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M&Aレポート

2021年 物流業界のM&A  回顧と展望

2021.12.27

  • 物流

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新型コロナウイルスが猛威を振るって2年目に当たる2021年、世の中の経営者たちは様々な対応や選択を迫られた年でしました。2020年には様々な企業に影響が及び、いつまで続くか分からない状況に困惑しながらも耐え忍ぶ戦いをした企業が多かったように思います。2021年も引き続き耐え忍ぶ戦いをした企業、ピンチをチャンスと考え、少しでも新しいことに取り組めた企業、様々な動きがあったように思います。 
2021年11月末(本稿執筆時)時点の物流業界のM&A件数は約90件でした。2020年11月末は57件であったことを考えるとかなり件数が伸びました。当社への問い合わせも昨年以上に多かった印象を受けます。問い合わせをいただいた企業層も大企業から中堅・中小企業に至るまで幅広く、今後の物流戦略、2024年問題への対応、事業承継問題への対応、様々な課題に対策を講じるべく行動を起こしていたように思えます。本コラムでは2021年の物流業界M&Aの動向を大手企業と中堅中小企業に分けて振り返るとともに、2022年がどのような年になるかを解説します。

地方の有名企業を積極的に傘下に、大手物流企業のM&A動向

大手物流企業は2020年に比べて大きく行動が変わったように思います。初めての緊急事態宣言が発令された2020年の4月~6月においては、大手企業は慎重にならざるをえなくなりました。外部の株主などへの説明責任のある企業については、なかなか身動きが取りづらい状況でありました。しかし、2021年は大企業が絡むM&Aが増加しました。ファイズホールディングスは、3月に利用運送のブリリアントランスポートの譲り受けを発表し、11月にも、システム会社を譲り受けました。安田倉庫は長野県で300台以上の車数を保有する南信貨物自動車を譲り受ける動きを見せました。
 ハマキョウレックスは、2月に栄進急送(兵庫県・売上26億円)、10月に大一運送(香川県)を譲り受けました。SBSホールディングスは、4月に譲り受けた旭新運輸開発(大阪府・売上29億)をはじめ、5社以上をグループ入りさせています。ハマキョウレックス、SBSホールディングスはいずれも3PL企業であり、メーカーの物流について全面アウトソーシングで受けています。これらの企業が今年譲り受けたのは、いずれも地方を代表する物流企業であり、一見譲渡する理由が見当たらないような中堅企業が3PL企業へのグループ入りをしました。本来、倉庫などのセンター運営を中心とする3PL企業が、運送企業を譲り受ける背景には、2024年問題への対応が考えられます。3PLは、自社でアセット(特に実運送)を保有することなく展開の出来るビジネスですが、複雑化する物流の中で求められるのはやはり品質です。時間外労働の規制の強化により、品質は安定しました。一方で、傭車先を確保することは、たとえ大企業でも簡単ではなくなっており、なおかつ傭車先企業の事業承継問題も悩ましい事態です。3PL企業はメーカーの企業から直接アウトソーシングを受ける立ち位置であるため、直請けの荷物を多く取り扱っています。帰り便の確保などに悩む中堅・中小企業にとっては、取扱荷物の見直しを直請けの業務でできることは収益力の改善に対して即効性があります。中堅・中小企業が業界の先行きを考慮した際に、大手3PL企業の理念に共感し、グループ入りをしていくのです。運送をメインに展開をする企業が急に方向転換をして3PL企業になることは現実的には難しいため、自社の第二創業という意味合いにおいても、他社と戦略的に手を組む成長戦略型のM&Aも増えています。

様々なM&Aが生まれた2021年、中堅・中小物流企業のM&A動向

中堅・中小企業のM&Aもとても活況でありました。様々な環境の変化が強いられる中、この状況に耐えうる強固な基盤を持つにはどうしたらよいか、自身が掲げる理想の物流企業を作るためにはどうしたらよいか、従業員も幸せになれる企業にするにはどうしたらよいか、様々な手段を検討し、実行に移した結果、M&Aが増加しているのです。昨今の譲受企業、譲渡企業のそれぞれのニーズは下記の通りです。

【譲受企業】
・3PL企業への体制づくり
・2024年問題への対策として拠点拡大
・傭車対応エリアの実車確保
・企業規模の拡大(社格、ブランド力向上)

【譲渡企業】
・経営に関する先行き不安
・成長戦略(更なる発展のため)
・2024年問題対応の自助努力の限界
・後継者不在
・オーナーの高齢化

物流業界は数年前からオーナーの高齢化、後継者不在の悩みから、事業承継を目的としたM&Aが多い業界です。加えて2024年問題への対応、さらには新型コロナウイルスの影響により一段と譲渡を検討する企業が増加しました。他方、譲受企業に関しても2024年問題への対応は共通の課題としてあり、それまでに拠点を拡大したり、労務環境を改善したりしなければならないと考え、M&Aに目を向ける企業が増加しました。譲渡も譲受も両方がニーズとして増え、必然的に活況となったのです。

