コラム

M&Aのその後「勇気あるM&Aで会社と社員の未来を繋ぐ」 (未来工房亞主のケース)

竹葉 聖

著者

竹葉聖

日本M&Aセンター 業種特化1部 チーフマネージャー/IVS2023 LAUNCHPAD KYOTO 審査員

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株式会社未来工房亞主 代表取締役 馬場孝治氏(譲渡企業/写真左)
株式会社チェプロ 代表取締役 福田玲二氏(譲受企業/写真右)

株式会社未来工房亞主

  • 設立・創業:1994年
  • 従業員数:13名(2019年7月時点)
  • 事業内容:SES事業
  • 売上高:約1.2億円(2018年6月時点)
  • 譲渡理由:事業成長のため

株式会社チェプロ

  • 設立・創業:1997年
  • 従業員数:40名
  • 事業内容: 統合化ERPパッケージシステムの開発・販売
  • 売上高:8億3,200万円(2022年3月期)

はじめに

2019年9月、福岡県に本社を構える株式会社未来工房亞主は、鹿島建設などの建設業界向けのERPの開発を行う株式会社チェプロと友好的M&Aを実施しました。

M&Aを実施して約3年半以上が経過した今、M&A実行後から現在も代表取締役という立場で未来工房亞主社を牽引する馬場氏に話を伺いました。

未来工房亞主社の変遷

馬場氏は、高校3年生の時に「将来はコンピューターの世界で働こう」と決心しました。
その後、1983年に福岡工業大学通信工学情報専攻を卒業して、大手SIerにエンジニアとして新卒入社しました。4年ほど働いた後に、フリーのエンジニアとして福岡県内でCADの開発などに従事しました。

その後、1989年に知り合いのエンジニア5名と共に有限会社フリークリエイトシステムを立ち上げました。しかし、バブル崩壊の影響を受け、顧客を引き継ぐ形で未来工房亞主社を設立しました。
特徴的な社名は、ITによって未来を創造する場所を作りたいという意味を込めた「未来工房」と、システムで福岡の主になろうという意味の「亞主」を組み合わせたことに由来しています。

M&Aのきっかけ

馬場氏がM&A実行の最初のきっかけとなったのは、当社セミナーへの参加でした。
2018年当時、福岡のIT企業でもM&Aを進めている会社が何社かあり、直接「うちと一緒になりませんか?」と声を掛けてきてくれた取引先もいました。
それをきっかけに、「他にも譲り受けてくれる会社はいるのだろうか?」と考え始めました。

2010年頃からM&Aを含めて事業承継をどうするかは少しずつ考えていましたが、実際に行動に移したのはセミナーが初めてでした。当初M&Aに関心を持ったきっかけは、後継者不在のためでしたが、当時の事業内容はSESが中心であり、社員の平均年齢が上がっていく中で、採用においても課題意識を持っており、今後の事業成長に不安を覚え始めていました。

そのため、競争力のある自社プロダクトを保有している会社と提携することで、将来直面するであろう経営課題を克服し、安定した経営基盤を作りたいと考えるようになりました。

事業における変化

M&A実行後、SESが中心となっていた事業ポートフォリオは大きく変化しました。
現在は事業の約半分がチェプロ社のプロダクトの開発案件であり、新たに事業の柱ができたことで経営の安定性は強化されました。
SES事業についても更に拡大させていく予定であり、そこで経験を積んだ社員がプロダクトの開発に携わっていくという育成ルートを確立しつつあります。
現在は7名体制でプロダクトのカスタマイズを主軸にしながら、新製品の開発といった業務まで幅広くカバーしています。

ただ、事業の統合においては、苦労した場面も少なからずありました。
まず、SESは一年単位での契約やプロジェクトごとでの契約がメインであったため、M&Aをしたからといってすぐにアサイン先を変更するということは現実的ではなく、上手くタイミングを調整しながら進める必要がありました。

また、チェプロ社のプロダクトは建設業向けのシステムであり、業種特性のインプットが求められました。
その際に、チェプロの社員が講師として福岡に来て、1ヵ月間常駐体制で専門知識や技術のキャッチアップを支援してくれました。
上記のような取り組みの結果、結果的にスムーズに統合することができ、プロダクト開発に携わるという未来工房亞主社のM&A当初の目的の一つが達成されました。

採用面における変化

SESのみの事業内容から、プロダクト開発に携われる環境に変わったことで、採用にもプラスの影響が出てきました。
現在はエージェント経由、求人サイト等の媒体経由から採用を行っており、後者の割合が大きくなっています。
前期からは経験者採用のみならず、開発業務未経験者を採用し、育成する取り組みを始めました。

未経験者は採用後、まずはSES事業へのアサインを前提としていますが、経験を積んで技術やスキルが成熟してくると、将来的には自社プロダクトの開発に携わることも可能です。
具体的には、3ヵ月間の社内研修後に現場配属され、初めはテスト業務、SEの支援、保守・運用やヘルプデスクなどの業務を経験し、少しずつIT経験を積んでいきます。
そして、プログラマーを経て上流工程を担える人材へとステップアップしていきます。
これらの大きな事業内容の変化とキャリアパスが多様化したことで、応募数は大幅に増加しました。
 加えて、2022年1月に新築のビルにオフィスを移したことも、採用活動における新たな武器となっています。
元々未来工房亞主社が入居していたビルは、老朽化によって取り壊しが決まっていたため、長らく物件を探していました。
そして、昨年にようやく希望に沿った物件を見つけ、新たなオフィスに移転することができました。
以前と比べて2倍以上の広さがある上に、会議室は防音仕様であるなど、労働環境は格段に良くなりました。

このオフィスの選択においては、チェプロ社の福田社長の助言がありました。オフィス環境の改善は、採用活動だけでなく、社員のモチベーションアップにも大きく貢献しています。

M&Aを検討している経営者にお伝えしたいこと

馬場氏は、「経営者というのは自分のことよりも社員のことを第一に考えることが最も重要である」と語ります。
未来工房亞主社の場合、社員の高齢化や、同業他社との人材獲得競争などにより、将来苦労することが目に見えていたため、社員の未来のためにM&Aを決断しました。

現在、同じような課題を抱えている中小企業の経営者の方々も多いのではないかと思われますが、実際にM&Aを第一の選択肢として考えている経営者は多くはないのではないでしょうか。
馬場氏は、「M&Aをするタイミングは55歳程度、PMIも含めて60歳頃までに完了するようなスケジュールが理想的だ」と話します。実際に、経営者が急遽体調を崩してしまい、会社の経営が傾き、倒産となってしまったことで、大切な社員の方々やそのご家族にも迷惑をかけてしまったという声も耳にします。

馬場氏は最後にこう語りました。
「勇気を出してM&Aを決断するべき。何とかなるし、何とかしないといけない。」

著者

竹葉 聖

竹葉たけば きよし

日本M&Aセンター 業種特化1部 チーフマネージャー/IVS2023 LAUNCHPAD KYOTO 審査員

公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、2016年に日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして7年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年には京セラコミュニケーションシステム(株)とAIベンチャーの(株)RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISH、22年には(株)USEN-NEXTHOLDINGSと(株)バーチャルレストラン等を手掛ける。IVS2022 LAUNCHPAD NAHA及びIVS2023 LAUNCHPAD KYOTO審査員

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