コラム

世界食品大手は日本大手の営業利益率の1.5倍以上!? 日本の食品業界の営業利益率は何故低いのか?

渡邉  智博

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渡邉 智博

日本M&Aセンター 業界再編部 食品業界専門グループ シニアチーフ(2023年12月時点)

業界別M&A
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こんにちは。(株)日本М&Aセンター食品業界専門グループの渡邉です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。

日本の食品業界における営業利益率がそこまで高くないこと(大手企業で10%程度)であることは広く知られていますが、世界の大手食品企業ではその1.5倍以上の営業利益率になっていることはご存じでしょうか?

M&Aにおける譲渡価格算定においては、譲受候補先が「どれくらいの期間で投資を回収できるか?」という視点が必ず入ってきます。すなわち「譲渡企業はどれくらいの利益を生み出すのか?」と言い直すこともできるでしょう。
今回は、どうすれば日本の食品業界の営業利益率がより高まるのか一緒に考えていきたいと思います。

世界と日本の営業利益率比較


出典:各社IRより日本M&Aセンター作成

世界の時価総額ランキング上位にある食品企業は日本に比べて高い営業利益率を誇ります。
日本でも馴染み深い企業で見ていくと、ペプシで14%、対するコカ・コーラは28.6%と極めて高い営業利益率となっています。スターバックスで16.0%、マクドナルドにいたっては脅威の42.5%となりました。(各社IR資料より日本M&Aセンター作成)ペプシを除き、いずれも15%を超えていることが特徴と言えるのではないでしょうか。

一方で、日本の時価総額が高い食品企業(たばこ産業を除く)では、ヤクルト本社および日清食品HDで11%台ではあるものの、その他の企業は10%を割る結果となりました。
今やグローバルな時代で、為替の違いは大きいものの、原料や機械など同じようなものを準備することもできなくはありません。それにも関わらず大きな差が生まれる要因はどこにあるのでしょうか。

利益が多いということは、それだけ投資の対象にもなりやすいことを表しています。例えば、ネスレの時価総額は41兆9440億円(2022年4月時点)であることに対し、日本の食品業界(たばこ産業を除く)で最も時価総額の大きいアサヒグループホールディングスは2兆4462億円で、日本2位の味の素は1兆7463億円となっています。

日本特有の商習慣

日本は大きく分けて2つの原因で営業利益率が低くなっていると言われています。

一つが『サプライチェーンが非常に複雑で、中間マージンが多く発生している』ことです。
具体的には、原料メーカーや生産者からの直接仕入ではなく、間に卸売業者など複数の企業が入ることも多くあります。小売店に卸すなどの販売ルートについても同様のことが言えます。

これは決して悪いことではなく、中小企業にとっては単独では難しいことをまとめて代行してくれる存在がいるということです。結果的に起業のハードルが下がるため、日本の食品業界には多数の中小企業が生まれ、食文化が多様化していることは事実です。日本の商業施設を訪れた際には、ビルの中に1店舗ずつ違うジャンルのレストランが入っており、世界各国の料理を堪能することができます。海外を訪れてみると分かりますが、これだけ多様な選択肢がある国は非常に稀であり、私たちの多くはその恩恵にあずかっています。

ただ結果的に中小企業が増加し、中間マージンだけではなく、同じ業界の中で競い合うなかでの商品の価格設定の難しさなど、営業利益率をなかなか高められない構造にあります。

自動車産業が国内では大手数社に集約されているように、食品業界で時価総額の高い企業は、アサヒHD、キリンHD、サントリー食品インターナショナルなど、既に国内再編を終えているビール業界など、競合の少ない分野となっています。国内人口も減少するなかで、競い合うだけではなく、一緒になることで利益率を改善していく術を模索する時代に来ているのではないでしょうか。

二つ目の要因として『日本人消費者はセンシティブな人が多く、サービスコストが相対的に高い』ということが挙げられます。
ものづくりで大きくなってきた日本は商品に対するこだわりが非常に強いこともあり、また、国民性としても繊細です。「安全」よりも「安心」が重視されることもあり、例えば、賞味期限についてもできるだけ直近で製造されたものを購入したいという意識があることや、缶詰などで中身の違いはなくとも缶に凹みがあることがクレームに発展することもあるということは想像に難しくないのではないでしょうか?

