食品・外食

食品製造業界M&Aの歴史と未来予想図

私たちの日々の生活を彩る食品。一口に「食品製造業界」と言っても、その業種は多岐に渡り、農業から、食品加工(例えば、製糖、製麺、菓子製造、冷凍食品、健康食品など)、さらには飲料に至るまで、幅広く深く私達の生活に関わっています。

 

その中でもまずは「食品加工」のM&Aに注目し、その歴史や最近の動向に至るまでご紹介します。

 

※食品加工業界売上高ランキング(SPEEDAより日本M&Aセンター作成)

 

食品加工業界のいま

 

100年ライフの時代が到来。健康食品や機能性食品の需要増

 

まずは食品加工業界の売上高ランキングを見てみると、首位の大塚HDは機能性食品の「ポカリスエット」を主力商品としており、2位の明治HDも子会社で医薬品事業を展開しています。

 

日本水産はEPAなど水産資源由来の医薬品原料・機能性素材事業も展開し、森永乳業も機能性食品の強化に取り組んでいます。

 

所得の2極化が進むなかで、富裕層向けの高付加価値な商品が比較的堅調であることや、100年ライフと言われる高齢社会において、健康ニーズが高まっていることなどが背景と考えられます。それに伴い、健康食品関連のM&Aは今後活発になることが予想されます。

 

例えば、キユーピーは2017年4月に、大腸検査食市場での販売シェア約3割を目指して、ニュートリーから大腸検査食の営業権を取得し、全4品の販売を開始しています。

 

さらに、2019年3月には、今度はキユーピーが、病院・施設向けに展開している経管栄養食(※口から食べ物を摂れない患者にチューブを通して栄養を補給する食品)の販売権をニュートリーへ譲渡し、キユーピーとしては経口栄養食の販売に特化していくことで、更なる発展を目指していくという決断をされています。

 

食の世界に国境はない。進むグローバル化の波に乗り遅れられない

 

ご存知の通り、日本では将来的な人口減少を背景に、大手各社は海外進出を積極的に行っています。味の素は現在海外売上比率が5割を超えていますが、味の素が初めてうま味調味料「味の素」の販売で海外進出をしたのは1910年でした。

 

それ以降100年以上に亘って各国の食文化に根ざした商品開発をしており、同じ調味料の「味の素」であっても、その国の好みに合わせて粒のサイズを変えるなど様々な工夫を行っています。

 

そのような味の素であっても、今後の方針として従来の成功モデルにとらわれず各地域に応じた事業展開を強化していくために、これからはM&Aも積極的に実施し、外部の事業基盤を活用することでスピーディに事業を展開していくことを発表しています。

 

急激に変化する世界において、その変化に対応していくためのM&Aは今後も活発になっていく見通しです。

 

外食離れは中食のビジネスチャンスとなるか

 

2017年の飲食店の倒産件数は過去最高を記録しています(帝国データバンク倒産動向調査)。その背景の一つと言われているのが、自炊や中食へとシフトする若者の存在です。

 

本格的な自炊ができない若者にとっても、近年の惣菜や冷凍食品のクオリティの高さから手軽に自炊ができる環境が整ってきており、中食市場は8年連続で市場が拡大、2017年にはついに市場規模が10兆円を突破しました。

 

 

そのような流れのなかで、大手企業は自宅で食べられる菓子や惣菜などを製造する企業を譲受けたり、自宅での食事に対応すべく宅配事業を行う企業を譲受けるなど、M&Aを通じて中食へ対応していくケースが増えています。

 

食品製造業界のM&Aの歴史~未来

 

ここまで食品製造業界の今をご紹介してきましたが、ここからはよりM&Aに特化して食品製造業界の歴史から未来を考察していきたいと思います。

 

初期のM&Aは財閥間のシェア争い

 

M&Aという言葉は最近のように聞こえますが、食品製造業のM&Aの歴史は明治にまで遡ります。当時の状況を考えますと、明治政府が成立するまでの210年間も鎖国が続いていた日本は遅れを取り戻すためにも、自ら積極的に産業を起こす「殖産興業政策」を推進していました。

 

しかしながら、資源の乏しい日本では、原材料を輸入し製品を加工・輸出して外貨を稼ぐ必要があったことから、政府によるテコ入れのもと財閥が中心となって貿易商社が設立され、財閥の力はより強固なものになっていきました。

 

1886年(明治19年)には物価の安定と低金利による金融政策から、いわゆる「企業勃興」と呼ばれる株式会社設立ブームが起き、この前後で多くの企業が成立します。

 

1885年には“キリンビール”の前身である「ジャパンブルワリー」、1889年には“アサヒビール”の前身である「大阪麦酒株式会社」、1893年には“ヱビスビール”を生産していた「日本麦酒」、1899年には“サントリー”の前身となる「鳥井商店」が成立しており、日本がビールを輸入から自国生産へとシフトしていく変革期を迎えました。

 

時を同じくして、1888年に現在の“ホテルオークラ”や“大成建設”を生んだ財閥の「大倉組」による“サッポロビール”の前身である「札幌麦酒醸造所」の譲受が行われ、これが初期のM&Aの1つに挙げられると考えられます。

 

