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M&Aレポート

産業機械メーカーM&Aレポート

2021.6.23

  • 製造

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「設計力」がキーとなる、産業機械メーカーのM&A需要

近年のものづくり企業のM&Aを語る上で、最も重要でかつ動きの激しい業界が産業機械メーカーです。

産業機械メーカーは、切る、曲げる、溶接するといった「加工業」を主な生業としておらずそのような加工を行う企業が扱う機械(マザーマシン)を設計、製作する企業です。
産業機械メーカーの中でも、型がある程度決まっており量産を前提とする標準機メーカーと顧客のニーズに応じてオーダーメイドで作り上げていく専用機メーカーが存在するが、前者(標準機メーカー)は規模の大きい大手企業が多く、後者(専用機メーカー)に関しては小回りの利く中堅・中小企業が存在感を発揮しています。

近年、特にM&Aが活発化しているのは、専用機を得意とする中堅・中小企業です。

現場作業員の技術と設備のスペックがクオリティの鍵を握る加工業に対して、産業機械メーカーのキーファクターは「人材(設計者)」であり、優秀な設計者を抱えられるかどうかが企業成長に大きく関わってきます。

生産ラインの高度化・IT化・ネットワーク化に伴い、工場の「部分最適から全体最適」を実現するために最も重要な企画・設計力を持つ産業機械メーカーを買収したいと考える企業は近年増加しており、高い株価がつきやすい。

同業の専用機械メーカーが本業強化のために買収を行うことも当然あるが、大手の標準機(汎用機)メーカーが提案型のビジネスモデルを求めて手をあげるという事例も多い。また、メーカー機能を強化したいという狙いから機械商社がM&Aを行うケースや、ソフト・ハード一体の開発力を強化するために、IT企業(ソフトウェアメーカー)が買収相手になることもあります。

中堅・中小機械メーカーならではの経営課題について

買収ニーズが旺盛である一方で、中堅・中小機械メーカーは経営者の承継問題に加え従業員の高齢化や、受注案件の大規模化といった経営課題を抱えてることが多く、譲渡に関する相談も年々増加しています。

特に国内の機械メーカーの8割以上を占める年商10億円以下の専用機メーカーは、ベテラン設計者の技術力を糧に自社の得意分野において、付加価値と存在感を高めてきた優良企業が多いと、同時に、非常に多くの国内機械メーカーが近年の技術者不足に頭を悩ませています。

技術者不足の問題というとすぐ頭に浮かぶのは「自社が抱えるべき設計者が不足している」という事態ですが、問題は、顧客とする企業(エンドユーザー)においても技術者不足であるという事態が、中堅・中小機械メーカーの向かい風になっているのです。

以前は、あるエンドユーザーが設備投資によって新しい生産ラインを作る際に、「加工機はA社」「搬送機はB社」「検査機はC社」・・・という具合に、各設備それぞれの設計・製作を分野ごとに信頼できる企業を選定し、それらの機械のシステム化は、エンドユーザーが抱える工機部門の担当(生産技術部)が行うことも多くありました。
しかし、工機部門の技術者を十分に抱えられる企業も、近年減少の一途をたどる中、エンドユーザー側もライン一括で任せられる企業を選定するようになります。
そうなると必然的に、機械メーカー側は単一の技術・少数の設計者だけでは受注を勝ち得ることはできず、ビジネスチャンスを逃すことになってしまいます。得意分野においては、十分大手と戦えるスピードとクオリティを持ちながらも企業体力・経営基盤(ヒト・モノ・カネ)がネックになって、企業成長が阻害されることは、業界全体にとっても大きな損失ではないでしょうか。

このような課題に対して、単独で向き合うか、M&Aを通じて他社と手を組むか、真剣に考え始める経営者からの相談は、後を絶ちません。M&Aの譲渡に関する相談について、ひと昔前は、「経営者の承継難」を理由としたものがほとんどでしたが、ここで述べたような経営課題を解決することを一次目的として、当社の門を叩かれるオーナー経営者も、近年それと同様のペースで増加しています。

