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M&Aレポート

M&Aにおける株式の取得の方法

2022.6.29

  • IT

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事業承継型のM&Aの場合、100%株式譲渡を前提として契約を締結するケースが多くなります。これは、株式を一部、既存株主に残すメリットが少ないためです。また、株式の対価については通常、買主が支配権を獲得するタイミングで譲渡をしたほうが、「支配プレミアム」が加味され、株式評価は高くなる傾向にあります。近年、事業承継型のM&Aだけでなく、IT業界を中心としてスタートアップと大手企業のM&Aも増加しています。国内のスタートアップの資金調達環境の充実により、起業の数自体は増加傾向にあります。

毎年、上場できる企業が約100社、それに対して上場予備軍といわれるスタートアップは約3,000社あるといわれており、上場できなかった企業2,900社の中から、IPOではなくM&Aで大企業にジョインするというケースも今後増加してくることが考えられます。

設立間もない企業の場合(事業承継型のM&Aではない場合)、将来の期待値を株価に織り込むことがあります。そのようなケースで活用される株式の譲渡スキームとしては、「アーンアウト」や「段階譲渡」というスキームが用いられます。しばしば混同される両者について、その違いを簡単にまとめていきます。

目次

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アーンアウトについて

アーンアウトとは、M&A取引の実行(クロージング)後の一定の期間において、買収の対象とされた事業が特定の目標を達成した場合、買主が売主に対して予め合意した算定方法に基づいて買収対価の一部を支払う手法をいいます。アーンアウトは、買収対価の一部後払い的な性格を有しますが、その主たる目的は、M&Aの条件設定の際、売主と買主が買収条件に容易に合意できないような場合に(売主は、将来の成長を見込んで高い評価をつけてほしい、一方で、買主は将来の成長のボラティリティが確定するまでの期間は最初に支払う額を抑えたいと考えています)、株価の一部について、買収後における一定の目標達成と連動させることにより、売主・買主でリスクの適切な配分を行うことを目的としています。

ここで一つ気を付けておきたいのが、対価の後払い部分についての売主と買主で取り扱いが異なる点です。

一定期間経過後、晴れて条件が達成されて買主において追加の対価の支払いが現実のものとなった場合、この際、買主では対価の追加支払い分は、株式の取得原価を追加的に認識するとともに、のれん(又は負ののれん)を追加的に認識することになります。なお、追加的に認識するのれんは、クロージング時点で認識されたものと仮定して計算し、追加認識する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理することとされています。すなわち、追加支払分については買主のほうでは株式の対価の一部として扱われることになります。

一方、売主の処理(税務上)は買主側の処理とはリンクしません。具体的には、売主側では対価の追加支払い分は株式の対価でなく雑所得として扱われることになります。これは売主側が個人株主だった場合において何を意味するかというと、納める税金の額の違いとして大きな影響を及ぼします。税法上、株式の譲渡により生じた所得については、約20%の税金負担が生じることになります。一方、雑所得の場合は、最大約55%の税金負担となるなど、個人株主にとっては大きな違いとなります。そのため、単に条件が達成されて追加で株価が支払われるとしても、税金負担後の金額で売主側はそもそもの条件を検討する必要があります。

アーンアウトは、一般的に、会社の設立後間もなく、業績の安定性が確保されていないベンチャー企業の買収案件や、将来の業績達成の不確実性が高いバイオ製薬業界等におけるM&A取引において用いられることが多いスキームです。日本の公表事例でアーンアウトが用いられた例としては、株式会社ディー・エヌ・エーによる、米シリコンバレーのベンチャー企業でスマートフォン向けアプリを開発するngmoco,Inc.の案件や、大日本住友製薬における、がん領域を専門とするバイオベンチャー企業の買収案件などが過去の事例として挙げられます。

段階取得

段階取得とは、文字通り株式を段階的に取得する方法をいいます。例えば、一段階目の取得で70%を取得し、二段階目の取得で残りの30%を取得する方法があります。買主にとっては、最初の手出し金額を極力抑えられる反面、売主からすると、二段回目において業績が伸びていた場合、一段階目の株価よりも高い評価で譲渡することができるというメリットがあります。一方で、買主が一段階目で売主の議決権割合の2/3以上を取得した場合などは、理論上、株主である買主の決議によって取締役の交替が可能になるなど、(単独株主で経営した時と状況が異なる)会社の意思決定機関への影響が大きいことなどに留意する必要があります。

議決権割合の2/3以上を取得している単独株主によって決定可能な事項(一部)

・取締役、監査役の選任、解任
・役員報酬の決定
・剰余金の配当
・譲渡制限株式の買い取り
・監査役及び累積投票で選任された取締役の解任
・定款の変更
・事業譲渡の承認
・組織の変更、合併、会社分割の組織再編等

M&Aによって、既存株主と新しい株主が混在する場合などには、株主間契約を締結するケースなどがございます。株主間契約とは、会社の株主同士が締結する、会社の運営に関する合意事項を定める契約のことです。M&Aの場合、「赤の他人」同士が共同で会社を経営することになるので、株主間契約によってルールを決めておこうとする流れになりやすい傾向があります。

株主間契約として定める事項について、明確な規定はありませんが、一般的なものとしては下記が挙げられます。

①売渡の強制
経営者株主の方が取締役としての地位を失った場合に、当該株主がその後も会社に影響力を及ぼすことを防ぐため、取締役ではなくなった経営者に対して会社株式を売り渡すことを義務付ける条項が規定されます。

②株式の譲渡禁止
見知らぬ第三者が知らないうちに株式を取得し、経営に参画することを防ぐため、他の株主の承諾がない第三者に対する株式譲渡が禁止されます。
 
③議決権の拘束
株主総会でのいわゆる「造反」を防ぐため、事前に議決権行使の方法について協議による調整・合意を行う義務が規定されます。
なお、合意に至らない場合に備えて、賛成当事者が反対当事者の有する株式を買い取ることができる旨の規定を置くことも考えられます(デッドロック条項)。

④違反した場合のペナルティー
契約違反が生じた場合に備えて、損害賠償によってペナルティーを課す旨を規定しておきます。実際の損害額を算定するのは難しいケースも多いため、あらかじめ一定額の違約金を課す規定とすることも考えられます。

まとめ

株式の取得のスキームに当たっては、売主、買主のそれぞれの要望に差異がある場合にさまざまなオプションを考慮して、両者によるすり合わせの結果、契約の内容が固まっていきます。ただ、契約書の内容だけにとどまらず、M&A直後から円滑なPMIを実施していくためにもM&Aのディールの最中から適切なコンディション作りが必要となってきます。そのためにも、ある程度業種においてM&A成約経験のあるM&Aコンサルタントがアドバイザーに入ることにより、契約後のトラブルを抑えることが可能になると考えられますので、些細な点でも結構ですので、ご相談お待ちしております。



公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして5年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年は京セラコミュニケーションシステム㈱とAIベンチャーの㈱RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISHのM&A等を手掛ける。

チーフマネージャー
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グループリーダー
竹葉 聖