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M&Aレポート

2021年 建設業界のM&A 回顧と展望

2021.12.28

  • 建設・不動産

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 2021年を振り返ると、「東京オリンピック開催」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。1964年以来の開催に日本全体が活況を呈すると想像されましたが、コロナ禍の影響により1年延期され、2021年には異例の無観客という形式で開催されました。閉幕後は、このキーワードを聞くことはほとんどなくなりました。
 東京オリンピック開催が決定した2013年から2020年頃まで、建設業界はまさに活況を呈していました。復興需要やアベノミクスも後押しし、建設投資額は順調に推移し、大手企業、中堅・中小企業のどの経営者も、「オリンピックがあるから」と笑顔で話されることも多く、業績好調であることが見て取れました。
しかしながら、そのような状況もつかの間、2020年には建設業界「特需」と呼べる状況ではなくなりました。予想されていた通り、2020年から建設投資額が前年対比減少になっただけではなく、コロナ禍の影響により民間住宅投資は一気に冷え込みました。さらに、東京オリンピック需要で大手建設会社が東京一極集中していた状況は無くなり、これまで地場ゼネコンが受注していた中小地域案件に対しても、大手ゼネコンが低い単価で受注するケースも増加しているといいます。
 まさに建設業界の風向きが変わり始めた2020年でしたたが、2021年では本格的に各企業への影響が出ており、それに伴い、建設業界M&Aも大きく動きました。
 本コラムでは、2021年の建設業界動向を踏まえたうえで、中小建設会社動向とそれに伴う2021年の建設業界M&Aの特徴を捉え、2022年において建設業界経営者はどのような立ち回りが求められるのかを考えていきます。

建設業界の動向

建設業界の大きな動向を測る指標として注目すべき建設投資額の推移を見てみましょう。
2020年はコロナ禍の影響により大きく落ち込んだ60兆9,000億円に対し、2021年度建設投資額は前年対比2.9%増の62兆6,500億円となる見通しとなりました。防災・減災・国土強靭化計画を背景として、引き続き土木は堅調に推移しています。住宅建築は1.5%増の15兆3,500億円、非住宅建設は4.8%増の16兆7,400億円となりました。民間建築補修(改装・改修)は2.9%増の6兆300億円。建築補修は2020年度において9.7%も減少していたため、その反動によるものとみられます。
2021年の建設投資額はここ10年で見ても高水準と言える結果となっています。

国土交通省「令和3年度(2021年度)建設投資見通し」より、日本M&Aセンターにて作成

中堅・中小建設会社の動向

当社業界再編部建設チームは2021年において約600社近くの建設企業経営者と面談していますが、2021年度の建設投資額増加に反して、業績好調な企業は少ないと想定しています。背景には大きく2つの要因があると考えます。「人材不足」と「大手ゼネコンの中小案件進出」です。
「人材不足」に悩む建設業界経営者は非常に多いのではないでしょうか。実際に、当社にてご面談する各経営者からは「一級建築/土木施工管理技士等の有資格者だけでなく、現場社員の確保も難しい」との声が頻繁に聞かれます。国土交通省の発表する建設労働者人口は、2000年から20年間で約180万人も減少しています。

国土交通省「建設業及び建設工事従事者の現状」より、日本M&Aセンターにて作成

 人材採用難だけでなく高齢化に頭を悩ませる経営者も多く、経営者自身も年を重ね「後継者不在」課題を抱えています。
このように、「受注したくても有資格者がいないためできない」や「経営者自身が高齢で積極的な投資意欲がない」といったケースから、積極的に事業拡大できている中小建設企業は少ないように思われます。

