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M&Aレポート

切削加工業M&A事例レポート

2021.7.1

  • 製造

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コロナ禍で景気が急速に悪化する中、製造業界のM&A(合併・買収)の意欲が急速に高まっています。当社事例に基づく集計でも、2020年度における製造業のM&A件数は、前年比で増加し過去最高の件数を更新しました。
これは何故か?決して、コロナ禍による一過性の増加ではなく、「製造業の様々な業界において、もともと高まりつつあった再編の波がコロナ環境下で加速した。」という見方がより一般的です。

切削加工・機械加工業界でもM&Aが過去5年で年々増加する傾向にあります。本コラムでは、その背景を実際の事例なども踏まえながら、探っていきたいと思います。

切削加工業界の未来

今後の切削業界の流れについて確認していきましょう。

第一に挙げられるのは、工作機械の目覚ましい進歩です。ミリ・マイクロから、ナノ単位での加工精度が求められる時代になりました。汎用旋盤やフライス盤といった設備から、NC・CNCの工作機械が主役の時代となり、運動制御はより高速になり、マシニングセンターや複合機など、一台の装置が複数の工程をこなす多機能化も進みました。

「10年選手でようやく1人前」と言われた職人の技が、工作機械の「データ」に置き換えられていく。まさにそのような過渡期にあることは疑いがありません。製缶板金業、鋳造・鍛造業など、他の金属加工業と比較しても、切削加工業界においては、この流れが顕著です。装置の高速化と多機能化は効率の向上をもたらしましたが、装置の差が技術の差に直結するため、設備投資が非常に重要になっています。

高精度で高付加価値、小ロットでの生産が可能なことは切削加工の強みですが、同時にメーカーの原価低減活動のターゲットとなりやすいことも事実です。部品のロットが大きくなれば、メーカーはプレス部品や樹脂部品への置き換えや、場合によっては海外へ発注するケースも増えていきます。

激化する競争環境の中で、常に【新規商談の獲得】と【実績の無い加工内容】に挑み続けなければならない現実があるのが切削加工業の今日ではないでしょうか。

切削加工業界 M&A成約事例分析

前置きが長くなりましたが、上記のトレンドを踏まえたうえで切削加工業界におけるM&Aの事例を分析していきたいと思います。

業界のリーディングカンパニーとして、製造業でも日本最多クラスのM&A成約数を誇る日本M&Aセンターの過去5年の事例を紐解くと、切削加工業を営む譲渡オーナーの大半が、次の2種類の譲受企業との提携をご決断しています。

① 前工程を営む企業との提携
⇨ 前工程(鋳造・鍛造などの粗加工)と後工程(機械加工)の組み合わせにより、
グループで一貫した製造を可能とし、原価の低減や製造工程の効率化を図るケース。

② 非製造業(主に商社や鋼材流通業の企業)との提携
⇨ 販路・資本力・全国の拠点・海外展開のノウハウ等を持つ企業との提携

いかがでしょう?
同業との提携をイメージされていた方は、少し意外に思われるのではないでしょうか。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。

① 前工程を営む企業との提携

切削加工を営むオーナーが、M&Aによる提携先として選択することが多い企業に、鋳造業(ダイカスト製造業含む)や、鍛造業を営む企業があります。素材に命を吹き込む鋳造や鍛造業と、その製品をワンランク上の精度へ昇華させる切削加工業の提携は、強い相乗効果が見込めます。

鋳造品や鍛造品は単独では製品とならず、完成品となるためには、精度を出すための機械加工での後工程が欠かせず、ミクロ単位の技術力は非常に魅力的なのです。

切削加工業の企業にとっても、この提携による大きなメリットがあります。前工程と後工程の一貫した生産や技術交流により、工程全体の見直しによる原価低減も可能になります。また、近年、大手のメーカーによるサプライヤーの数を絞り込む動き加速していますが、グループとして受注することで価格交渉力も上がります。

その他にも、譲渡を実行したある社長からは、「グループ企業との安定取引が増え、設備投資の計画が立てやすくなった。」などの声を頂いています。

② 非製造業(主に商社)による製造機能の獲得

また、非製造業(主に商社)との提携を決断された切削加工業のオーナーも多いです。

その最大の理由としては、商社の持つ販路を活用した営業力の大幅な向上があります。
また、グループとしての全国の拠点が活用可能になる、鋼材商社との提携により仕入れ価格の低減が見込める商社の持つリソースを最大限に生かすことにより、ともに成長を図る加工業オーナーも多いです。
中には、商社の海外ネットワークを生かすことで、一部加工工程の海外展開を図る構想などを、一体となって取り組む事例もありました。

その他にも、「後継者不在に悩んでいたが、顧客との折衝が得意な次期社長候補を派遣してくれることが決まった。」など、人材面での提携の効果を実感されているオーナーもいらっしゃいました。

商社が「川中」で利ザヤを取るだけの存在であれば、いずれ不要になるという、いわゆる「商社不要論」が叫ばれて久しいです。その時代の移り変わりの中、「高精度で高付加価値の技術力を持つ切削加工を営む企業と資本提携したい」というニーズは年々強まっています。

「譲渡=引退ではない。」 切削加工業界によるM&A譲渡理由の変化

前項の当社の事例分析から見えてくる傾向として、切削加工業においては、同業への譲渡の事例はむしろ少数で、前後工程を営む製造業の企業や、商流のなかで隣接する商社への事業の譲渡が一般的な傾向があります。同業との提携により、単なる規模の拡大を追求するよりも、それぞれの事業に足りない部分を補い合うことで、シナジー効果を創出するためのM&Aが主流であると言うこともできます。また、譲渡したオーナーは会社に残って事業に関与し、技術顧問として継続勤務する事例も多いことも特徴です。

事業を譲渡するオーナーとしても、商社との提携による営業力の大幅な強化や、前工程を営む企業からの安定受注により、収益の見通しを立てやすくなるなど、譲渡により会社を大きく成長させることも可能です。特に、新規商談の獲得が重要な切削加工業においては、商社が全国に張り巡らす営業網は非常に有用です。また、前後工程を営む異業種の製造業と提携することができれば、安定した受注の獲得が期待でき、設備投資などの計画を立てることも用意になります。

実際に、ひと昔前まではM&Aと言えば、60~70代の経営者が「跡継ぎがいない」という理由で譲渡を考え、当社に相談を頂くケースが大半でしたが、最近は40代~50代の経営者からの譲渡の相談も非常に増えており、譲渡オーナーの3割程度が50代以下となっている傾向があります。

結論

本コラムの結論として、要点は下記の通りです。
・ 切削加工業界におけるM&Aは、コロナ禍の影響というよりも、長期的な傾向として増加している。
・ 切削加工業の企業をM&Aを実行する理由としては、①前後工程の統合(内製化)②商社による製造機能の獲得が主流である。
・ 商社の営業網の獲得や、グループでの安定した受注の見込などの成長戦略として、事業の譲渡を選択する若いオーナーも増えている。

コンサルタント紹介

業界再編部 製造業界支援室 田中 智大 
東京都出身。早稲田大学国際教養学部卒業。在学中、米ダートマス大学への留学を経て、新卒で2020年4月に日本M&Aセンターに入社。現在は製造業チームに所属し、製造業M&Aを専門として提案活動に従事している。