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M&Aレポート

今後の食品卸売業界のM&A動向を考える

2021.3.10

  • 食品

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食品卸業界とは

まずは「食品卸業界」とは何を指すのか具体的に定めていきたい。業界の定義、特色、それから課題を順に簡単に解説していこう。

業界定義

食品卸業界は、生産者およびメーカーと小売業・外食産業などの架け橋となる業界だ。

農畜産物、水産物、またはメーカーのてがける食料品や飲料品を、コンビニやスーパー、旅館やホテル、外食企業へ卸すのが主たる役割。

一見すると仕入卸売業務のみが主だっているようだが、その領域は意外にも広い。メーカーと小売業の中間に位置するからこそ、物流や在庫管理も大きな仕事であり、様々な業務を一括して巻き取ることで効率化を図ることが求められる。また、「安定的な商品の提供」も欠かすことのできない付加価値の一つである。

業界の特色

この業界は3つに分類することが可能だ。

・元卸業者
・中間卸業者
・最終卸業者

の3つである。元卸業者がメーカーなどと最も近い距離にあり、反対に最終卸業者は小売店などに近い。

以前は「リベート」と呼ばれる割戻金に頼った収益構造だが、近年では廃止されていることがほとんど。それに代わりメジャーとなっているのが「オープン価格」というやり方だ。メーカー自身が出荷価格を設定し、小売業者が「オープン価格」を設定する。

それぞれパワーバランスや物流業界の動向に左右されながら、業界の体質は変質していく。

業界の課題

近年の食品卸業界の課題は、コンビニやスーパーといった小売業の規模拡大である。彼らが卸を通さずに直接仕入れることが増えてきており、こうした販売力のある企業といかに戦うかが鍵である。

さらに加えて物流コストの高騰と人口減少による必然的な供給規模の縮小も懸念材料だ。効率化のための規模拡大、つまりそのためのM&A戦略で乗り切ろうとする企業は増える一方である。国内の人口は減少傾向にあるが、グローバルに俯瞰すれば人口は上昇している。規模を拡大することで海外への事業展開を視野に入れ、一刻も早くさらなる成長を遂げられるかが重要な課題だ。

食品卸業界は再編がひと段落した業界?

食品卸業界は、よく「再編がひと段落した業界だ」と表現される。

この表現の意味合いとしては、大手商社を中心として食品の販売・流通が系列化され、独立資本で経営を行う中堅食品卸企業が少なくなったことを指しているのだろう。

事実、東京商工リサーチに登録している食品卸企業を見てみると、売上30億円以下の企業が約28,000社、30~500億円以下の企業が約380社、500~1000億円以下の企業が約40社、1000億円超の企業は約30社。市場としては中堅プレーヤーが少なく、売上30億円以下の中小企業が圧倒的多数を占める構造となっているのだ。

どのような経緯で業界再編が行われ、今現在どのような状況下にあるのだろうか。実際の事例を交えながら考察する。

食品卸業界の再編はどのように進んだか

食品卸業界の再編は、商社を中心とした大手食品卸企業の系列化という形で進められてきたが、食品卸の機能という点では「フルラインナップ化」と「ワンストップサービス」というキーワードを軸にして進められてきたと言われている。

2014年ごろまでは「あらゆる商品を一手に担える」ということが顧客に対する大きな付加価値となっており、この視点から価値判断したM&Aや組織再編が数多く行われていた。そして2014年には大手食品商社を中心とした食品卸業界の再編はひと段落し、現在では以下の系列に落ち着いている。

2018年の食品卸業界のM&A

業界再編が落ち着いたその後、食品卸業界はどのように変質していったのか。2018年を例にして、その年のM&Aを俯瞰してみよう。
食品卸業界における2018年のM&Aは、これまでと同様に同業同士での規模の拡大を図るM&Aが多く見られた。

2018年の食品卸M&A事例:譲受×譲渡
・ヤマエ久野 × TATSUMI
・西原商会 × 上新トレーディング
・オーディーエー × 関東食材
・九州産交リテール × 肥後リカー
・東洋商事 × 光和
・GRN(双爽グループ) × リラックス
・トーホー × 昭和物産
・エンド商事 × 峰松

国内の市場が縮小し流通のためのコストも上昇しているなかで、双方の持つ流通網や販路を活かし、お互いに発展を目指していく業界再編が引き続き進んでいる。

再編の進んだ食品卸業界で、今後はどのようなM&Aが起きてくるか

このように再編の進んだ食品卸業界で、次のM&Aの主役となってくるのは中堅・中小企業であると予測される。

「フルラインナップ化」と「ワンストップサービス」をキーワードに業界再編を進めた大手食品卸は利益率として1%前後という、超薄利多売のビジネスとなっている。売上のグロスの大きな大手であれば、この利益率でも経営として成立するだろうが、中堅中小企業では成立することは難しいだろう。

大手食品商社の「フルラインナップ化」と「ワンストップサービス」に対抗して、中堅中小企業は、逆に大手食品商社には真似できない単独商材の「特化型専門家集団」となっていくことが求められている。今度はこの「特化型専門集団」をキーワードに、M&Aによる中堅中小企業の再編が進んでいくと考えられる。

2020年には、鶏肉の卸売を行う売上約100億円の三昌物産(三重県四日市市)が同じく鶏肉の卸売を行うファインフーズ(香川県木田郡)を共同仕入れによる調達力の強化や自社が展開していないエリアへの販路拡大等のシナジーを見込んだM&Aを行った。

同業同士のM&Aであれば、自社の扱っている商品領域に対してさらなる付加価値をつけて顧客に提供する、無駄なコストを削減できる等のシナジーを発揮しやすいということもあり、利益率の高さを維持しながら事業拡大できる手法であることは間違いない。

実際に、一般的には事業多角化よりも専業特化の方が営業利益率は高まるというデータも出ている。

「仕入れ・販売・流通のノウハウ共有化」や「システム、バックオフィス機能などの効率化」または「販売先の共有化」、「特定分野における総合提案」など、特定の商品群についてスペシャリストになっていくことで高収益企業を目指すことが可能だ。高収益企業となるためには、こうした同業同士のM&Aは必須の手法といえる。

一方で大手食品商社は、付加価値をより高めるため積極的なIT投資や海外企業への積極投資、輸出入の強化に向けたより良い冷蔵・冷凍技術への投資などの大型投資を進めている。

こういった資本力のある企業の積極投資に対抗するには、中堅中小企業が互いに連携し、協力していく必要がある。

いまは似通ったビジネスを日本に溢れさせ、その中でシェアの奪い合いに奔走するのではなく、同じビジネス、同じ志であれば手を組んで、積極的に協調する時代。それはつまり業界全体を考える優良な中堅・中小企業が集まって、業界構造を変え、新しいビジネスに挑戦しビジネスを進化させる時代だと言い換えられる。


そのような中でM&Aは互いの協力関係を築く有効な手段だ。今後は各地域を代表するような企業が地域の枠組みを超えて、互いに提携関係を作っていくという事例も増えてくることだろう。