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M&Aレポート

IT業界のM&A  回顧と展望 (2021年4月)

2021.5.7

  • IT

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IT業界はその他全業界と比較しても最もM&Aが活発な業界です。

後継者不在や更なる事業の発展の為にM&Aを選択する会社も多い一方、M&Aによるイグジットを目指す若い会社も多数存在する業界です。株式譲渡が一つの経営判断であることが”当たり前”だと感じる経営者が多いため、譲渡希望企業の数自体が他の業界よりも多いという実態があります。一方、買い手側の譲受希望企業はというと、譲渡企業の10倍以上存在しています。こうした買いたい会社はこの数年間のIT業界自体の好景気を背景に、潤沢な内部留保を成長のための投資に使おうと考えています。

しかし、2020年2月に日本だけでなく全世界へ激震を走らせた新型コロナウイルス感染拡大によりIT業界のM&A動向も潮目を迎えつつあるように感じます。本文ではIT業界に特化した専門チームのコンサルタントが”データ”と”市場の声”をもとに2020年の動向と2021年の展望を語ります。

2020年IT業界のM&A動向振り返り

IT業界のM&A件数は10年連続上昇ならず

IT業界は2020年までの10年以上、業界自体が好景気でありM&A意欲が旺盛な譲受企業が多数存在する業界でした。そうした旺盛な需要の背景には『2025年の崖』問題で知られるような慢性的な技術者不足があり、M&Aを加速させる一つの要因になっています。尚、独立行政法人情報処理推進機構の調査によれば、2019年度のIT業界において「技術者は不足していない」と答えた企業は調査対象の企業のうち6.9%のみであったとのことです。その他にもM&Aを活用することにより、下請けから元請けへの業態転化を目指す売り手企業や、新しいサービスの獲得を目指す買い手企業の数が増加し続けており、結果として図1のように2010年から2019年までの9年間のM&A件数(出資含む・図1青色の折れ線グラフ)は増加してきました。

(図1:レコフM&Aデータベースより数字を引用し日本M&Aセンターが作成)

しかしながら、2020年のM&A件数をご覧いただければわかるようにIT業界全体のM&A件数は10年連続の増加とはならず潮目が変わり始めています。この要因については様々な考察ができますが、1つにはやはり、コロナウイルスの影響により事業会社が出資を手控えたことが挙げられます。2020年3月は新規上場予定の企業18社の上場が延期され、国内スタートアップの資金調達も例外ではなく通年で件数、金額ともに落ち込みました。そうはいっても2020年を終えてみればM&A件数自体は3.9%の減少であり、事業会社の投資意欲は引き続き旺盛であることが判ります。

一方で、事業譲渡を含む買収の件数(図1赤色の折れ線グラフ)は2019年の件数を上回ったことが見て取れます。これらのデータから引き続き買い手企業の需要が旺盛であると予想されますが、すべてのIT企業が順風満帆であるとはいい難い状況になりつつあります。M&A業界の前線でお客様と接する立場としてこれらの要因を考察し、買い手企業、売り手企業それぞれの思惑を次章にて解説します。

積極的に買収へ動いた買い手企業

2020年2月、世界は未曾有の新型コロナウイルス感染拡大により様々な影響を受けましたが、当社も例外なく影響を受けました。お客様との面談が延期され、予定していた成約式が執り行えない等、ディールのスケジュールに多大なる影響を受けました。しかし、Zoomをなどのオンラインツールの活用や、サテライトオフィス開設等、お客様とのコミュニケーションは絶やさぬよう活動して参りました。
その当時、買い手企業の反応は2つに分かれていました。「今は先行きが不透明だからM&Aの検討はストップしたい」という買い手と「今がチャンスだと思うから積極的に企業を紹介してほしい」という買い手です。感覚的には前者の消極派が7割、後者の積極派が3割程度でした(2021年4月現在は、消極派が少数となっています)。