産業機械メーカーにおけるM&Aを通じた成長戦略

産業機械メーカーがM&Aで描ける成長戦略について、具体的な2つのM&Aをケーススタディとして見ていきましょう。

①オリイメック株式会社(譲渡)×株式会社アマダホールディングス(譲受)

プレス機向け自動化装置を手掛けており、国内大手造船業、名村造船所のグループだったオリイメックは、他の事業との相乗効果が十分に見込めなかったことから、板金加工機械の世界大手のアマダ社へ譲渡しました。
アマダ社は中小型プレス機における人材不足・企画開発力強化といった経営課題解決のためにオリイメック社の約125億円で譲り受けました。

このM&Aはプレス機において絶対的なノウハウを持つ大手企業が、現事業の延長線上での成長(プレス機分野での規模拡大・技術開発等)を目指すためのM&Aではなく、単体の装置を開発し販売する「機械メーカー」からライン全体の問題解決を図る「システムメーカー」へとビジネスモデルを変えるためのM&Aだと言えます。

単体の技術をブラッシュアップしながら、規模を広げるだけであればM&Aという選択肢ではなく資金調達を行い、自前で製造リソースを強化することもできますが、自社にはない技術分野に関わる顧客や人材を獲得することはできません。様々な業界(市場)が成熟する中、ビジネスモデルそのものを進化させていく上で、必然的に多くの企業がM&A(他社と手を組む)という選択肢を選ばざるを得ないのです。

②オサ機械株式会社(譲渡)×ゼネラルパッカー(譲受)

1932年創業、チョコレート製造機械装置の製造・販売を基軸に事業を展開する専門メーカーであるオサ機械は「カカオ豆の焙煎機から包装機の手前まで」のチョコレート製造に関わる全工程の機械を取り扱っています。
売上高は9億円のオーナー企業で、営業利益1億円と収益性も非常に高い優良企業でしたが、さらなる企業の発展のために包装機械の上場大手であるゼネラルパッカーへ株式を譲渡しました。。ゼネラルパッカーは、オリジナル性の高いロータリー式放送技術をベースに様々な包装システムの開発と設計を行っており開発力強化・海外市場への展開を強化しています。

両社は本件M&Aにより同じグループとなることで、生産機械から包装機械までの一貫したシステム・サービスの提供が可能となることに加え、海外を含めた新しい市場へのチャレンジについて協力体制を作ることができました。

工程の前後という明確な補完関係のある2つのプロフェッショナルカンパニーが手を組むことは、両社の顧客に対する付加価値を飛躍的に高めることに繋がります。

機械メーカー同士のM&Aにおいては、上記の事例のように得意とする技術や人材が、少しずつ異なる企業でありながら顧客層が共通しているケースに強い相乗効果が見込めることが多くあります。

最後に

「画一的なサービスではなく、その場、その人にあわせて、最適なものを考え、用意する。」
日本人が美徳とする「おもてなし」という文化も、産業発展における日本の強みと密接に関係しているのではないでしょうか。

多種多様な製品を時代のニーズに合わせて生み出し続けるためには、そんな日本人の心と文化に根差した柔軟さと強さを併せ持つ機械メーカーの存在が必要不可欠です。

日本を支えてきた中小機械メーカーの柔軟さを大切にしながら、異なる企業同士が手を組み、より強い経営基盤の中で挑戦し続けることで世界に通用するジャパンブランドは作られていくのでしょう。

京都大学経済学部卒業後、株式会社キーエンスに就職。セールスエンジニアとして製造業の生産ラインの効率化に8年間従事。その後、日本M&Aセンター業種特化事業部 製造業支援室長として中堅・中小製造業の成長戦略・事業承継に係るM&Aの専門としている。

上席課長
製造業界支援室 室長
太田 隼平