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M&Aレポート

物流業界のM&A  回顧と展望 (2021年4月)

2021.4.19

  • 物流

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物流業界は業界再編が既に始まっている業界である。
以下のような理由により、M&Aが活発になっている。
・飽和状態に達した企業数
・2024年問題への対応
・慢性的な人手不足
・後継者不在
・オーナーの高齢化
各社は事業継続に当たって何重苦も抱えているのが現状である。
企業数が飽和状態に達し、限られたパイを奪い合う状況で他社との差別化をどう示していくのか。多くの企業が対応に苦労している労務改革への対応をどのようにして行うのか。コロナ禍で一時的には緩和したが根本的な解決に至っていない有能な人材の確保難に対して何ができるのか。それに加えてオーナー経営者個人の悩みが加わり、それらが原因となって業界再編が起こっている。また、世の中では多品種小ロット化が進んでおり、物流はより早く、より小さく、より何度でも、ということが求められるため、今までの経営が通用せず、企業としての変化が求められているのである。そのような中、昨今経営手法の一つとして積極的に使われているのがM&Aである。

M&Aで実現できる未来とは

物流企業はM&Aでどのようなメリットを享受できるのであろうか。
まず譲渡企業のメリットとしては

・人材確保難の解消
・経費の削減、薄利仕事からの脱却による収益の増大
・荷主企業への交渉力の向上
・従業員のモチベーションの向上
・連帯保証の解除
・創業者利得の享受
等が挙げられる。

中堅・中小企業はすべての業務をオーナー一人で行っている場合が多いのではないだろうか。人材採用、社員教育、売上増のための営業、労務管理等、やらなければいけないことが山積みである。そのような中、大手企業と手を組むことによって、その負担を軽減することができる。人材採用は大手企業で一括で採用活動をしてもらう。社員教育などは大手企業レベルのものを受けさせることができる。
大手のネットワークなどを活用し、利益の高い仕事を請けることができ、さらには後ろ盾がつくことによって、荷主への交渉力もつく。単一の業務から、従業員の適正や年齢等に合わせた様々な業務選択が可能となり、従業員が長く働ける。トラックの購入が容易となり、ドライバーのモチベーションアップや福利厚生がよくなる。
労務問題への対応も自分自身だけで行うのではなく、大手企業と一緒になって対応していくことで、対応のスピード感、それにかかる投資資金などを気にすることなく改革が実現できるのである。
また、M&Aで譲渡したと聞くと、譲渡オーナーはすぐに退任をしなければならないと思われがちであるが、昨今は譲渡企業の社長が社長として残ったまま株だけを譲渡するという事例も増えている。

あらゆる負担を他に任せることによって、自身が本当に取り組みたかった事に集中して引き続き経営をしていくという選択をするオーナーが増えている。そのため30代や40代のオーナーが企業を譲渡する例も出てきている。
誰しも経営者は起業をするときに大志を抱き、何かを実現したい、理想を思い浮かべて事業を始められたと思う。その理想や目標の実現のため、自分自身で経営を続けるのがベストなのか、大手と手を組むことで実現へのスピード感を早め、実現の確率を高められるかを考え、“戦略的に”M&Aを選ぶのである。

次に譲受け企業のメリットについてであるが、「一本足打法の経営」からの脱却である。譲受け企業も他の企業と同様に危機感を抱いている。特に新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年はそれをより実感した企業も多かったことだろう。
取引先や業態、商圏のエリアなどが一つに偏る一本足打法の経営がどれだけリスクの高いことなのかを感じたかと思う。M&Aによって、新たな取引先の開拓、種類の異なる荷物への対応、他地域の拠点をもつことでリスクを分散し、それに加えて売上等も上げているのである。また、企業規模が大きくなることによって、より人材採用が有利になったり、多種多様な人材を取り入れることが可能となり、企業の成長に拍車をかけられることとなる。
数年前までは数十億企業であった会社がM&Aを活用することで今では数百億に成長している企業もある。中堅・中小企業から準大手企業となり、会社としてのステージが変わった成功企業である。自社を成長させるために時間と労力をかけるのではなく、M&Aを活用することによって、早期に実現することが最大のメリットとなっている。

2020年の物流業界のM&A
(出典:レコフ)

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、2020年は様々な動きがあった。公表されたM&A案件数(レコフデータ)の中で、物流企業が絡む案件数は2020年で91件(2019年末は88件)であった。コロナ禍で食品やアパレル関係、イベント業界など、多くの業界がM&Aに消極的になっている状況であるが、物流業界は昨年と同等、むしろ増加していた。また、当社での物流業界の成約実績も2019年にくらべ1.5倍のペースで件数が伸びており、物流業界のM&Aは活況だったと言えよう。新型コロナウイルスに直接関係のあるM&Aや、コロナ禍を好機と考え、積極的に攻めの姿勢を見せた企業が現れたのも特徴的であった。
2020年の物流業界のM&Aの特徴は

① 新型コロナウイルスの影響による先行き不安
② “集中と選択”による子会社切り離し
③ ITやベンチャー企業への投資
が挙げられる。

① 新型コロナウイルスの影響による先行き不安

物流業界で大きな影響を受けたのはタクシー業界や観光バス等の業界であろう。例えば物流業、IT関連事業を営むナオヨシはバス需要の急減で経営環境が悪化していた海部観光を10月30日付で譲受けた。
それまでナオヨシは同事業を営んではいなかったが、観光産業に新たに参入し、高速路線バスに徳島県産品の物流機能を持たせる「客貨混載」事業も新たに始めることで経営の立て直しをはかり、グループ全体として新たな拡大をもくろんでいる。単体では経営資源も限られている中、様々なネットワーク、つながりを有しているナオヨシと組むことによって、今までにない新たな成長路線に舵を切った。そのほかタクシー事業は顧客が減少したために経営不安に陥った企業が、同エリアの企業と手を組む事例が目立った。コロナ禍によって影響を受けた企業はさまざまであるが、譲渡する側も譲受ける側もこのタイミングで実行に移すことができたことは大きな英断と言えよう。

