IT・ソフトウェア

2020年4月迄のIT業界のM&Aについて

新型コロナで揺れる2020年1-4月のIT業界M&A概況は?

2020年の国内IT業界の1-4月のM&A件数は334件でした。昨年2019年の1-4月は359件であり、前年度から僅かに減少しています。新型コロナウイルスなどの影響も考えられますが、件数は依然として全業種中最も多く、引き続きIT業界のM&Aは活発と言えるでしょう。

 

             出典:レコフM&Aデータベースより、当社作成

 

 

象徴的なM&A成約事例(プラットフォーマー)

2020年の4ヶ月間の間にも様々な企業間のM&Aが成約しています。その中で、象徴的なM&A事例を2件見ていきたいと思います。

 

①メルカリ(メルペイ)×Origami

2020年1月23日、株式会社メルカリ(以下メルカリ)はスマートフォン決済サービスのOrigami Payを運営する株式会社Origami(以下Origami)の孫会社化を発表しました。買収したのはメルカリ子会社で、Origamiと同様スマートフォン決済サービスを行う株式会社メルペイ(以下メルペイ)です。両者は今後Origami Payをメルペイに統合させる予定であり、スケールメリットだけに留まらず、独自の価値を提供するとしています。

 

現在、スマートフォン決済サービス市場は様々な企業が相次いで参入しており、戦国時代の様相を呈しています。各社が顧客を獲得するため、熾烈な争いを繰り広げており、具体的には加盟店へ無料での機材提供や、ユーザーへの還元施策等です。

 

 

出典:各社決算発表資料より当社作成

 

 

プラットフォーム型のITサービスにおいては顧客を獲得し、マーケットシェアを獲得することが非常に重要となります。そのため、スマートフォン決済サービスに限らずですが、多額の販売促進費用投じ、一気にマーケットシェアを拡大する戦略が有効となります。

本件譲渡企業であるOrigamiも、これまで約88億円の資金調達を成功させており、利益よりも成長スピードを優先した経営を行ってきたものと思われます。

開示されているOrigamiの業績を見ると、2016年以降、売上と共に営業赤字が拡大していることがわかります。

 

出典:Origami決算発表資料より当社作成

 

売上2億の企業が88億円の資金調達に成功しているのは特筆すべき点です。Origamiの戦略は非常に優れたものであったのでしょう。但し、その後PayPay(ソフトバンク系列)、メルカリ、LINE等豊富な資金を有する企業の参入が相次いだため、単独での成長路線から舵を切り、メルカリと合従連衡しながら成長する道を選択したものと思われます。

現在、様々な企業がスマートフォン決済サービスを展開していますが、最終的には数社に集約されていくものと考えられます。スマートフォン決済サービスは登場から僅か数年という非常に新しいサービスですが、既に業界再編が起こりつつある業界と考えられます。

 

出典:Origami決算発表資料より当社作成

 

②LINE×出前館

2020年3月27日、LINE株式会社(及びLINE関連会社)はデリバリーサービス『出前館』を運営する株式会社出前館(旧社名:夢の街創造委員会)との資本業務提携を発表し、LINEグループが出前館の株式の約60%以上を保有することとなりました。

実は両社は2016年10月から資本業務提携を行っており、その際にLINEが出前館の約22%の株式を取得していました。LINEも出前館と同類のフードデリバリーサービスである「LINEデリマ」を提供しており、両社はユーザーの相互顧客などを行っておりました。

出前館の決算説明資料によると、本件資本業務提携の狙いは出前館の成長を加速させることであり、具体的には以下の4点と説明がされています。

①LINEデリマの出前館へのブランド統合と、LINE IDの活用

②成長投資のための資金調達

③システム開発・マーケティング体制の強化

④テイクアウト領域への進出

※LINEの提供するテイクアウトサービスであるLINEポケオは出前館に事業譲渡される予定

 

本件資本業務提携もメルペイ×OrigamiのM&Aと同様、合従連衡してプラットフォームのマーケットシェアの獲得を目指したものと考えられます。背景には今回提携したLINEをはじめ、Uber(Uber Eats)、楽天などの大手企業が続々とフードデリバリー市場に参入をしていたことが挙げられます。

ここで出前館の財務数値を見てみましょう。

2020年2月(第2四半期)の売上は増加基調である一方、約10億円の営業損失となっています。理由は販売管理費が急増していることであり、広告宣伝費や販促支援費増によるものです。

つまり、資料のある競合他社が足元の採算度外視でマーケットシェアを拡大する戦略を採ったため、出前館も追随せざるを得なかったということがわかります。

 

出典:出前館決算発表資料より当社作成

 

出前館はフードデリバリー市場では最大手であり、単独で成長を目指す戦略を選択する道もあったと思います。しかし、限定的な市場を消耗戦で奪い合うのではなく、競合と強調する戦略を選びました。LINEは日本最大のコミュニケーションアプリを保有しており、LINEとの提携によってLINEのユーザー全てを囲い込むことが可能となります。

また、LINEの資本力をもって、出前館がマーケットリーダーとして、再編を主導していく可能性もあることでしょう。

 

大手企業も合従連衡する時代へ

今回紹介した出前館のように、上場会社であっても成長戦略のために他社との協調を選ぶことは珍しくありません。また、今後Uber Eatsのような外資企業が日本へ参入することも増えていくことでしょう。IT企業の経営者は業界の再編に備え、どのような戦略を採るか様々な選択肢を検討することが重要となってくるものと考えられます。

業界再編部 IT業界支援室

田中 菖平

上智大学経済学部卒業後、日本M&Aセンター入社。業界特化型の業界再編部の立ち上げ時から在籍。現在はITソフトウェア業界を担当し、事業承継支援、スタートアップ・ベンチャー支援、上場会社のアドバイザリー業務、ファンドのバイアウト支援など幅広いM&Aの支援実績がある。

上智大学経済学部卒業後、日本M&Aセンター入社。業界特化型の業界再編部の立ち上げ時から在籍。現在はITソフトウェア業界を担当し、事業承継支援、スタートアップ・ベンチャー支援、上場会社のアドバイザリー業務、ファンドのバイアウト支援など幅広いM&Aの支援実績がある。