M&A全般

『新・観光立国論』M&Aコンサルタントが経営者に推薦する1冊

2017年の日本政府観光局の統計によるとインバウンド(訪日外国人)の数は年間約2,870万人に達しており、東京オリンピック開催が決定した2013年の年間約1,000万人から3倍近くの規模へ拡大をしています。

 

今回紹介させていただく「新・観光立国論 デービッド・アトキンソン著(東洋経済新報社)」は2015年に発刊されています。

2019年現在、本書で予測していた観光業の成長について、いくつも実現していることがあり、彼が唱えていた説の答え合わせをすることも非常に面白いです。

 

経営者の方には事業の中長期計画をお考えの際に、10年後の観光産業の未来まで示している本書が役立つのではないでしょうか。

 

『新・観光立国論』の要約・あらすじ・特徴

日本の成長の鍵は「短期移民=外国人訪問客」を増やすこと

少子高齢化が一層進み並行して人口の減少という構造的な問題を抱えた暗い未来予測の中で、日本が大きく成長する要素があります。

それは「短期移民=外国人訪問客」を増やすことによる新たな50兆円市場の開拓をすることです。

 

日本は世界の名だたる観光大国と肩を並べる資源を持っており特に重要とされる4大要素「気候」「自然」「文化」「食事」が整っています。

観光事業の市場規模が日本の倍以上の規模を誇るフランス・イタリア・中国といった国々と同じ条件を持ち合わせています。

 

それにも関わらず日本のインバウンドの数は本書発行時は世界26位と遅れをとっておりその原因を指摘しています。
※なお2017年は世界12位(日本政府観光局HP)まで浮上しています。

 

独りよがりの「おもてなし」を脱却

オリンピック誘致の際の映像でも多用された「おもてなし」は未だに記憶に新しく日本の強みであると我々自身は思い込んでいる一方で、実際のインバウンドから見ると満足度の高さにつながるサービスとはポイントがずれています。

 

例えば日本は良かれと思って時間に正確な交通インフラや安全性の高さをPRすることが多いのですが、当のインバウンドからするとそのこと自体に価値を感じることは少なく、交通費がそもそも高いことに不満を持つようです。

 

他にも世界共通の電子マネー、クレジット決済に未対応な場所も多く、独自の進化(ガラパゴス化)ばかり進んでいます。

 

ここから言えることは日本の観光は顧客目線のサービスが提供できておらずサービス提供者のご都合主義に陥っていることが問題であり、そのような指摘から我々は目を背けているかもしれません。

 

稼ぐ観光とは何か

せっかく日本に来てくれてもインバウンドが金を落としていないのは、落とさせるための高品質なサービスが不足しているからと言えます。

 

日本の観光業の多くは大量のバスを受け入れる観光ツアー型の集客を前提とした設計となっています。
また「かき入れ時」と称されるように旅行の時期が集中することも日本の特徴です。

 

大量集客を前提とした旧態依然の考え方では高単価なサービスを提供することはできません。
日本の資源を活用しながら顧客主義へシフトすることが必要です。  

 

また、世界の超がつく富裕層が泊まるような1泊400万円から900万円のホテルが日本にはありません。金融資産30億円以上を持つ人は世界に17万人いると言われています。彼らを日本に呼び込む視点そのものが欠けています。

 

『新・観光立国論』を推薦する2つの理由

「観光」は市場規模50兆円の可能性を持つ成長産業

現在の日本の業種ごとの市場規模は1位の建設業界で56兆円、2位で43兆円ですので、本書で提唱されるように50兆円の市場規模を実現の際には国の根幹となる事業の一つと言えるでしょう。

 

関わる業種業界は多様でありサービス業、飲食業、小売業に限らず経営者の方のご自身の領域との関連を様々な形で追求することができると思います。

 

著者は「冷酷」と評価されながらも日本の限界と未来を示した

デービッド・アトキンソン氏は1990年代のバブル期にゴールドマン・サックス証券金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集めました。

 

当時は「日本を貶めるホラである」「あなた日本が嫌いなんですか?」といった心無い誹謗・中傷も多く、国全体もその危機を受け入れる雰囲気がなかったそうです。

 

しかしその後は彼が提唱していた内容の正しさが証明されていき、ついには日本では2000年代初頭にメガバンクの再編にまで至ることとなりました。

 

このことをデービッド・アトキンソン氏は日英の文化の違いから下記のように述べています。
「イギリスでは議論や人の指摘をする場と感情とは全く別の物として子供のころから訓練をしています。議論の内容と相手の人格や人間性とを切り離して考えることが双方できないと、都合の悪い事を受け入れることができないでしょう。」

 

経営者の皆様は部下の方々とどのような議論を重ねていらっしゃるでしょうか。冷酷と称されるような発言も大切にする環境は、意図的に作る必要があるようです。

 

(最後に)
本書は「観光」という日本の数少ない成長要因に焦点を当てつつグローバルな視点から日本企業の弱点とその対策を示しています。

 

著者はその後も日本の将来を予測する書籍を複数出版されていますが、それらの原点と呼ぶべき一冊『新・観光立国論』をお勧めさせていただきます。

業界再編部 調剤薬局業界支援室

木藤 直樹

早稲田大学政治経済学部卒業後、財閥系不動産会社で商業開発に従事。現在は首都圏エリアの調剤薬局・ドラッグストアのM&Aを担当している。

早稲田大学政治経済学部卒業後、財閥系不動産会社で商業開発に従事。現在は首都圏エリアの調剤薬局・ドラッグストアのM&Aを担当している。