② “集中と選択”による子会社切り離し

物流業界は数年前からソニーの物流子会社(三井倉庫ホールディングスが2015年に譲受)やリコーの物流子会社(SBSホールディングスが2018年に譲受)などのように、大手メーカーからの物流子会社の切り離しが起きている。2020年はそれに拍車をかけて多くの企業が子会社の切り離しに動いた。中でも大きな注目を浴びたのは東芝ロジスティクスとSBSホールディングスの事例であろう。東芝は経営資源の選択と集中を進める一環として物流子会社の切り離しを決断した。東芝ロジスティクスは近年東芝グループの製品以外の取扱量が増加しており、さらには東芝の海外ネットワーク、サービスラインナップをSBSが取り込むことによって、強固なサプライチェーンの構築に寄与できると考えたようだ。大手企業の子会社の切り離しは公表されているものだけでも他に4件あり、1年間での数としては過去最多であった。世の中の移り変わりや新型コロナウイルスの影響もあり、どこに経営資源を集中させるか、そういった選択を迫られている状況の中で大手の動きが目立った事例であった。

③ ITやベンチャー企業への投資

物流企業はこれから新たなステージに向かうために先進的な分野への投資を始めている。先の業界再編の説明で異業種参入やIT化の促進が業界再編の起きるきっかけとなると述べたが、まさに今がそれである。IT企業が参入し、それを内部に取り込む動きは他の業界でも起こっている。例えばすでに業界再編が起きている調剤薬局業界は近年大手企業がIT企業を積極的に譲受けている。調剤薬局も国内には約6万軒存在し、人口に対して店舗数が飽和状態に達していると言われている。そのため、限られた患者のパイを奪い合う構図になっており、他社との差別化をはかることが今後の生き残りをかける大事なポイントとなっている。そのような中、時代のニーズに合わせて、薬を受け取るのに薬局へ行かなくても済むようにオンラインで服薬指導を行えるようにシステムが開発されるなど、業務効率をあげるためのITシステムが多く導入されている。大手調剤薬局はスピード感をもってシステム投資に対応できており、それが結果的に患者のニーズに合致するため、新規患者を獲得し売り上げを伸ばしている。中小企業ではスピード感やそもそもの投資対効果が少ないために、足踏みをしてしまう企業が多く、IT格差での企業格差が如実に表れ出しているのが現状である。

物流業界にもこの波が今来ようとしている。物流は効率的な経営があらゆる面で必要な業界である。これまでは人力や拠点網などで何とか対応をしてきたが、これからはITを駆使した戦いが始まろうとしている。2020年に大きな動きを見せたのが鈴与であった。6月に企業請けAIサービスを提供しているアライズイノベーションを買収、さらには同月にビックデータ取得・解析・分析ベンチャーのデータビークルにも第三者割当増資を引き受け、資本参加をした。AI技術を利用して各種業務の効率化や自動化をはかり、ビックデータなどを利用してサービスレベルの拡充や営業の効率化を高めようとしている。非上場企業ながらとても積極的な動きである。またその他にも、マルソー(新潟県三条市)は業区管理システム、アプリ開発のトラステック(新潟県見附市)を譲受けたり、倉庫業のダイワコーポレーションがデリバリープラットフォーム「ポスケット」を開発しているベンチャー企業であるレスティル(東京都)に資本参加、合通ジェイトラ(北海道恵庭市)はハコビーヤ(大阪府)からトラック予約サービス事業を譲受けた。このように規模の大小問わず、様々な企業がIT投資に踏み切っている。あらゆる業界がITを取り込み、それまでの固定概念を覆してきたが、今後物流業界にもその風が吹き荒れそうである。

最後に

物流業界はまさに今変革の最中にいる。これまでの固定概念が崩れ、今まで通り、が通用しない時代となっている。しかし、これまであらゆる局面を多くの企業が乗り越えてきた。コロナ禍で多くの企業経営者が感じたことは“何か変化をしなければ”という気持ちであろう。ただ、今までのように時間をかけて変化をしても時代がその先に行ってしまう。大切なのはすぐに変化を起こすことである。その一つの方法がM&Aという手法である。かつて京セラの稲盛和夫氏が日経新聞で「中堅・中小企業の経営者は一国一城のあるじではなく、積極的に業界再編に取り組んでほしい」というコメントを残したが、まさにその通りである。同じ志や同じ思いの企業同士が、限られたパイを奪い合う“競争”をするのではなく、“協調”していかなければいけないように思う。
新たなイノベーション、新たな業界構図を作り上げるのは、中堅・中小企業がどのように今後動いていくのかがキーとなってくる。私たちもM&Aの仲介業を通じて企業の存続と発展に貢献するとともに、業界の存続と発展、イノベーションに貢献し、物流業界を素晴らしいものとできるよう、微力ながら貢献していきたいと思う。

作者紹介

業界再編部 物流業界支援室 宮川 智安 
群馬県出身。実家は七代続く水産業の卸売。早稲田大学卒業。大学時代は競走部に所属(400mで全国IH準決勝)、2020年新卒で日本M&Aセンターに入社し、全国の物流業界を専門にM&A業務に取り組む。