安心を求めることは当然ですが求めすぎることは、結果的に賞味期限切れによる廃棄ロスや商品回収など、他国と比べても日本の営業利益を圧迫する要因となっています。

しかしながら、作り手側から見ると『単独での仕入れは難しいし、顧客が求める以上、その繊細な要望にあった商品を作るしかない』というところだと思います。それでは日本企業はどのように、その利益率を高めていけば良いのでしょうか?

経営の効率化を最大限に高めていく

1.特定分野に特化した専門店を目指す

外食であればラーメン・焼肉など、食品製造であればパン・チョコレートなど専門業態に特化していき、なかでも売れ筋商品に絞っていくことで利益率を改善することができます。

例えば、食材原価が40%で販売価格が1,000円のチョコレートがあったとすれば食材原価を除いた粗利(工賃は含まない)は600円です。ここでは簡易的に、工場の家賃や水光熱費は考えないとして、時給1,000円のパートが製造する場合、1時間あたりに最低でも2個の生産ができれば利益が出る。これを2個ではなく、3個、4個と個数を増やすことができれば利益は増大していきます。

そのためには「大量に作っても売れると思われる人気商品を見極めること」や「作る工程を分解して1人あたりの作業が単純作業になり、作り続けることで熟練化しスピードが上がっていくこと」が大切になってきます。また、食品ロスを減らすために「なるべく賞味期限の長い商品」を選ぶことも重要となるでしょう。菌検査や感応検査を行うなかで、どこまでは顧客に提供できるのかといった見極めをしていくことも重要です。

人気商品の移り変わりを考えれば、一定の商品開発も必要ですが、多品種少量生産になればなるほど利益率は悪化していきます。せめて、ある程度は原材料が統一されていることが大切です。ある外食店では、店舗ではカオマンガイを提供しながら、オンラインでは同じ鶏むね肉をボイルしたものをデリバリー用のサラダチキンとして販売するなどもしています。

その場合、鶏むね肉を茹でるというオペレーションは共通化されているので、無駄がなくなっていきます。こうした一つの商材、原材料に特化していく取り組みは中小企業にとっても必要になっていくでしょう。
単一商品を磨いていく中で「他の業態にも取り組むべき」と考えた際には、M&Aで他の専門業態を譲り受ける、もしくは大手のグループ参加に入って、グループ全体で多様なポートフォリオを実現していくという選択肢が有効になってきます。

2.固定費を圧縮していく

地代家賃などの固定費を削減していくことで利益が出るのは当然ですが、あまり見直しされていないことも多いかと思います。

例えば、東京を主な商圏とするお弁当製造会社があったとして、東京に工場があれば便利であることは言うまでもありませんが、例えば、工場が埼玉だった場合に物流費は上がるかもしれませんが地代が下がるなど、トータルでどちらがコスト削減に繋がるかという観点で見直しをしていくことは非常に重要です。場合によっては、自社で工場を持たずともOEM製造で外部に委託するという選択肢も検討ができます。

外食では「坪売上」という指標が重要視されますが、これは他の業種においても同じことが言えるのではないでしょうか?飲食店や食品小売店においては坪売上を最大化するための客席やキッチンの配置はどのようなものか、食品製造業においては工場が広すぎないか、機械の設置は適切で売上に繋がらない空間がないかなど定期的に改善を繰り返していくことで企業としての収益性が高まっていきます。飲食店や小売店のなかには広告宣伝費を削減するかわりに目立つ立地にフラッグシップとして進出するなどのケースもありますが、その分、広告宣伝費が削減されているかなどの計算は重要です。

「日々の経営が忙しくて、そこまで考える時間がない」という経営者も多くいらっしゃると思いますが、そのような場合にもM&Aを活用されることで解決できることが多いのではないでしょうか。事業経営の選択肢を広く持つためにもM&Aについて考えてみられてはいかがでしょうか?

いかがでしたでしょうか?
今後も食品業界専門チームから最新の業界情報をお届けさせて頂きます。

食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

著者

渡邉  智博

渡邉 わたなべ 智博ともひろ

日本M&Aセンター 業界再編部 食品業界専門グループ シニアチーフ(2023年12月時点)

大学卒業後、リクルートに入社。法人営業や営業マネージャー等を経験し、日本M&Aセンターに転職。2020年度には同社で最も多くの食品製造M&Aを成約へと導いた。2022年にはバーチャルレストランのM&Aも手掛け食品業界の最新トレンドにも明るい。著書に「会社を売る力 業界再編M&A最前線」​「The Story 食品業界編」​(共にクロスメディア・パブリッシング)

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