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M&Aレポート

2024年に迫る、医師の働き方改革。タスクシフティングで薬剤師の役割はどう変わる?

2022.6.22

  • 調剤薬局

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いつもコラムをご愛読頂きありがとうございます。日本M&Aセンターの太田昇真です。

令和時代において、ますます加速する「働き方改革」の流れは医療現場にも広がりつつあります。その代表的な取り組みの一つが医師から他職種への「タスクシフティング」です。

「タスクシフティング」とは、いわゆる業務移管のことであり、これまで医師が担当していた業務の一部を、薬剤師をはじめとしたコメディカル(医師と協同して医療を行う医療専門職種)の方々が実施することにより、医師の長時間労働や業務上の負担増を軽減しようという動きです。

これまでも厚生労働省は、医療に従事する多種多様な医療スタッフが各々の高い専門性を前提に目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供することを「チーム医療」と定義し、推進してきた経緯があります。

上記の「チーム医療」をさらに発展させる形で、各医療関係職種の専門的能力を活用し、より質の高い医療を患者に提供することが「タスクシフティング」の目的です。

本稿では、コラムをご愛読頂いている薬局経営者の皆様が今知っておきたい、タスクシフティングが薬剤師の役割に及ぼす影響について考察しました。

タスクシフティングが求められる背景

そもそも何故、今タスクシフティングが注目されているのでしょうか?

前提として、日本の医療は医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられている側面が大きく、長年に亘って医師の働き方改革についての議論が積み重ねられてきました。

そしてついに、医師に対して時間外労働の上限規制が適用される「2024年4月」を目の前にして、政府は医師の業務のうち他の職種に移管可能な業務についてタスクシフティングの実現を目指していく方向性を打ち出しました。

その理由としては、医師の労働時間の短縮を着実に推進していくことに加えて、「医師でなければできない業務に医師が集中できる環境づくり」を行うことで、過重な負担が軽減されて医療ミスを犯すリスクも低下するため、患者本位の医療に直結するからです。

また、海外の医療現場では、看護師や介護士など職種の異なる人が仕事を分担するタスクシェアや一部を移管するタスクシフトは日本よりも非常に進んでおり、度々比較の対象となっていました。

日本においても、コロナ禍によってワクチンの打ち手不足問題など医療の効率の悪さが浮き彫りになったことから、海外の医療現場をモデルとして改革が迫られています。医療は業界団体の抵抗も多い分野ですが、真の患者本位へ、政府の改革実行力が問われています。

タスクシフティングが薬剤師の役割に及ぼす影響

2022年の政府の規制改革推進会議(日本の企業や医療などの生産性を高めるため、規制の緩和を議論する組織)において、医療・介護分野では在宅医療の現場での規制改革案が挙げられています。

薬剤師や看護師が協働して医療現場を支えている中で、一部のタスクをシェアすることができないかということですが、特に人手不足の在宅医療で顕著になっているためです。

医療従事者の仕事は法律に基づき細かく定められており、患者のニーズや医療現場の実態にそぐわないことも多々ありましたが、今後は職種の壁を超えたタスクシフティングによって、薬剤師が看護師の仕事を分担する場面も増えていくと予想されます。

具体例を挙げると、在宅医療中の患者が痛みを訴え「薬が欲しい」と言った場合、現行の規制のもとでは医師が判断して処方箋を出して、薬剤師が患者の家を訪れて薬を渡した後に、看護師が訪問して点滴の交換などを行います。

このようなケースにおいて、薬剤師が点滴を行う権限を持っていれば、患者の痛みを早く和らげることができる上、看護師もわざわざ家に行かなくていいというメリットが出てきます。

「薬剤師が代わりに点滴の交換や充填をすることができないか」という議論が巻き起こる中で、各々の専門職の領域を侵犯することに繋がるのではないかと危惧している薬剤師の方も多いかと思います。