こうした大手資本のビール産業への参入により、個人事業主の多くは大規模な生産体制の構築ができず、多くが撤退へと追い込まれ、大手同士でも競争は激化していきました。

 

特に三井系であった「日本麦酒」は経営が厳しくなり、三井物産の重役であった日本麦酒の馬越恭平社長は内閣に働きかけ、1906年に「国内の過当競争排除」と「輸出の促進」および「資本の集中化」を図るための政府による合併勧告を引き出したことで、ビール業界における業界再編が進み「日本麦酒」「札幌麦酒」「大阪麦酒」が合併し、市場占有率が約7割に達する「大日本麦酒株式会社」が誕生したのです。

 

現在の中国などもそうですが、国力を上げるためにも巨大な再編を行い、世界とわたり合える企業を創っていく過程が産業の成長過程では必要だったのかもしれません。

 

老舗の技術と味を後世に残す事業承継型M&Aの普及

 

現在の食品製造業界のM&Aのトレンドとして、大手企業を中心に海外案件を積極的に譲受されている状況は先述の通りですが、国内のM&Aにおいては後継者不在の老舗企業の技術や味を後世に残すための有効な手段として、M&Aが一般的になっているのも昨今のトレンドと言えます。

 

2018年5月28日の日経新聞朝刊では、2017年度に倒産、休業した企業数が過去最多に上った背景は「経営者の高齢化と後継者不足」であり、さらに廃業予定の中小企業の3割が「他社と比べて業績が良い」と答えているという調査結果が報告されています。

 

それを受け、老舗企業を含めた中小企業の事業を存続させるための動きが活発になってきたことが一般化した背景となっております。

 

先に業界再編が進んでいた食品卸業の企業が他社との差別化を図るために、老舗で優れた技術を持つ食品製造業を譲受するケースが出てきており、例えば、南九州最大手の業務用食品卸売事業者である「西原商会」は、1948年創業の老舗製麺事業者である「五島製麺」を2018年に譲受されています。

 

五島製麺は全国でも珍しい低温熱成冷風乾燥での製法により高い品質を確保しており、これにより西原商会は自社の販売ルートに乗せることが出来る強い商材を獲得することができました。

 

SNS × スモールマス市場。最新の食品製造M&A

 

今後も国内の人口減少を受けての海外進出や、高い技術や収益力がありながらも後継者不在の企業を存続させるためのM&Aは、よりいっそう活発になっていくことでしょう。

それでは、その他に、どのようなM&Aが増えてくるのでしょうか。

 

食品製造業は商品の差別化が容易ではなく、またせっかく良い商品ができてもプロモーションにもコストがかかります。しかしSNSが発達する中で、一部のビジュアルや味に優れた商品が大きな話題を集めることができるようになったというのは最近の環境の変化と言えるでしょう。

 

SNSの普及やビッグデータ解析の技術進展で、消費者の年齢層や性別、所得水準などによって多岐にわたる好みや嗜好に合わせた商品開発が可能になってきており、花王が2015年ごろから「スモールマス市場」と呼びマーケティングなどに生かし始めています。

 

マス(大多数)ではないものの、一定の規模の市場が見込める消費者の層や集団をさす言葉ですが、共鳴するファンを持つ一定規模の市場は無数にあり、不特定多数に向けた量産型のマス市場の対極にある市場と言えます。

 

この市場に対する商品として、食品製造業界でも例えば2017年に投資ファンドのジャフコが、バルセロナ発祥のアート・キャンディ・ショップ「PAPABUBBLE」を譲受されました。PAPABUBBLE のキャンディは、口の中でほろほろと溶けていく食感や、ほんのり香る上品な甘さがあり、また季節の変化に合わせ材料の配合や熱加減を調整することで光沢を出しており、まるで宝石のようなビジュアルをしています。

 

さらに、ショップでは、職人が手作りでキャンディを作っている姿を見ることができます。大きな鍋 から出てきた液体をボードの上に流し、豪快に練り・伸ばし、鮮やかにカットしていきます。そのパフォーマンスを間近で見られるショップは、さながら小さな劇場のようであると言われておりSNSなどでも話題のショップになります。

 

「アート・キャンディ」のような特定のスモールマス市場に対して、ブランド力のある商材の価値は、付加価値も高く、プロモーションが自然発生的にも起きやすいことから高い収益性に繋がる可能性があります。

 

こうしたブランドをゼロから創りあげることは当然難しく、M&Aで譲受されることは非常に大きなメリットがあると言えます。

 

また、譲渡される企業にとっても、SNSなどで急拡大するにつれ、自社だけでの管理体制に限界が訪れるケースも多いですので、より大きな資本と組むことで成長を加速させていくことができます。こうしたM&Aがこれから増えてくるのではないかと想像されます。

業界再編部 食品業界支援室

渡邉 智博

1983年9月、宮崎県生まれ。 慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで法人営業やグループマネージャーなどを経て、㈱日本M&Aセンターに入社。食品業界支援室では食品製造業を中心に、中堅・中小企業から上場企業まで全国のM&A支援に取り組んでいる。

1983年9月、宮崎県生まれ。 慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで法人営業やグループマネージャーなどを経て、㈱日本M&Aセンターに入社。食品業界支援室では食品製造業を中心に、中堅・中小企業から上場企業まで全国のM&A支援に取り組んでいる。