M&A全般

コロナ禍におけるM&A

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、様々な業界に影響が出始めています。IT業界のM&A市場にはどの程度の影響が出ているのでしょうか。
影響が本格化し始めた2020年3月・4月のM&A件数はそれぞれ92件・85件でした。一方、前年2019年の3月・4月は96件・91件であり、微減しているものの、現時点では大きな影響は現れていません。

 

                                                                                      出典:レコフM&Aデータベースより、当社作成

 

 

また、新型コロナウイルスの影響が顕在化する前の2020年1月・2月M&A件数は63件・94件なので、やはり大きな変化が見られないことがわかります。
但し、コロナ禍の影響によりトップ面談やデュー・デリジェンスの実施が困難となり、ディールの遅延が発生する可能性もあるため、今後の動向は注視する必要があります。
実際、筆者が接しているIT経営者の声として、大型プロジェクトの延期や縮小、SES業界では6月末での契約終了案件が増えていることを聞くようになりました。上記、経営へのインパクトが遅れて顕在化する可能性があり、注視が必要と考えらえます。

不況時におけるM&A

・株価について
通常、不況時のM&Aにおける株価(評価額)は理論上下落する傾向にあります。上場企業の株価が下落し、それに伴い未上場企業においても評価の際の指標となるEV/EBITDA倍率等が下落するためです。

 

                                                                出典:レコフM&Aデータベース及びSPEEDAより、当社作成

 

 

日経平均株価と上場会社が対象となったM&A案件のEV/EBITDA倍率をみると、概ね相関関係にあることがわかります。但し、株価は相対的なものなので、多くの企業業績が悪化する中、好業績を出すことが出来れば平常時よりも高く評価される可能性もあります。

次に、意思決定の観点から考えます。まず譲受側意思決定において、好況時と比較し投資を抑制する企業と、積極的に投資を検討する企業の差がより鮮明となります。前者はM&Aをリスクと捉える考え方ですが、後者はM&Aを危機を乗り越えるための手段と捉える考え方です。
一般的にはリスク回避的な企業が多くなる一方、一部の企業ではM&Aニーズが強くなります。結果として全般的な株価は下落する傾向となりますが、一部の企業(後者の企業のニーズに合致する企業)についてはやはり平常時よりも高い評価を受けるケースなども現れます。

 

・件数について
過去の実績では、不況時は好況時と比較しM&A件数が減少する傾向が見て取れます。2008年にリーマンショックが発生した際は、M&A件数は大きく減少しました。その後、2011年に発生した東日本大震災の影響もあって、復調にはリーマンショック後約3年の歳月を要することとなりました。しかしながら、その間も継続的に年間1,000件を上回るM&Aが成約しています。前述の通り、不況時には株価が下がる傾向があるため、戦略的に譲受を検討している企業にとっては好機となるのです。

 

                                                                                                          出典:レコフM&Aデータベース及びSPEEDAより、当社作成

 

IT企業の経営者と接している筆者の感覚としては、コロナ禍の影響はM&A件数には限定的と考えています。
譲受を検討している企業からは、この機を活かしてM&Aを積極的に検討していきたいという相談が増えているように感じています。逆に譲渡側オーナーについては、平時から考えている自社の存続・成長発展について、危機を乗り越えるために早期のM&Aを決断する方が多いように感じます。

不況時にM&Aを成約させ成長してきた企業

不況時でもM&Aを積極活用して成長を実現させてきた企業は数多くあります。次の図はリーマンショックの際の不況時(2008年9月~2012年12月)のIT企業の買収(子会社化)件数上位企業です。多くの企業が積極的にM&Aを成約させていたことがわかりますが、
中でもNTTデータは4年3ヶ月の間に国内だけで10件のM&Aを成約させています。

 

                                                                                                   出典:レコフM&Aデータベースより、当社作成

 

リーマンショック以前から現在に至るまで、NTTデータは国内で15件のM&Aを成約させていますが、そのうち10件(2/3)がリーマンショック後の不況時に成約していることがわかります。つまり、長期的な成長を見据え、不況を乗り越えるためにM&A戦略を実行していたということが伺い知れます。

 

出典:NTTデータ決算資料より当社作成

 

また、不況時は業界再編が活発化するという側面もあります。リーマンショック後も、多くの業界で業界再編型のM&Aが相次いで起こりました。IT業界においても、国内のIT投資が減退する中、合従連衡し、業務効率を向上させる狙いがあったものと思われます。NTTデータが10件ものM&Aを成約できた背景には、譲渡側から戦略的に資本業務提携を持ちかけた可能性もあるのではないでしょうか。IT業界は業界再編の動きが活発化している業界の一つですが、今後新型コロナウイルスがもたらす不況によって再編が活発化する可能性があります。

最後に

景気は循環するものなので、やがて来る不況の収束、そして経済の上昇局面に向けて積極的にM&Aを検討するのは合理的な選択のように思います。不況時は一過的に先の見通しがつき辛いタイミングですが、こういった危機の時こそ長期的なM&Aの戦略を立てられてはいかがでしょうか。

業界再編部 IT業界支援室

田中 菖平

上智大学経済学部卒業後、日本M&Aセンター入社。業界特化型の業界再編部の立ち上げ時から在籍。現在はITソフトウェア業界を担当し、事業承継支援、スタートアップ・ベンチャー支援、上場会社のアドバイザリー業務、ファンドのバイアウト支援など幅広いM&Aの支援実績がある。

上智大学経済学部卒業後、日本M&Aセンター入社。業界特化型の業界再編部の立ち上げ時から在籍。現在はITソフトウェア業界を担当し、事業承継支援、スタートアップ・ベンチャー支援、上場会社のアドバイザリー業務、ファンドのバイアウト支援など幅広いM&Aの支援実績がある。