しかし、むしろ私は上記のようなタスクシフティングが世に広く実現されることによって、医師の働き方改革の推進という社会問題解決にとどまらず、薬剤師の社会的地位を向上させる大きなチャンスであると考えています。

これからの薬剤師に期待される役割

過去、薬剤師の社会的地位について考察したコラム(▼https://reorganization.nihon-ma.co.jp/report/2527/)でも、薬剤師の職能を上げていくことが薬剤師の医療現場での存在感を高めていくことに繋がると述べてきました。

薬剤師の本質がもっぱら調剤業務のみに留まることなく、6年間の高度教育を経て培われた専門的知見を生かし、人材不足に対応しうる効率的で生産性の高い業務にシフトしていくためには、業界構造の変革です。

これからの薬剤師は、調剤を主体とするのではなく、専門職として処方内容を分析し患者や他職種に助言する「コンサルティング」機能や、薬物療法のプロトコルを策定する機能を強化すべきであり、調剤業務のプロフェッショナルとして、積極的にチーム医療の一員としてのプレゼンスを発揮すべきであると考えています。

現在、病院においては、薬剤師の病棟配置や他職種との連携などを通じたチーム医療が進められていますが、病棟での持参薬管理や服薬管理にとどまらず、医師に対して治療効果や副作用のモニタリングのための検査を含めた薬物療法の提案を行うことにより、薬物療法の有効性、安全性の向上が期待されます。

さらに、外来診療の場面においても、医師の診療の前に、薬剤師が残薬を含めた服薬状況や、副作用の発現、状況等について、薬学的な観点から確認を行うことで、医師の負担軽減に繋がると考えられます。

このように、国が期待している医療従事者の生産性と付加価値の向上において、薬剤師の専門性や知見は極めて重要な役割を担っており、今後タスクシフティングが進化する中で、従来以上にその能力を遺憾なく発揮する機会が広がっていくでしょう。

終わりに

医師や看護師は、臨床現場にいる以上、日々現場で起きている様々な事象ややりとりを体感するチャンスがある一方で、調剤薬局の薬剤師には極めて限られているように感じます。外来患者が処方箋を持って訪れるのを待つだけでは、全ての人にいつかは訪れる「死」を体感する機会は殆どないと言えるでしょう。

「何人調剤できたか」「1人あたり何分で処理できたか」「調剤ミスは何件あったか」など、業務を機能的に捉える薬剤師の性質そのものが、チーム医療の一員として薬剤師が認知され難い要因の一因になっていたのかもしれません。

しかし、これからの薬剤師は、チーム医療の一員としてプレゼンスを発揮し、医療現場の中で職能を上げることを強く期待されている立場であり、タスクシフティングは大きなターニングポイントになり得るでしょう。その先に薬剤師の社会的地位の向上という未来が待っているのではないでしょうか。

そして、薬剤師に求められるハードルが高まるのと同様に、薬局経営に求められるハードルも高まりを見せており、具体化には継続的な教育体制や採用力、また今後益々進むデジタル化にも対応しなければならない企業体力など、一社単独では実現できない領域も多々出てくるかと思われます。

こうした状況下において、時代に則したより良い医療の実現を目的として、お互いの強みと弱みを補完し合うために、地元で長く続く中小薬局と大手企業が提携するようなM&Aも今後はより増えていくと考えられます。
調剤薬局業界を取り巻く環境の変化に対応するべく、譲受け・譲渡いずれにおいても経営戦略の一つとしてM&A戦略を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

M&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。



執筆者プロフィール



株式会社日本M&Aセンター 
業界再編部 調剤薬局業界専門グループ 太田 昇真

京都市出身。実家は関西にて飲食店など7事業40店舗を展開する創業50年の総合サービス業。同志社大学法学部卒業後、株式会社船井総合研究所を経て、日本M&Aセンターに入社。入社以来、調剤薬局業界を専門に、M&Aを活用した事業の発展・存続のための支援を行う。幼少期より囲碁と空手に打ち込み日本棋院4段、空手は黒帯で大学選手権優勝の経験もある。