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M&Aレポート

調剤薬局のルーツに迫る。医薬分業はこの先どこへ向かうのか?

2022.5.16

  • 調剤薬局

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いつもコラムをご愛読頂きありがとうございます。日本M&Aセンター調剤薬局業界専門グループの太田昇真です。

現在最もM&Aが活発な業界の代表例として、調剤薬局業界が挙げられます。

その背景には、急速に進む少子高齢化による医療・介護等の社会保障制度の見直し、年々強まる医療費の抑制、今年4月にも行われた2年毎の調剤報酬改定などの外部要因によって、厳しい経営環境に立たされている事実があります。

さらに、近年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、受診控えによる処方箋枚数の減少や従業員の感染リスク対策、医薬品受け取りニーズの多様化など、調剤薬局を取り巻く環境は刻一刻と変化していますが、これらの課題を解決するためにM&Aが有効的な手段として選択されていると言えるでしょう。

本稿では、調剤薬局業界と医薬分業の歴史と今後についてまとめてみたいと思います。

調剤薬局とはなにか

そもそも調剤薬局とはどういった存在なのかと一言でいうと、病院やクリニックの近くに立地し、医師から発行される処方箋をもとに医薬品を患者へ販売する事業を指します。

現在の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)では、次のように薬局が定義されています。薬局とは、「薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務並びに薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所(その開設者が併せ行う医薬品の販売業に必要な場所に必要な場所を含む。)」つまり、かつてのように調剤を行う場所というだけではなく、薬に関する情報の提供や指導を行う場所という規定がなされています。

調剤薬局と医薬分業の歴史

調剤薬局業界の歴史は、医薬分業の歴史と深い関係にあります。医薬分業とは、薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師、薬剤師という専門家が分担して行うことを指します。

医薬分業は、ヨーロッパにおいては800年近い歴史があり、神聖ローマ帝国のフリードリヒⅡ世(1194~1250年)が毒殺を怖れて、主治医の処方した薬を別の者にチェックさせたのが始まりと伝えられています。1240年には5ヵ条の法律(薬剤師大憲章)を定め、医師が薬局をもつことを禁じました。これが医薬分業と薬剤師制度のルーツとされています。

一方、日本に医薬分業制度が導入されたのは、それから600年以上も後の明治時代初期のことでした。江戸時代までは漢方治療が主体で、医師による薬の調剤が定着していましたが、明治時代に入り、西欧先進国に様々な制度を学ぶ中で、ドイツで採用されていた医薬分業に倣い制度を取り入れました。しかし、当時は薬剤師が不足していた背景もあり医師による調剤が引き続き認められ、医薬分業は形骸化し、実態として進むことはありませんでした。

第二次大戦後、アメリカが日本を占領するもとで、GHQが日本政府に対してアメリカ流の医薬分業の実施を迫り、厚生省は1951年に「医薬分業法案」を提出し、成立させました。医薬分業は1956年から実施とされたものの、収益源でもある薬価差益を手放すことを厭う日本医師会の反対もあり、実際には医師が薬を調剤する状況がその後も続くこととなりました。

こうした状況が大きく変化したのが、1974年の診療報酬改定であり、医師の処方箋料が前年まで6点(60円)であったのが、50点(500円)に引き上げられた結果、ようやく実態として医薬分業が進むことになりました。

その後、医薬分業率は50年かけて約80%まで上昇してきました。その背景には、厚生労働省が医療機関に対する処方箋料と薬局に対する調剤報酬を高めに設定し、医薬分業を誘導したことが大きな要因として挙げられます。



図表 医薬分業率の推移
出典:厚生労働省「医療費の動向」を基に日本M&Aセンター作成

医薬分業の狙いについて

医薬分業の狙いは大きく分けて二つあります。一つは、医師と薬剤師が独立の立場からそれぞれの機能を発揮して、患者の安全性を確保することです。薬剤師は薬学的見地から医師の処方箋を確認し、ミス等を防ぐと同時に、患者の薬歴を確認し、副作用などが出ないように指導することが求められます。国の薬事制度の根幹を揺るがした1960年前後の薬害事件(サリドマイド事件やスモン事件)以降、医薬分業の意義に社会的なスポットライトが当たるようになりました。