以下の図2は日経平均株価の推移とM&A件数(合併・買収・事業譲渡のみ集計)の推移を追ったグラフであり、これによるとリーマンショック後の3年間も年1,000件以上のM&Aが実行されていました。さらに東日本大震災後はM&A件数が減少どころか増加に転じており、不況時にもM&Aを積極的に実行する企業が存在することが見て取れます。

(図2:レコフM&Aデータベースより数字を引用し日本M&Aセンターが作成)

例として、2020年は株式会社SHIFT と株式会社 ID ホールディングスの積極的な買収が目立ちました。SHIFTは2020年に6件のM&Aを実行しています。2019 年は5件の成約実績を有しているため、コロナ禍においても前年よりも多くのM&Aを成約させています。さらに2021年1月7日には弊社の仲介にて幼稚園・スイミングスクール・教習所等に向け「バスキャッチ」という送迎バスの位置情報を可視化するクラウドサービス提供のVISH株式会社をM&Aしています。同社はIRの中期戦略にもM&Aの方針を記載しており、M&A担当者の採用も積極的に情報収集を行い、年間300件近くの案件を検討しています。また、IDホールディングスは2019 年まで5件の買収実績がありましたが、2020年の1年間を大きな好機と捉え3件のM&Aを実行しました。同社の舩越社長は売主とのTOP面談にも早期から参加され、魅力的なプレゼンでオーナーを口説いていく様子が印象的です。このように買い手の数に対して売り手が少ないIT業界のM&Aにおいて、競合に打ち勝ち成功している会社は戦略的にM&Aを実行しています。
さらに両社がM&Aをした企業の特徴として、規模感の大きさが挙げられます。SHIFTが2020 年9月にM&Aをした株式会社ホープスは売上 50 億円超です。ID ホールディングスも売上高29億円の株式会社ウィズ・ホールディングスをM&Aしました。もともとM&A の経験が豊富であった2社ではありますが、2020 年はその動きが加速しました。これまで売却を検討していなかった優良企業も売却を検討するのではないかという思惑から例年よりもさらに積極的に活動した結果、優良企業とのM&Aを実現した好事例でした。

このように日頃からM&Aの戦略を経営の一つの柱として策定することで 、 コロナ禍のような非常事態においても着実に M&A を実行し、さらなる企業の発展につなげることができると言えます。

経営を見つめ直した売り手企業

コロナウイルスの影響を受けたのは買い手企業だけではありません。本来は2~3年後に事業承継をするつもりであった売り手企業がスケジュールを前倒しにして株式譲渡を選択された事例が目立ちました。先行き不透明な中、従業員の雇用を守るため、また会社の存続と発展に帰するため、適正な企業価値で売却ができるタイミングを逃さずに英断をされた企業が多かった一年であると言えます。

特に今年は売上数億円規模のソフトハウスが新型コロナウイルス感染拡大による影響を受け、譲渡する事例が多い傾向にありました。IT業界では図3のような多重下請け構造の中で元請け企業となる大手SIerから開発を受注する企業が多く存在します。2020年から現在にかけてこの多重下請け構造のバランスが崩れかけています。エンドユーザーとなる事業会社が大手SIerへ仕事を発注し、大手SIerは下請けの企業へ仕事を発注する流れの中でバランスを取ってきていますが、根本となるエンドユーザーのIT投資予算が減少しています。結果として多重下請け構造の下層の企業では、これまで取れていた受注を失注する等、甚大な影響が出始めている企業もあります。

(図3:日本M&Aセンターが作成)

財務状況が悪化し始める前から株式譲渡を視野に入れ、当社にて簡易的な株式価値算定を行う等して準備を進めていた企業は、コロナウイルスの影響により仕事を失注し始めてしまっいたとしても買い手企業が見つかりました。一方で、財務状況が悪化してから当社へご相談いただいた企業の中には、残念ながらお力添えできなかった事例もございます。買い手企業と同様、日頃からM&Aへの感度を高く保ち準備を進めている企業かどうかで明暗が分かれた1年だったと言えるでしょう。

