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M&Aレポート

譲渡オーナーとの語らい Vol.5
株式会社Rist様(京都府・AIベンチャー)

2021.4.14

  • ベンチャー
  • IT

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 京都市の鴨川沿いに社屋を構える株式会社Rist社は、AIの画像処理技術のベンチャー企業である。同社は、2016年8月に当時25歳で京都大学大学院生だった遠野氏が起業した(後にRist社の事業に集中するため同学院は退学している)。
 起業から約2年後の2019年1月に京セラグループとのM&Aを実施した。M&A直後から現在までの話を聞いた。

メンバー

遠野 宏季

京都大学で化学を専攻する傍らで、医工連携領域の博士課程リーディングプログラムに参加し、 医学・介護へのICTの活用を模索する。その後、知人のAIベンチャーの創業期の立ち上げを経て、一般物体認識や心臓MRIなどの医療画像、時系列データの解析・システム開発に携わる。2016年8月、ICTや機械学習を始めとした各種科学技術を用いて社会課題解決に取り組む株式会社Ristを創業。2019年7月、Ristの代表取締役を引退。2020年6月末まで顧問としてRistを支援。

日本M&Aセンター 取締役 業種特化事業部長 渡部 恒郎

学生時代に起業を経験の上、2008年新卒2期生として日本M&Aセンター入社。2008年から2015年までの8年間で最優秀社員賞を3度受賞。M&Aプレイヤーとして、100件を超えるM&Aを成約に導き、同期間において中堅・中小企業M&AのNo.1コンサルタントとしてM&A業界を牽引してきた。2020年同社最年少で取締役に就任。

日本M&Aセンター 上席課長 IT業界支援室室長 竹葉 聖

公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして5年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年は京セラコミュニケーションシステム㈱とAIベンチャーの㈱RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISHのM&A等を手掛ける。

渋谷、センター街で起業家集め

(渡部) 今日はよろしくお願いします。遠野さんとのお付き合いは、ちょうど遠野さんが起業される前に、知人を介して相談があってお会いしたのが、初めてですよね?

(遠野氏) はい、そうです。渡部さんも僕と同じ京都大学出身で、学生時代に起業されていて、今は日本M&Aセンターでたくさんの起業家とお話していると聞いたので、知人を辿って紹介してもらいました。

(渡部) 「起業したいのですが、どうすればいいですか?」と、若干25歳の好青年が、真っ直ぐに質問してきたので、良く覚えています。確か当時は、『起業仲間募集!』と書いたダンボール片手に、渋谷のセンター街を練り歩いていたんですよね?(笑)

(遠野氏) はい、そうです(笑)。創業メンバーはセンター街では見つかりませんでしたが。

(渡部) 最初の出会いから2年後にまた再会して、次は会社をM&Aで譲渡をしたいと相談を受けました。

(遠野氏) はい、起業から約2年でDeep Learningを用いた画像処理分野で売上も立ってきたフェーズでした。ただ、事業の性質としてデータを持っている企業と連携してサービスのPDCAのスピードをもっと早めていかないとサービスが埋もれてしまう、という危機感がありました。もっと大きく展開するためには単独でやるよりも、既に市場に一定のシェアのある会社や販路を持っている会社と一つになって取り組むことが、このサービスを非連続なスピードで、いち早く広めるベストな方法だと考えるようになりました。

設立2年での京セラグループへの譲渡

(渡部) それで2019年の1月に日本M&Aセンターがお手伝いさせていただいて、京セラグループにジョインされましたよね。

(竹葉) 譲渡して2年以上経過していますが、状況はいかがですか?M&A前後でのギャップなどございますか?

(遠野氏) 当初は京セラグループと新しく何が出来るか考えることに大きく時間を割き、またこれまで属人的だった事務業務を見直し、グループ企業として稟議などの仕組みをすり合わせることなどを行っていました。ですがそれらはある程度想定されていたことでもあるので、M&A前後で大きな認識の違いはありませんでした。

(竹葉) 社長業という大きな枠組みでの変化はございますか?