もう一つの狙いは、いわゆる「薬漬け医療・薬の過剰投与」の防止です。前提として、薬の売価は、医療機関や薬局ではなく国が決定権を保有する「公定価格」で患者に対して販売することを義務付けられています。一方、薬の仕入れ価格については、卸業者との交渉で決定されるため、医療機関や薬局はできるだけ安く仕入れて公定価格で販売することによって、いわゆる「薬価差益」を享受できる仕組みとなっています。1989年11月には、薬価差益は1兆3,000億円(当時の薬剤費全体の25%)という金額が衆議院決算委員会で公表され、「薬漬け医療・薬の過剰投与」の存在が大きく報道されたことから、こうした薬価差益を縮小していく契機となり、結果として医薬分業が進みました。

医薬分業の今後とM&Aについて

医薬分業を追い風に成長を続けた国内の調剤薬局は、7兆円の市場に成長し、コンビニエンスストアを上回る6万店舗まで増えました。大手調剤薬局上位10社の売上をあわせても市場全体の2割に満たず、隣接のドラッグストア業界(6割)や医薬品卸業界(9割)などに比べると低寡占状態でまだまだ小規模店舗が乱立している状態であり、今後業界再編が起きる可能性が極めて高いと私たちは考えています。

国の政策誘導によって調剤報酬が増加したことで急増してきた調剤薬局業界ですが、近年では社会保障費の抑制もあり、従来の経営方針のままでは収益が下がってしまう状況にあります。調剤薬局の収益の源泉である調剤報酬や薬価の改定、ドラッグストアなどとの競争激化によって、業界環境は変化してきています。

さらに、厚生労働省が推し進める「患者本位の医薬分業」を目指す改革も、中小規模の調剤薬局にとって少なくない影響を与えています。これからの薬局・薬剤師に求められる存在意義として、「対物業務」から「対人業務」への移行を進め、24時間対応や在宅対応などの「かかりつけ業務」に重点を置いた経営を是とするビジョンを国として掲げているため、薬剤師の不足や後継者に悩む調剤薬局にとって大きな負担となります。

競争の激化や、調剤業務から「かかりつけ業務」へのシフトは、調剤薬局業界再編へと繋がっていく可能性が高いといえます。今後の生き残りをかけ、令和4年度の診療報酬改定などの変化に早めに対応し、収益力向上に努めていくことが重要でしょう。さらに、これから迎える超高齢化社会に向けて変化する医療・福祉業界の一員として、「患者本位のかかりつけ薬局」へと業務内容を変えていくことも大切だといえるでしょう。

このような厳しい環境に立ち向かうために、私たちのクライアントにおかれましても、M&Aや新規投資等を積極的に進めてきた企業、薬局経営者も多数いらっしゃいます。また、近年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、M&Aや新規出店に慎重な姿勢を見せる企業が目立ちましたが、2022年度はポストコロナを視野に入れた事業計画を立てている企業も増えてきております。積極的に情報収集をして、自社の強み・弱みを事前に整理しておくことがM&Aを含めた今後の経営戦略を立てる上で非常に重要となります。

M&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
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コンサルタント紹介



株式会社日本M&Aセンター 
業界再編部 調剤薬局業界専門グループ 太田 昇真

京都市出身。実家は関西にて飲食店など7事業40店舗を展開する創業50年の総合サービス業。同志社大学法学部卒業後、株式会社船井総合研究所を経て、日本M&Aセンターに入社。入社以来、調剤薬局業界を専門に、M&Aを活用した事業の発展・存続のための支援を行う。幼少期より囲碁と空手に打ち込み日本棋院4段、空手は黒帯で大学選手権優勝の経験もある。