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M&Aレポート

2021年 食品業界のM&A 回顧と展望(製菓・製パン業界)

2022.1.6

  • 食品

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こんにちは。(株)日本М&Aセンター食品業界支援室の渡邉です。
当コラムは日本М&Aセンターの外食・食品専門チームの食品業界支援室のメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
本日は渡邉が「2021年製菓・製パン業界のM&A動向と2022年の業界予想」についてお伝えします。

過去5年間の製菓・製パンM&A件数の推移と主な事例

■過去5年間の推移

出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成(2021年12月16日時点)
※買収・事業譲渡のみのデータになっており、資本参加は含まれておりません。

■代表的な事例

2017年
【売】千秋庵総本家×【買】鈴木栄光堂
千秋庵総本家は1860年(万延元年)創業の菓子製造販売業を営む北海道の企業です。後継者探しに苦慮していたことからM&Aを決意しました。鈴木栄光堂は1877年(明治10年)創業の岐阜の企業で、テーマパークやアミューズメント施設向けの菓子で高いシェアを持っています。大阪や東京のほか、上海やベトナムにもグループ会社を持ち、国内外の事業展開に力を入れております。「日本国内でも、また海外においても『北海道』というブランドはとても魅力であり、千秋庵の歴史をみても今後事業を展開していく過程で強みになる」とM&Aを実行しました。

2018年
【売】たくみやHD×【買】日本投資ファンド
 たくみやHDは「たくみや」を中核とし、2017年に「みつばちの詩工房」および「笹屋昌園」の2社がグループ入りし、事業を拡大している石川県の菓子製造グループです。たくみやの優れた技術を2社に導入し、製造工程の合理化や新商品開発を進めるとともに、各社の販路を相互活用したグループ統括営業、共同商品開発等シナジー効果を発揮できる経営体制を目指してきましたが、事業成長スピードの更なる加速と経営管理体制強化のためにファンドとのM&Aを決意しました。
 日本投資ファンドは、日本M&Aセンターおよび日本政策投資銀行が共同で設立した投資ファンドであり、菓子関連会社のアドオン投資など更なる資本提携戦略を推進し、たくみやHDを菓子業界における営業、製造、商品開発など横断的な機能を持つプラットフォーマーへと成長させるべくM&Aを実行しました。

2019年
【売】日当コーン・アルム×【買】ジャフコ
冷凍洋菓子などを製造する栃木県の日東コーン・アルムは、ベンチャーキャピタル大手のジャフコが管理・運営するファンドの傘下で事業拡大を加速させることを決断しました。
日東コーン・アルムは大手カフェチェーン向けの冷凍ケーキなどを製造しており、当時の年商は50億円弱、解凍しても手作りのような味や食感を保つ点が特徴です。
ジャフコは外食産業で人手不足が深刻化する中、店舗の省力化にもつながる商品を手がける日東コーン・アルムの成長余地は大きいと判断しM&Aを決意しました。
2021年春にも本社近くに新工場を新設して生産能力を現在より7~8割程度増強するほか、アジアや欧米など海外への展開も狙っていくとのことです。

2020年
【売】オーツハーツ・カンパニー×【買】ユニゾン・キャピタル
 上場準備を進めていた愛知県のオールハーツ・カンパニーは上場を目前に控えたタイミングでPEファンド「ユニゾン・キャピタル」に譲渡することを決断しました。
 オールハーツ・カンパニーはパン・製菓関連ブランドの企画・製造・販売を一貫して手掛け、主力ブランドであるHEART BREAD ANTIQUEやねこねこ食パンは、独自の世界観を打ち出すことで確固たるブランド・ポジションを確立しています。また、国内のみならず台湾でも事業を展開し、売上100億円超の規模まで成長していました。
 ユニゾン・キャピタルは、オールハーツ・カンパニーの企業基盤の強化を図り、国内外におけるさらなる事業拡大を支援するとしています。

製菓・製パン業界の抱える3大テーマとは

①オーガニック(自社単独)成長の限界

 家族経営や個人店は別として、製菓・製パン企業が、それなりの規模拡大を目指すと、どうしても「ヒト・モノ・カネ」の3つの要素にはぶつからざるを得ません。

まず、「ヒト」ですが、2019年には東京都では最低時給が1,000円を突破し、今なお上がっており、2021年12月現在は1,041円となっています。賃金が上がれば、採用労働問題は解決するのかというと、そうではありません。
例えば製パン企業では、深夜から仕込みがスタートし、早朝には焼きあがっていないといけないスクラッチ製造の企業も多く、なかなか働き手が見つからないのも現状です。

また、製菓企業においても、特にパティシエなどは職人としての技術を高めるために、就労後に工場に残って修行するケースも多く、どこまでが労働時間で、どこからが自主練習なのか、賃金の問題だけではなく、働き方改革といった問題もつきまといます。

 次に「モノ」ですが、原材料はここ数年、高騰しているのが実態です。2021年も10月から輸入小麦の政府売渡価格は実に19%も増加しました。人口減少に悩む日本においては忘れがちですが、世界ではいまだ人口爆発であり、2050年には世界人口は98億人に達すると言われています。世界的に見れば食品の原材料は貴重な資源であるうえ、天候や輸送コストにも左右され、今後も値上がりが予想されています。

 最後に、「カネ」の問題です。製造小売業の場合、販路拡大のための出店費用、もしくは製造量を拡大するための工場の設備投資、場合によっては移転や新築など、大きな成長を目指すにあたって、どうしても借入が発生してしまいます。連帯保証付の借入金を抱える中堅・中小企業のオーナーは常に大きなリスクと向き合っているのが現状です。

