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ファーマシィとの資本提携で注目されるアインホールディングスの歴史と挑戦

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はじめに

2022年5月9日、多くの調剤薬局業界関係者が驚いたのではないでしょうか。業界最大手のアインホールディングスが、中国地方を中心に100店の調剤薬局を持つファーマシィホールディングスの全株式を取得し、完全子会社化することを発表したのです。

取得額は非公表ですが、ファーマシィホールディングスの2021年3月期の売上高は約215億円で、アインホールディングスのM&Aとしても、過去最大規模となりました。本件のM&Aによって、アインホールディングスは1,200店舗を超える調剤薬局を擁するグループ企業となり、今後もM&Aを中心に80店舗ペースでの出店拡大を掲げています。

調剤事業を行っている上場企業上位10社の売上高推移

出典:各社IR資料をもとに日本M&Aセンター作成

このようなM&A戦略のもと、さらなる店舗網の拡充を図るとともに、M&A先との相互の事業ノウハウを融合し、患者サービスの充実を実現することで、全国における地域医療のインフラとしてグループの企業価値向上を目指すアインホールディングスですが、その背景にはどのような歴史が存在するのでしょうか?

本稿では、M&Aで業界再編を牽引するアインホールディングスの歴史と成り立ちを紐解くことで、調剤薬局経営者の方々のみならず、日頃より調剤薬局経営者と信頼関係を築かれている会計事務所や金融機関の皆様にとって、業界全体の理解を深めるための一助となれば幸いです。

アインホールディングスの企業概要

アインホールディングスは、調剤事業をメインに行う企業としては最も大きい売上高を誇っており、2021年4月期の売上高は2,973億円となっています。売上高構成比は、調剤薬局1,065店舗を展開する主力のファーマシー事業が2,631億円、コスメ&ドラッグストア69店舗を展開するリテール事業が194億円、その他事業が148億円を占めています。


出典:アインホールディングスIR資料をもとに日本M&Aセンター作成

また、2021年4月期において、現預金552億円に対して借入金が120億円(短期借入金37億円、長期借入83億円)と財務基盤が安定している点も、M&A戦略を積極的に推し進めていく上で同社の強みと考えられます。

同社が掲げるグループスローガンは「美しい意思をもとう。」であり、調剤薬局事業に留まらず、美と健康に特化した新しいスタイルのコスメティック商品ブランド「アインズ&トルペ」や、ストレスに負けない肌へ。をコンセプトとした化粧品ブランド「アユーラ」の経営を手掛けています。

このように同社は事業を通じて「美容と健康」を市場に提供することで、健康寿命の延伸、ひいては社会保障費の削減にも貢献するなど、一般的に定義される調剤薬局という概念枠を超えたグループの総合力によって社会的課題の解決にも取り組んでいる、まさにリーディングカンパニーに相応しい経営の在り方と言えるでしょう。

アインホールディングスの歴史と挑戦

創業者である大谷喜一社長は1980年(当時28歳)、ドラッグストアの運営を行う株式会社オータニを設立しました。その後、臨床検査事業の展開を経て、調剤薬局事業を柱として成長していきました。

調剤薬局業界において、医薬分業(▽医薬分業の解説はこちら)の促進が推進されていた2000年頃までは、社長自ら積極的にドクターに対して直接院外処方の提案を行うなどして、順調に店舗数を増やしていました。

しかし、全国で同様の戦略・スピードで店舗数を伸ばす調剤薬局企業が群雄割拠する中、スピーディーな全国展開を目指し、2001年、M&Aに積極的に取り組む方針を打ち立てました。

M&Aに積極的に取り組んでいく方針を立てた約1年後、同社にとって大きな転機となる今川薬品とのM&Aが行われ、2003年3月期には当時最大となる130店舗を擁する調剤薬局企業となりました。

本件M&Aが調剤薬局業界におけるM&Aの概念を一変させる契機となったのは、譲渡企業の今川薬品の今川社長が、譲受企業であるアインホールディングスの中核企業であるアインファーマシーズの代表取締役会長に起用されたことです。2002年~2010年までの8年間と長期に亘りこの体制は続きました。

当時M&Aは「業績不振の小企業を大手企業が買収する」といったイメージで語られることが多く、調剤薬局経営者にとっては後ろめたい選択肢でした。しかし、本件M&Aは「業界大手同士」であり、「M&A後も看板は変更しない(約15年かけてようやく看板を変更)」など、調剤薬局業界における友好的M&Aの先駆けとなり、現在でも語り継がれている代表的な事例となりました。

さらにその後も、M&Aによりグループ傘下となったダイチク出身の大石美也氏がアインファーマシーズの代表取締役社長に就任するなど、出身企業にとらわれない人事評価制度を構築していることも、M&A成功の秘訣であるように思います。

このように買収された企業の社長が買収した会社の代表取締役に就任したという事実や、譲渡企業の意向を最大限尊重する同社の社風は、譲渡を検討する経営者にとっても、「自社の社員が差別されることなく大事にしてもらえる」安心感に繋がり、結果として同社を指定したM&A譲渡の希望企業が増えているのではないかと思われます。

出典:アインホールディングスIR資料をもとに日本M&Aセンター作成

最後に、同社のグループステートメントは「まず、社員が幸せを感じられる会社でありたい。」という一文から始まります。当然ながら、この「社員」にはM&Aで譲り受けた企業の社員の方も含まれます。このように「人」を大切にする企業はM&A戦略も成功する傾向にあるため、同社はM&Aによって業界トップまで成長することができたのではないでしょうか。

20年後の薬局経営を見据え、今取り組むべきこと

報酬改定や薬価改定による収益の減少に加えて、異業種参入による競争激化や後発医薬品の供給不足など調剤薬局を取り巻く経営環境は大きく変わってきています。ビジネスフェーズを引き上げ、より良い医療の提供を実現し、20年後も患者から選ばれる薬局を作るビジョンが、今の調剤薬局経営者には求められています。

特に調剤薬局業界は業界再編が遅れており、全国における店舗数がコンビニエンスストアよりも多い一方で、上位企業による寡占化が進んでいません。今後の医療費抑制を企図した診療報酬の改定や薬剤師の採用難などの要因から、調剤薬局業界において寡占化が進行することは確実です。冒頭のアインホールディングスのM&A事例のように、地域を代表する高収益の調剤薬局が、大手への譲渡を決断するケースが急増しています。

薬局経営者にとって重要なのは、最新かつ正確な一次情報を常に仕入れておくことで、有事の際に柔軟に即行動できるように準備をしておくことです。M&Aはさまざまな経営戦略におけるひとつの選択肢にすぎませんが、冒頭の報道を受けて、自社単独での経営に不安を覚えた方や、将来的な譲渡を選択肢としてお考えの方、M&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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