M&Aレポート
M&A・買収を考えた物流経営者が真っ先に考えること5選
2022.6.17
- 物流

近年物流業界のM&Aが増加しており、「取引先が後継者がいなくて、○○グループに入った」や「○○会社をグループに迎えたことでこんな相乗効果が生まれた!」という声は多く聞くようになってきたようです。周りでM&Aが起こるようになり、M&A自体の敷居がかなり下がった今日この頃は、全ての企業にとって、M&Aは経営戦略の一つになっています。とは言え、M&A未経験の企業がほとんどです。まず何から考えるべきなの?という声は多く寄せられます。そんな企業様にご参考になれば幸いです。
目次
なぜするのか?を明確にする。“立ち位置”を持つこと
M&Aをするのはなぜなのか?を明確にする必要があります。
なぜするのか?はどこへ向かっているのか?とほぼ同じ意味を持ちます。そしてそれを考えるのにあたり、自社は今どのポジションにいるのか、また今までどういった道のりを歩んできたのかを振り返ることも大切です。伝統と挑戦はいずれも大切なことで、どちらも忘れてはいけません。まとめると下記の通りです。
(ゴール)なぜするのか?を明確に
○今まで自社が大切にしてきた伝統を考える
・・・伝統はその企業の文化であり、抽象的にとらえることが大切
○どこへ向かっているのかを考える
・・・これからの戦略であり、ある程度の具体性を持たせる必要がある。その際に先ほどの抽象化した伝統を考慮することが大事
これらを明確にしておくことは、案件を見る際の視点にもなりますし、判断材料になります。また、銀行や自社の従業員への説明、あるいは案件を進める際のトップ同士の面談の際に、「貴社を譲受けたい」理由に深みを持たせることが出来ます。
ベンチマークとする企業はどこか?
M&Aをしたことのない企業は、ベンチマークの企業をつくることをお勧めします。(ベンチマーク:比較のための指標や基準)それは、先ほどのゴール設定と絡みますが、他の企業と比べることで自社の評価をすることができるのです。
ここでは、ベンチマークの作り方について2種類紹介します。
(1)大手企業の軌跡をベンチマークとする
例えば、M&A戦略で大きくなった企業と言えば、SBSホールディングスなどが代表例として挙がるでしょう。別のコラムで解説をしましたが、SBSホールディングスは2004年に上場をしてから4年間で20件ほどのM&Aを実施しました。SBSホールディングスの成長の軌跡を自社と重ねて戦略を考えるのも一つ有効な作戦でしょう。
(参考:https://reorganization.nihon-ma.co.jp/report/1955/)
大きな成長を目指すにあたり、大きく成長をしている企業の方法を幅広く情報収集することは大切です。先ほどは上場企業を例として挙げましたが、非上場企業でも、大手はM&Aを実施ししている企業がかなり多いです。そういった企業がなぜM&Aをしていて、どこを目指していているのか。どんな手順で進めていて、どういった特色があるのかなどは情報を集める必要があるでしょう。
(2)自社と同じ規模の企業(競合)をベンチマークにする
別の切り口としては、自社と似ている別の企業をベンチマークとする方法です。例えば、同じエリアで展開をしている企業で、規模感が同じ程の企業などは参考になりやすいでしょう。京セラを目標にして、日本電産が成長をしていったのは有名な話です。京セラの自社ビルが95mだったことを意識して、日本電産は100mのビルを建てたというエピソードがありますが、それほどまでに意識をすることが会社を成長させるきっかけになるのです。
規模感とエリアが同じであれば、例えば、自社に提案が来ているM&Aの案件が同じようにその企業にも来ているかもしれません。チャンスは平等にある場合、5年後の差を生むのは現在の行動です。
いつまでに達成するのか?
よくありがちな失敗例を紹介します。「M&Aで売上○○億円を達成したい、そのためにM&Aをしたいがなかなかいい案件がないから進んだことは無い」これは現実に本当に多くいるケースです。
前提として、ぴかぴかの会社をM&Aで安く譲り受けることはほぼ不可能に近いです。それは、需要供給の兼ね合いから考えれば明らかでありますが、物流業界の中でM&A戦略をとりたいという企業がこれほど増えている中、「悪いところで選択肢から弾く」のではなく「良いところを評価する」目線で物事の判断が必要なのです。
そのために、必要なのは「いついつまでに目標を達成する」という信念です。○○億円という目標は掲げているものの、期限設定がない。そんな企業はすごく多いですが、そういった企業に推進力はありません。今回の案件はだめでも、次の案件は良いだろう。という視点では、良い案件は来ませんし、良い案件が来ても、進める覚悟がないということすらあるでしょう。
上場企業は、中期経営計画の中で、4年後までに○○の売上を達成するということを株主に宣言をしています。もし達成できなければ、株主への宣言を裏切ることになります。それは、外部株主はもちろん、持ち株を保有している従業員への裏切りでもあるのです。それに近いプレッシャーをかけることが、企業の推進力を生んでいくのです。
優先順位を明確にする
先ほど少し触れましたが、この世の中に完全にニーズに合致するぴかぴかな案件はありません。例えば、「愛知県で、売上が10億円以上、倉庫は自社保有で、従業員の平均年齢は35歳以下、自己資本比率40%の案件を探している」というような要望を聞きますが、このような案件は出てこないですし、出てきても競合になり、既にM&Aを何件も実施している企業が競合に競り勝つことが多いです。
そのため、重要なのは「要素を分解して優先順位を決定」しておくことです。そうすることで、案件を検討するうえで間口が広がることなります。
例えば上の「愛知県で、売上が10億円以上、倉庫は自社保有で、従業員の年齢は35歳以下、自己資本比率40%の案件を探している」を直すと
①エリアが最優先(愛知近辺)
②2番目は売上高(できれば10億円以上ほしい)
③倉庫保有であるとなお嬉しい
④従業員の年齢は若ければ若いほどいい
⑤自己資本も高い方が理想
という形で要素を分解して考えます。その中で、「絶対に譲れない」ものはどれなのかを検討してみてください。
M&Aでは、「悪いところで選択肢から弾く」のではなく「良いところを評価する」目線で物事の判断が必要であり、その中でも優先順位を決めることで、案件の判断がつきやすくなるのです。
予算を考える
M&Aはもちろん費用が発生しますから、予算のことを考えなければいけません。中堅・中小企業のM&Aの相場であれば、譲渡価格で50,000千円~500,000千円あたりがほとんどかと思われます。もちろん、以前のコラムでお伝えした通り、企業の中身によって、譲渡対価は異なりますので、「割安」なのか「割高」なのかという視点必要になりますが、絶対額の投資額としては。これくらいを見込んでおく必要があります。
そのため、多くの企業は、手元キャッシュではなく銀行のファイナンスと相談をすることになるでしょう。自社の財務状況の中では、どれくらいの投資額の案件を見ていく必要がるのかというのは、一つの目線感として検討をしておく必要があります。
ただし、銀行の融資については、M&Aを検討している対象会社の中身によっても、融資が通るかどうかの決定は左右されることが多いので、そのあたりも検討をしていく必要があります。
まとめ
コンサルタント紹介
株式会社日本M&Aセンター
業界再編部 物流業界専門グループ チーフ 宮川 智安
群馬県出身。実家は七代続く水産業の卸売。早稲田大学卒業。2020年新卒で日本M&Aセンターに入社し、全国の物流業界を専門にM&A業務に取り組む。2021年度同社で最も多くの物流業界M&Aを成約へと導いた。同年度新人賞。運行管理者資格保有。