2021年のIT業界M&A動向の展望

現行ビジネスから脱却し、価値創造型のビジネスへ転換

2020年は世界中がコロナ禍に見舞われ、人類がこれまでに経験したことのない劇的な変化の時代に突入しました。IT業界においては、社会の在り方や事業継続におけるデジタル技術の重要性が強く再認識され、デジタル化やクラウド化が大きな潮流となったというプラスの影響がありました。一方で、前述のように多くの業界が先行きを見通せない不況に陥り、それに伴うIT投資予算の削減が顕在化しています。
 
そうした中、今後のIT業界では以下のようなM&A潮流が続くことが想定されます。

■事業承継型M&Aの増加
 2020年、国内IT業界全体としてのM&A件数は、マイノリティの資本提携案件が減少したことにより、前年比で若干減少していますが、事業承継型のM&A件数は逆に増えています。2021年もコロナ禍の中、将来を見据えた事業承継が加速することが予測されます。

■自社サービス保有企業、ユーザー直取引企業のM&A増加
 国内の事業環境が大きく変化したことに伴い、IT企業には、ユーザー企業のDXを一体的に推進し、ビジネスモデルを変革する共創的パートナーとしての役割が以前にも増して求められています。そうした実力、サービスを持つ企業のM&Aが増えることが予測されます。

■内製化の進展、M&A規模の大型化、業界再編の加速
 DXが進展していく中で、ユーザー企業自身が技術内製化のためにIT企業をグループ化する動きやITサービスのクラウド化、パッケージ化により、従来の受託開発案件は減少し、再編が進むと予測されます。実際にここ数年の10億円以上のM&A件数は顕著に増加傾向にあります。

人々の固定観念が変化した今こそ、企業文化を変革する絶好の機会です。ビジネスにおける価値創造の中心は急速にデジタル空間へと移行しています。そのデジタル技術によるサービスを提供するIT企業も、受託開発型の既存のビジネスモデルでは、この変革に対応できないことを認識し、現行ビジネスから脱却する覚悟を持ち、価値創造型のビジネスへと舵を切って行くことが求められています。今後もその潮流に沿った、価値創造型のM&Aが増加することは、必然的なのでしょう。

M&Aセミナー(「Change」)

5月19日15時00分~17時10分に特別ゲストをお招きしてセミナーを開催します。
詳細・お申し込みURL:https://www.nihon-ma.co.jp/page/seminar/change2105/

第一部「変化を恐れない経営」

講師:日本M&Aセンター 専務執行役員 中村 利江

日本最大級の宅配ポータルサイト 「出前館」 を運営する株式会社出前館のエグゼクティブ・アドバイザー、出前館元会長。


第二部「2021年M&Aトレンド」

講師:日本M&Aセンター 取締役 渡部 恒郎

業界再編M&Aの第一人者。2020年同社最年少で取締役に就任。M&Aの第一人者として、M&Aのプロフェッショナルファームとなる業界再編部を立ち上げる。2020年同社最年少で取締役に就任。


第三部「異端を受け入れる力」

講師:株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長 岡田 武史

日本の元サッカー選手、サッカー指導者、元サッカー日本代表監督。現在はFC今治運営会社「株式会社今治.夢スポーツ」代表取締役、日本エンタープライズの社外取締役。


M&Aコンサルタントの紹介

業界再編部 IT業界支援室ディールマネージャー 戸塚 直道 
富山県出身。早稲田大学基幹理工学部数学科卒業後、大手証券会社にてリテール営業を経験し、日本M&Aセンターに入社。現在はITソフトウェア業界を専門にM&A業務に注力している。座右の銘は“百術は一誠に如かず 至誠の感ずるところ 天地もこれが為に動く”。