譲渡企業の多くの悩みとしてあげられるのは、恒常的にほとんどの業務をオーナー社長がやらざるを得ない状況から脱却できないという点です。銀行対応、ディーラー対応、採用、営業、顧客対応、従業員やドライバーの対応、何から何まで担っています。オーナー社長に負担が偏っているのです。本来やりたいことは沢山あるにもかかわらず、それらに時間がほとんど費やせないという状況です。そのような企業が、より規模の大きな企業と組むことで、上記の悩みを一気に解決、または一緒になって解決できるようになります。上記以外にも、メリットとしてトラックの購入費、燃料費、保険料等様々な経費がグループ会社基準となり、経費の大幅削減が同時に叶ってしまうのです。これらは会社にとって大きなインパクトがあります。例えば、利益分で従業員や設備等の投資をすることができ、就業環境の改善もできる。今まで売り上げが横ばいだった企業が成長するチャンスが生まれ、社内の雰囲気も非常に明るくなったという事例もありました。

 さらに、成長戦略型の事業承継も増えています。譲渡企業の社長がそのまま社長を続投し(大変な業務はグループ会社に任せて)自社の経営に専念できる形のM&Aです。これだけM&Aが増えている業界なので、その譲渡の方法や条件は様々な形があり、譲受側も柔軟性が増してきたように思えます。従業員満足度を高めるという意味では2021年1月に西和物流(奈良県)が美容院・エステ・ジム・マツエク専門のスクール運営のaile社を譲り受けたのもとても印象的でありました。M&A後は、aile社の施設やサービスを従業員家族への福利厚生としても利用できるようになっており、女性活躍が叫ばれる中、従業員満足度向上のためのユニークな戦略と言えます。
 このようにいろいろな発想でM&Aを活用するようになったことが中堅・中小企業の特徴でもありトレンドです。業界再編真っ只中の物流業界は、まさに中堅・中小企業がどのような行動に出るかで業界構図が変化しえます。1社1社が今後の舵取りについて今考えなければいけない時なのです。

2022年の物流業界の展望 ~2024年に向けて小さな一歩を踏み出すことがカギ~

 2021年は大手企業、中堅・中小企業ともに行動を起こし始めた年でありました。特に中堅・中小企業は情報をどれだけアンテナ高く張っているかが重要です。M&Aの情報を集め始めてすぐに実行できるというのはとてもまれです。1年ほど時間をかけて、いろいろな情報を集め、実際に経験し、それでようやく1件成約する案件にたどり着けるのです。そう考えると2024年問題への体制づくりをするためには、2022年が情報を集める行動を起こす最終年です。2022年はさらに多くの企業がM&Aについて情報を集め、実行に移すことが考えられるため、M&A件数は引き続き増加していくでしょう。

では、どのような企業が先行してM&Aを成約させられるのでしょうか。やはり事前にどれだけ情報を持ってるか、に尽きると考えられます。例えば、2021年にSBSHDや磐栄ホールディングス、富士運輸がそろって4件以上の複数件成約を果たしたのも彼らの事前の情報収集の成果です。数年前からM&Aについての情報を集め、ニーズを明確にし、社内決済フローなども整備し、M&Aの受け入れ体制を整えていたのです。それがコロナ禍という有事の事態を受け、案件急増につながりました。突然の危機に際しても即座に複数の企業を譲り受けることができたのです。明確に事前の情報量で格差が生まれたということが言えます。

物流業界では、まだ再編は始まったばかりです。これから物流業界はさらなる再編の波に入っていくため、今からでも遅くはありません。
まずは自社のあるべき姿、ありたい姿を想像する。そして物流業界M&Aの動向やM&Aがどのような手順でどのようなスキームで行われているのかを知る。自社のニーズに合った案件を探す。というところから始めていくべきでしょう。案件が無い場合は自社で積極的にアプローチをする方法も有効です。当社ではそれぞれの企業様の状況に合わせて様々な提案をさせていただき、一つでも多くの情報を提供すべく尽力しております。今後の物流業界がより発展していくよう、努めてまいります。
みなさまもぜひ小さな一歩から始めていただければ幸いです。

コンサルタント紹介

業界再編部 部長 物流業界支援室 室長 山本 夢人 
東京大学工学部卒。野村證券株式会社、土木資材メーカーの副社長として経営に参画後、日本M&Aセンターに入社。経営者としての経験をもとに中小企業オーナーの立場に立ったM&Aを提案。2019年度全社MVP・全社最高売上を記録。


業界再編部 物流業界支援室 宮川 智安 
群馬県出身。実家は七代続く水産業の卸売。早稲田大学卒業。大学時代は競走部に所属(400mで全国IH準決勝)、2020年新卒で日本M&Aセンターに入社し、全国の物流業界を専門にM&A業務に取り組む。