(遠野氏) オーナー社長の時は数字の部分は自分が決めていたのですが、今はRistだけでなく親会社と合わせて事業計画を練ることが出来るようになったので、数値目標を議論しながら作っていくという感覚に変化したと思います。

(渡部) ベンチャーと大企業ですと数字の作り方、予測の仕方も違いますよね?その辺のギャップはありませんでしたか?

(遠野氏) そこはありましたね。大企業では安定したプロダクトがあり、過去の膨大な販売実績データがあるので計画も立てやすい、ただベンチャーのような新しい分野で、これでうまくいけば、どれだけ売上が取れるか?新しいサービスを出すけど、この問い合わせ件数はどれほどあるか?未知のマーケットの中での予測になるので、その辺はしっかりコミュニケーションを取るようにしました。

(竹葉) 大企業とベンチャーのM&Aの場合、M&A後に譲受企業から誰がきてPMIをするかものすごく大事になってきますよね?

(遠野氏) そうですね、ベンチャーで事業を更にスケールさせていくという経験値がある方はなかなか多くはいないと思うので大変だろうなと思います。Rist社については、親会社さんからグループでトップクラスのAIに知見がある方が来て頂いたので、その方にブリッジ的な役割を担っていただきました。私が今までやっていた仕事については、元からいるメンバーに引き継いで、新規事業とか、経営戦略の部分も引き継いでいきました。そもそもの人柄としてRist社のメンバーと息が合う方だったので、そこが一番安心できるところでした。

ITエンジニア採用の秘訣は、京大の生協

(竹葉) Rist社の事例もあり、その後多くのベンチャー企業からM&Aで大企業と連携したいという相談も来ています。ただ、プロダクトが形になっていなかったり、黒字化の目途も立っていなかったりと、M&Aをして引継いでいける状態ではない企業さんもあります。
 その点、遠野様がM&Aしてスケールさせることができると思ったタイミングみたいなものってございますか?

(遠野氏) タイミングでいうと創業社長がある程度黒字化にはもっていかないと厳しいと思います。譲受ける側も、何に出資をするのかというところだと思うのです。プロダクトなのか、エンジニアなのか。Ristの場合売上も伸びていますが、結果的に効果が大きかったのが、京都大学周辺の人材獲得コミュニティが取れたことです。
単に技術だけ買っても日々アップデートされていきますし、1年後にはコモディティ化していきます。だけど、技術は変わってもコミュニティは簡単になくなることはないですし、採用の幅も広がります。そういう部分が、Ristにはあったのかなと思っています。

(竹葉) 確か、京大の生協にエンジニアのアルバイト募集の張り紙を出してたんですよね?

(遠野氏) そうです。張り紙というローカルな募集方法ですが、たくさんの優秀な学生が来てくれました。優秀な学生ほど、型にはまった業務をしがちな大手企業でのアルバイトよりも裁量権が大きいRistの働き方に魅力を感じてくれるようです。
今はアプローチ方法をどんどん広げていっています。例えば、Kaggleというデータサイエンティストのコンテストでトップランクをグランドマスターと言っているのですが、そのランクを持っている人が社内にいて、業界では非常に有名な方なので、その人と一緒に働きたいからという理由で、日本中からRistに来る人が多いです。

自分がいた時よりも“キラキラ感”とか“ベンチャー感”が増してるんです(笑)

(渡部) 学生にとっては、将来の自分のキャリアを選択するうえで、AIの事業に関われるのは貴重な経験ですよね。

(遠野氏) そうですね。大学2年生のタイミングからアルバイトでRistにジョインしてくれた方もいますし、一緒に働いてくれていた学生が大学院を卒業してから新卒で入社してくれた方もいます。その時はとても嬉しかった反面、期待に応えられるようになりたいとより強く思いました。