 二つ目の「大手ゼネコンの中小案件進出」は地方中堅・中小企業からすると喫緊の課題です。大手ゼネコンが地方中小案件に対しても入札し始めています。大手各社の業績は軒並み営業減益となっており、国内建築事業においては不採算工事も発生しています。2021年4-9月期の各ゼネコンの完成工事総利益率は、鹿島建設は前年同期比3.6ポイント減少の11.4%、大林組に至っては6.5ポイント減少の6.3%となっています。如実に各社の利益率が減少している背景には、大手ゼネコン各社の受注競争が厳しくなっていることに加えて、鋼材などの資材の高騰も継続していることが考えられます。
上記背景の影響は、地方中堅・中小ゼネコン及び各専門工事企業にも波及しています。大手ゼネコンが受注競争を経て低単価で請ける業務のしわ寄せは、当然ながら地場企業も受けます。受注単価が下がる一方で資材価格は上がっており、利益率が減少し始めています。
 このように大きく2つの背景から、中堅・中小建設企業は全体の建設投資額の推移に比して業績が芳しくないケースも散見されます。

2021年の建設業界M&A動向

 当社建設業界M&A動向は顕著に増加しています。下記図は過去7年間の当社M&A成約数と建設業界M&A成約数比較です。(2021年度は2021年4~9月分の6か月分を算出し2倍したもの)。そもそも2021年度において建設業界M&Aは全成約のうち約26%を占めており、全産業の中でもM&Aが活発に起こる業界だということが言えます。2015年度には建設業界成約数は26件にもかかわらず、2021年度は約6倍にあたる154件を見込んでおり、2020年度が114件だったことを踏まえても建設業界M&Aが急増していることが分かります。

日本M&Aセンター調べ

 会社譲渡の背景は、2020年度と変わらず、「事業承継・後継者不在」、「人材不足・先行き不安」、「成長戦略」が多い傾向となっています。これほど2021年度において建設業界M&Aが増加した大きな要因は、「先行き不安」があるとみています。本コラムにて記載してきた通り、「人材不足」や「大手ゼネコンによる中小案件進出」といった背景から、特に各地方における建設事業者は変革を求められています。2012年頃から続いてきた、復興需要、東京オリンピック需要、公共工事需要といった突発的な需要増は無くなってきており、今後生産性を高め、付加価値の高い事業を展開していく必要が出てきています。

 譲受の傾向としては、ゼネコンに関しては「エリア拡大・人材獲得」、専門工事企業に関しては「専門工事のラインナップ拡充」が多く、関東地方中堅ゼネコンの1社は、「引き続き、有資格者を獲得しなければ売上成長は見込めない。そのため、人材獲得を目的としたM&Aを進めたい」と明確に意気込んでいます。そうした背景からゼネコンはゼネコンをM&Aする、いわゆる「完全同業種M&A」が多くみられます。
一方で、通信工事を手掛ける甲信越中堅企業の1社は、「同業の通信工事ではなく、それに付随する電気工事など対応できるラインナップを拡大させるM&Aをしたい」とビジョンを持たれています。つまり専門工事企業は自社と異なる専門工事を手掛ける企業とM&Aする、「異業種M&A」を志向しているように思われます。

終わりに

 東京オリンピック終了・新型コロナウイルスの感染拡大と、建設業界は今まさに大きな変化点にいます。60兆円市場に対して約46万社がひしめく建設業界は、必ず「大業界再編時代」がやってきます。当社建設業界M&A成約数等を見て分かる通り、既に業界再編時代の幕は開けており、各企業が成長するための経営戦略を再検討しています。そこで重要になる経営戦略の一つに、「M&A」がある、と私たちは考えます。成長を目指す企業にとってもはやM&A戦略は必須であり、各社がその可能性を常に模索しています。
 私たち業界再編部建設チームは、日本のインフラを支える建設業界をM&Aを通じて貢献することをモットーとして日々尽力してまいります。

コンサルタント紹介

業界再編部 クレーン業界支援室 室長 前川 拓哉 
群馬県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、新卒にて日本M&Aセンターに入社。最年少でディールマネージャーに昇格。クレーン建設業界のM&Aを積極的にサポートしており、電材HD&Huationg HD(シンガポール)を手掛けるなど、多くの実績を誇る。