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M&Aレポート

M&Aで発生するのれんについて日本基準とIFRSの処理の違い

2022.5.30

  • M&A全般

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M&Aで発生するのれんについて日本基準とIFRSの処理の違いに ついて考えてみました。

M&Aで発生するのれんの処理(日本基準)

M&Aにおいて必ずと言っていいほど論点になるのが「のれん」です。非上場の企業が買い手の場合、連結財務諸表の作成は求められておらず、決算書上に出てくることは無いため論点には挙がらないことが多いのれんですが(挙がったしても買収金額が高いか安いかの一つの指標として用いられます)、上場企業の場合、M&Aによってのれんが発生した場合には決算書上にのれんが計上されることになります。

のれんの会計処理についてですが、日本の会計基準(以下、日本基準)と、国際会計基準(以下、IFRS)ではその取扱いが大きく異なります。
日本基準の場合には、『のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する』とされています。実務上は、5~10年の期間で均等償却されます。例えば、時価純資産5億円の会社を10億円で買収した場合、のれんが5億円発生します。そちらを5年で償却した場合、1年間あたり1億円の『のれん償却費』が、決算書の販売費及び一般管理費に計上され、営業利益を圧縮することになります。買収した会社から営業利益が1億円以上出ていればいいですが、1億円を下回っていた場合、のれんの償却費よりも、買収した会社が生み出す利益が少ない状態、いわゆる「のれん負け」の状態になります。
そのため、買収した先において、のれん償却を何年で実施するかは大きな論点となります。監査法人側としては、費用を早く計上する保守的な会計処理を求めるため、のれんの償却期間は5年以内を求めるケースがほとんどですが、企業側とすれば、前述したのれん負けを防ぐため、できるだけ長い期間をかけて償却したいという力学が働きます。実務の現場ではこうしたせめぎ合いが日々行われています。
ルール上は、20年での償却が認められていますが、さすがに20年で償却を実施している企業はほとんどありません。特に現在は事業環境の変化のスピードも加速しており、20年間にわたり事業のリスクが変わらないというビジネスなど存在しないと言えます。のれんの会計処理が規定されている「企業結合会計基準」自体が1996年に制定されていることからも、現在のビジネス環境と基準が乖離しているという背景もあると考えます。そのため、ほとんどの企業について、投資回収を判定する際に用いられる事業計画の策定期間の5年に合わせて(どのようなビジネスであっても、合理的な計画ができる期間は長くても5年とされています)、5年で償却しているケースがほとんどです。筆者の感覚からすると、買い手企業の8~9割近くは5年以内でのれんを均等償却していると考えられます。

M&Aで発生するのれんの処理(国際基準)

IFRSの場合は、のれんについて毎期の償却は求められておらず、少なくとも、年に一度の減損テストが要求されているにとどまります。上場企業においては、IFRSと日本基準、どちらで連結財務諸表を作成するかは選択性とされており、買収を積極的に行う企業の経営者の場合、のれん償却費という形で営業利益を圧縮することがないIFRSを採用したいと思うのが通常です。

日本基準とIFRS、シンプルに見ればのれんの償却費によって営業利益を傷めないIFRSのほうが圧倒的にいいように感じますが、仮に減損が生じてしまった場合には、IFRS基準ですとこれまで償却されていないのれんが一気に費用として計上されることになり、株式市場の健全性を阻害する原因になります。日本基準の会計処理の原則は、『費用は早めに、利益は遅めに』の、保守主義の考え方を貫いており、その理念がのれんの会計処理にも反映されています。
一方、IFRSではそもそものれんの耐用年数を見積もることは通常困難であるし、毎年、減損テストを実施して事業が順調であれば、純粋な費用ともいえないのれんを償却というかたちでわざわざ費用計上して、投資家を混乱させる必要はない、といういかにも合理的な考え方のもとに成り立っています。

企業の業績判断において大切なこと(アマゾンの事例)

日本と国際的な会計基準に大きな差異があるのれん、その差異の原因には、企業の健全性の判断にあたり日本は営業利益偏重型の投資意思決定であるとしばしば指摘されます。日本市場の投資家は営業利益が黒か赤か、営業利益が順調に推移しているかに重きを置きます。
一方、国際的な会計の立場に立った場合、営業利益は一つの指標であり、EBITDAなどのキャッシュフローの状況を加味して、企業の業績の良し悪しを判断すべきであるという傾向が強いことが挙げられます。これはどういうことか?次の事例で解説していきます。

アマゾンという企業があります。2014年、アマゾンの利益は▲2億4100万ドルの赤字でした。しかし償却費控除前の利益、キャッシュベースの利益であるEBITDAは49億2400万ドルの黒字であり、この差額は減価償却費47億ドルの影響でした。読者の方には、アマゾンといえばECサイトの会社というイメージのほうが強いと思いますが、アマゾンの営業利益の約7割は、企業向けのクラウド提供サービス「AWS」が事業の柱となっています。その事業の柱の成長を支えるため、アマゾンは世界中のデータセンターを買い漁っています。そのため当該データセンターに係る減価償却費が多額に計上され、利益を圧縮していたのです。アマゾンはEBITDAベースで測ると多額のキャッシュを生み出していますが、収益性だけで測ると損失で終わっています。
このように、企業の業績の判断にあたって利益だけで判断するのは、誤った判断となることが多く、利益とキャッシュフローなど多面的に判断しましょう、というのが国際的なファイナンスの考え方で、日本にも普及し始めています。

まとめ

話をもとに戻すと、先日のリリースにおいて、IFRSにおいても、日本基準と同様に、のれんを償却する方向にもっていこうという可能性があることが示唆されました。
現在、日本の上場企業でもIFRSを採用し、のれんを非償却で据え置いている企業も増えています。IFRSにおいてものれんの償却の処理が求められるようになった場合、そのような企業においては、多額の費用が計上され、利益を圧縮する可能性があることが問題となります。日本のIFRS採用企業ののれんは2022年3月末時点で約31兆円あると言われており、仮にに既存分を償却する変更が行われた場合、20年償却でも年間約1.5兆円、費用が増えることになります。その際、上記で述べた考え方のように、必ずしも利益のみで判断するのではなく、のれん償却費などの非現金支出費用(費用には計上されているけれど、現金の流出はすでに終えている費用)について利益に足し戻した、EBTIDAなどを加味して業績を判断しよう、という考えがより重要になってきます。
そもそもIFRSの採用が日本でも認められるようになったのは、会計基準についても国際的なルールを統一することで、比較可能性を担保し、よりグローバルでの投資を加速しようというのが本来の趣旨です。のれんの償却化が求められた場合、確かに一時的に利益を圧縮しますが、それはどの企業も同様であため、比較可能性という観点では必ずしも悲観的な要素ばかりではないといえます。

のれんの償却についての日本と国際的な会計処理の違いは、長年にわたり重要な差異として議論されてきました。国際的な会計基準を司るIASBのアンドレス・バーコウ議長により、今年の秋にものれんの処理についても方向性を採択する方針であることが明言されました。

ついに会計分野で長きにわたり議論されてきたのれんの償却問題に終止符が打たれる日が来るのでしょうか?

公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして5年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年は京セラコミュニケーションシステム㈱とAIベンチャーの㈱RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISHのM&A等を手掛ける。

チーフマネージャー
IT業界専門グループ
グループリーダー
竹葉 聖