(竹葉) IT企業では、基本的には優秀な方たちが気持ちよく働いて、その方たちの満足度が高いからずっとそこで開発していて、優秀な人と働きたい人が集まってくる。そして、気付いたら優秀なチーム、集団ができているという状態が良いのかなと思うのですが、Ristだと京都エリアでそういった場所になってるんですね。

(遠野氏) そうですね。そう思います。
「京都でAIをやるならRist」という評判が得られるとより優秀な人が集まってきます。先行者優位みたいな部分があると思います。もっと、Ristに入ることが優秀な学生にとってのステータスみたいな感じになればよいと思っています。

(渡部) メンバーの人数も、M&A当時からすごく増えましたよね?

(遠野氏) ものすごく増えました。6倍くらいにはなっています。
Ristが、京都では結構存在感があって、みんな知ってる、みたいな感じになっているんです。『京都のスタートアップと言えば、Rist』みたいな。自分がいたときよりもキラキラ感とかベンチャー感が増しているんですよね(笑)

M&Aは、お金じゃ解決できない課題を解決する手段

(遠野氏) 振り返ってみるとコロナによって色んな業種で事業縮小などの動きがあったこともあり、研究開発に注力していたRistも大きく影響を受けていただろうと思います。おそらく技術的に挑戦的な領域だけでなく、現場オペレーションや工場業務のDXなどよりビジネスを意識した方向に寄せていったのではないかという気がします。これまで強みとしていた研究開発以外にリソースを割く必要が出るため、他社との差別化が難しくなっていたと思います。
一方で、京セラグループに入れたことで、色々な案件のデータ分析ですとか、新規の開発案件、ロボットを組み合わせた案件など強みを生かしたまま幅広い事業を手がけることが出来るようになりました。

(渡部) 日本の大企業の顧客の裾野とか、営業のネットワークというのは本当に強いですよね。そのあたりのノウハウや知見、長年積み上げてきた信頼は、ベンチャーで大量のお金ががあってもどうしようもできない部分ですよね。

(遠野氏)ベンチャーも、資金調達して上場を目指すという流れになっていると思いますが、今後Ristみたいに上場ではなくて大企業のグループに入って、お金以外のリソースを使って成長する、みたいなトレンドは加速すると思っています。ベンチャーも課題が色々ある中で、お金があればどうにかなるという問題と、お金があってもどうにもならない問題があると思うんです。
お金があれば、「営業人材を雇う」「マーケティングに力を入れる」「プロダクトの開発ができる」などに関してはどんどん資金調達をしたらいいと思います。一方で、資金の調達だけでは得られないもの、仮にRistが数億円調達したとしても、大きな変化はないんです。新しいプロダクトを作るとかであればまだしも、それを導入する工場数を増やせるのか?といったら、『それは営業が・・・』という話になってきます。数億使って、大企業の営業トップを採用してきて、その下に営業部隊を作って、DMを打って、展示会に出て、広告費使って、となってもサービスの広がりってたかが知れているんです。そうじゃないもっとスマートなやり方という意味で、M&Aというのは、非常に大きい選択をしたと思っています。お金じゃ解決できない課題を解決する手段として、M&Aは有効な経営オプションだと考えます。

(竹葉)お金があること、以外の差別化ということですね。 

(遠野氏)そうですね。ベンチャーへの資金流入が活発化して調達がしやすい流れの中において、お金を持っているだけでは差別化できなくなり始めている。
そのような状況の中で、M&Aという選択肢が出てくるんだろうなと、数千万だとか1億だとかという調達ができる世界で、その中で会社を残して大きくしていくために、差別化や事業の合理化がしやすくなる、そういう意味でM&Aは今後増えていく流れだと思います。 

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公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして5年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年は京セラコミュニケーションシステム㈱とAIベンチャーの㈱RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISHのM&A等を手掛ける。

上席課長
IT業界支援室 室長
竹葉 聖