるという事が認識されるべきなのです。

災害時インフラ復旧の為の建設需要

2019年は近年のうちでも特に自然災害の多い年であったと言えます。自然災害の発生による深刻な問題としては国のインフラ設備の停止です。

 

 

インフラ設備を復旧するのは当然に建設会社です。10月に発生した台風19号、9月の台風15号、8月に発生した九州北部豪雨と福島県沖の地震、6月発生した山形県沖の地震、5月に発生した千葉県南部の地震、と宮崎日向灘の地震、2月に発生した北海道胆振地方中東部の地震、そして1月に発生した熊本県熊本地方の地震と、遡ると非常に多くの自然災害が発生しました。

 

 

このように自然災害が発生すると建設会社は復旧関連の受注を取れることとなります。実際に今年の自然災害による被害を受けた地域の復興工事を通じて収益性を高めた企業は多数あるでしょう。

 

この様に2019年の建設業界はオリンピックの建設需要と自然災害被害エリアのインフラ復旧工事という2点の好景気要因を享受した年であったと言えるでしょう。

 

ここで注意すべきは、これら工事需要があくまで一過性のものであるという事です。つまり今の高い収益性は自分たちの実力以上の財務状況であるという事です。

 

 

これを理解している経営者は何名いるでしょうか。この見極めを誤ると大きな経営判断の誤りを生み出すことになるので、慎重な分析が今こそ必要です。

 

社会インフラとして機能する大手通信工事会社による業界再編の加速化

これまで述べてきた通り、建設業界は社会インフラとしての機能を有する業界である。

 

2018年度の振り返りコラムでも、通信インフラから社会インフラと成長を遂げている通信大手3グループについて述べました。

 

具体的にはコムシスホールディングス、協和エクシオ、ミライトホールディングスの3グループです。

 

通信業界の業界再編が2018年度に完了した後、彼らはM&Aの実施を更に加速させ、継続的に隣接業種のグループ取入れを実施しています。

コムシスホールディングス事例
 北興産業
 北有建設
協和エクシオ事例
 ウィナー・エンジニアリング
 永和ビルテック
 永和メンテナンス
 北第百通信電気
ミライト事例
 東海工営、都建設
 トーエイ電気通信

この様に大手3グループは昨年から継続的に隣接業種のグループ化を進めていますが、彼らのテーマはやはり「インフラ」です。

 

インフラグループという存在として機能する為に何を強化すべきか、かれらは明確に分かっています。だからこそ目的達成の為にM&Aを実際に確実に実施するのです。

 

企業グループとして生き残る為に、隣接業種である電気、管などの設備工事、また設備工事を行う前段階で行われる土木・建設工事、また建設業界データトランスフォーメーション加速としてソフトウェア開発会社等をグループ化しています。

 

通信工事大手は既にインフラグループとして機能しており、今後もインフラグループとして建設業界を新たなステージへと導いてくれることでしょう。

 

建設業界のデータトランスフォーメーション

2019年に建設業界におきた大きな変化の一つとしてテクノロジー業界とのM&Aの活発化したことです。建設業界はデータトランスフォーメーションが急務です。

 

テクノロジーの取入れは人材不足や技術力の進化に直接的に関係する為、大手企業はテクノロジー分野の会社とのM&Aにかなり積極的です。

 

全体的なM&A成約件数自体はまだまだ数は小さいですが、2019年は明確な動きが見て取れました。設備工事業界でも特に積極的にIT関連会社とのM&Aに取り組んでいるのが通信工事大手の協和エクシオですが、2018年の公表事例では5社全てが建設会社であったのに対し、2019年に公表されている協和エクシオのM&A実施先5社のうち3社がIT関連企業です。

 

また橋梁の設計技術に強いJFEエンジニアリングはAIエンジン開発ベンチャーのAnyTech(日経XTech優秀賞受賞、IVS準優勝、楽天テクノロジー&イノベーションアワード 金賞受賞)をM&Aによりグループ化しました。

 

このように建設業界のテクノロジー分野との融合はことし明確な動きとして現れました。

 

「受注もう1件という壁(施工管理技士不足で受けたい仕事があっても受注が取れない)」

 

現在、日本全国健全な財務体制を有する建設会社では仕事がありすぎで受注を断っているという状況ではないでしょうか。これは受注を受けたくても技術者が不足して仕事を受けることが出来ないからでしょう。

 

建設業界の就業人口減少、人材不足は他業界に比べて特に深刻化している。1991年の就業人口は約1,181万人であったと言われますが、それがここ数年では約860万人と30%近く激減しているのです。

 

更に今後4年間で団塊世代大量離職に伴い更なる就業人口の激減、また大手を中心に2019年4月から導入が始まった働き方改革による一人当たり就業可能時間の激減という2つの巨大な課題が目前に迫っています。

この課題を乗り越えるには採用の為の巨額の費用、そして建設業界そのもののブランド価値を上げることの2つが必要なのです。

 

まず採用コストであるが、一般的に優秀な人材を採用する為の最低限の採用コストとしては、新卒1名につき約500万円、中途1名につき約800万円となり、仮にこれらの費用を投資して採用を行ったとしても、彼らが本当に会社次世代の担い手となるかは分からないところが怖い部分です。

 

次に業界のブランディングについてですが、建設業界そのもののブランド力は非常に弱いと言えるでしょう。例えばGAFAがいるIT業界は業界そのものが強いブランド価値を有する為、放っておいても人がどんどん入ってきます。

 

 

これはIT業界が創成期から今まで、業界のブランディングに巨額の投資をつぎ込んできた賜物であるのではないでしょうか。つまり建設業界はIT業界と比較するとこれまで業界のブランディングに力を入れてくることはなかったのではないでしょうか。

 

2019年建設業界のM&A動向振り返り、最善策を選択するタイミング(いつM&Aに取り組むべきか)

これまで述べてきた通り、2019年度におけるM&Aの動向を振り返ると、今会社をM&Aで譲渡を実現する会社は業界の今後の動向を的確に予測し、自身、会社、従業員の将来の為の最善策を取ったという事が分かります。

 

M&Aは検討を始めるタイミングが非常に重要です。これは前に述べた収益性と純資産が株価に直接繋がってくるからです。

 

最善の株価の評価が得られ、交渉力を持ってM&Aに取り組むことが出来ること重要性を理解し、そしてその意思決定が出来る優れた経営者の存在が建設業界のM&Aには大きく関連しています。

 

2019年に建設業界の当社M&A成約数が過去最多数となったことも、優れた中小企業の経営者による戦略的な経営計画の存在があるからこその結果でしょう。

業界再編部 建設・不動産業界支援室

高山 義弘

同志社大学商学部卒業。
在学中に外食事業会社の立ち上げに取締役として経営参画。2012年公認会計士試験合格、翌年より大手監査法人にて証券会社及びPEファンドの財務監査及び内部統制助言業務に携わる。その後大手M&Aアドバイザリー会社にて建設・不動産業界におけるM&Aコンサルタントの経験を経て日本M&Aセンターに入社し、建設業界のM&A成約に取り組む。

同志社大学商学部卒業。
在学中に外食事業会社の立ち上げに取締役として経営参画。2012年公認会計士試験合格、翌年より大手監査法人にて証券会社及びPEファンドの財務監査及び内部統制助言業務に携わる。その後大手M&Aアドバイザリー会社にて建設・不動産業界におけるM&Aコンサルタントの経験を経て日本M&Aセンターに入社し、建設業界のM&A成約に取り組む。