 こうした3つの要素が大きく絡み合うのが製菓・製パン業界です。何とか、それらの壁を乗り越えて単独成長できたとしても、店舗数の増加、工場の複数経営など、どこかのタイミングでは、オーナーが個人では見切れる限界を迎えます。

大量の採用を実施するための人事部が必要になったり、社内規則を整備する必要も出てきて総務も必要となるでしょう。また、財務状況を正確に把握するために財務のプロフェッショナルが必要になるなど、内部統制にコストが発生することになります。

それら全てを自社単独で乗り越えることは非常に難しいですが、もちろん不可能ではありません。ただし、自社単独で行う場合には時間がかかることが欠点です。

②食のファッション化

 自社単独での成長には時間がかかります。しかし、製菓・製パン業界はトレンドの移り変わりも早く、それらに対応していかなければならない厳しさがあります。

 このスピードに拍車をかけているのがSNSの台頭です。機械や加工技術が進化してきたなかで、食品の「美味しい」というのは前提となりました。今では、美味しいに加えて「見た目の美しさ」「発信できる商品のストーリー」が求められる時代になっていると言えます。創業から間もない企業であっても、企画力が評価されるようになってきた時代です。

逆にいうと企画力や、マーケティング力の低い企業は、たとえ老舗であっても、よほど定番商品があり、毎期安定して利益が出続けているなどの基盤がなければ、SNS等の普及により、後発の企業に顧客を奪われてしまうリスクを常に抱えているといえます。

③脱・一本足打法

 最後のテーマは「脱・一本足打法」です。新型コロナウイルスのまん延は製菓・製パン業界に大きな影響を与えました。特に「来客用や、お土産などのギフト要素の強い商品」と「自宅で消費するための商品」は大きく明暗を分けました。外出自体が自粛されていたのですから、土産用商材が売れなかったのは仕方ありません。外食も早くからデリバリーをしていた企業では好業績も見られましたが、店舗での提供をメインとしていた企業は大きな打撃を受けました。今回のコロナ禍は販路や、「どのようなシーンで食べられることを想定していたのか」というターゲット設定が明暗を分けたと言えます。

ただ、これまでの事業を急に方向転換するのは難しいことです。ターゲットを変える必要性が分かっていたとしても簡単にできることではありません。新しい販路の開拓などに、時間がかからないのであれば全ての企業が行っているはずですが、現実がそうでないことを物語っています。そのため、自社とは異なる強みを持つ企業とM&Aすることで、強みを2本柱、3本柱と増やしていき、リスクを分散させていくことが今の時代に求められています。いつ、新型コロナウイルスの変異株など、新しい脅威が発生するか分からないなか、リスク分散型の企業戦略が製菓・製パン業界においても求められています。

2022年は競争から協調の時代へ

 例えば、国内の菓子出荷額は3.8兆円と言われています。そのうち、100名以上が在籍する事業所数というのは全体の約1割ですが、この約1割の事業所が占める国内の出荷額は全体の約7割となっています。
如何に、大手による寡占化が進んでいるか、そして中堅・中小企業が多く存在するかが分かるのではないでしょうか。

製パン業界も同様です。市場規模は約1.6兆円と言われていますが、業界の圧倒的巨人である山崎製パンの2020年12月期決算説明会資料を読むと次のように記載されています。

・食パン部門の売上が956億円
・菓子パン部門の売上が3,408億円

出典:各社決算報告資料をベースに日本M&Aセンターにて作成

 合計すると4,364億円となり、1社で市場の約27%を獲得していることが分かります。それに次ぐ、フジパングループ、敷島製パンと業界大手のシェアは高いことは製菓業界同様です。

これらのことから、製菓・製パン業界は共に大手寡占マーケットといえます。それに対抗するのが8,000社と言われる同業界の中堅・中小企業です。互いに競い合うよりも、中堅・中小企業同士が手を組むことで、規模を拡大し、共に成長を目指していくことは生産性が高く、非常に効率的な判断と言えるのではないでしょうか。
  
技術力の高い老舗企業が企画力のあるベンチャー企業と手を組むこと、リアル店舗で愛される商材を持っている企業がオンラインの販路に強みを持つ企業と手を組むこと、どちらが買い手・売り手というのはケースによりますが、共通しているのは、より一層、会社を成長させていくための戦略がそこにあることです。

 これからの時代はよく「シェアの時代」と言われています。日本国内のマーケットが縮小していく中で、自社単独での成長を図るよりも、他社と組んでより効率的な経営を目指す、共になって規模を拡大することで海外と戦っていける基盤をつくるなど、まさに「競争から協調へ」という段階に製菓・製パン業界も進んでいくことが予想されます。
そのための有効な手段の1つとして、是非、一度M&A戦略についてお考えいただければ幸いです。

いかがでしたでしょうか?
今回のコラムが2022年に向けての取り組みのご参考になりましたら幸いです。

食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
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また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

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執筆者プロフィール


株式会社日本М&Aセンター
業界再編部  食品業界支援室 室長 渡邉智博
Mail:tom.watanabe@nihon-ma.co.jp
TEL:070-4538-5576



1983年宮崎県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、㈱リクルートに入社。
法人営業や営業マネージャー等を経験し、㈱日本M&Aセンターに転職。
2020年には同社で最も多くの食品製造M&Aを成約へと導いた。
2021年4月より食品業界支援室室長を務め「日本全国に点在する優れた食文化をM&Aで存続させ、全国に広める」の理念のもと活動している。