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「半導体業界の展望」 ルネサスエレクトロニクスの事例を踏まえて

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かつて半導体は航空機やミサイルの制御など、軍事用で使用されることが一般的でした。今ではロボットや通信機器はもちろんですが、自動車や家電にも使われており、私たちにとってより身近な存在となりました。
社会の中で必要不可欠なものである半導体ですが、業界では、全世界的に熾烈な生産・開発・販売競争が起き、各社生き残りをかけ、様々な施策を行っており、企業同士の統合や協業、合併など、様々な再編が起こりました。しかし、うまくいったものばかりではなく、経営破綻や倒産へ追い込まれた事例も少なくありません。
本コラムでは具体的な事例を交えながら半導体業界の動向を踏まえ、今後の展望について考察していきます。

半導体業界とは

鉄や銅、アルミニウムなどの電気をよく通す物質を「導体」、ゴムやガラスなどの電気を通さない物質を「絶縁体」、導体と絶縁体の両方の性質を持っているものを「半導体」と呼びます。半導体は、両方の性質を持っているだけでなく、温度や周囲の環境によって絶縁性能(伝導率)が変わる点が特徴です。

半導体業界は、「開発」「設計」「製造」「組立」の4つの製造工程から成り立っています。それぞれの工程を独立して製造する企業を水平分業型企業、全ての製造工程を行う企業を垂直統合型企業と呼びます。例えば、大手の垂直統合型企業の一つとして、2013年にエルピーダメモリを買収したマイクロン・テクノロジーが挙げられます。
その他には、半導体の基板となる素材シリコンウエハーを提供する材料メーカーや半導体製造装置メーカーも業界内のプレイヤーとして存在しています。

世界の半導体メーカー別売上ランキングトップ10

出典:書籍「図解入門業界研究 最新半導体業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」をもとに日本M&Aセンターが作成

半導体業界の今後の展望

この業界は米中貿易摩擦、新型コロナウイルス感染拡大の影響による生活様式の変化(パソコン需要の増加)、加えてウクライナ機器の影響により、半導体不足の解消の目処が立っていません。しかし、過去にはパソコンやスマートフォンなどの電子機器を中心に成長していましたが、今後は私たちの生活に密着したIoT機器や電気自動車などの需要が高まることから、半導体の需要は引き続き高まっていくことが想定されます。

元々、「自動車は半導体の塊」と呼ばれます。これまではエンジンコントロール、カーナビ、オーディオ、ワイパー制御やETCなどに使われていましたが、昨今では衝突回避システム、安全システム、自動運転システムなどの開発が進み、半導体の需要はますます高まっていくでしょう。

個別企業で見ても、2015年に大手半導体メーカーであるインテル(Intel Corporation)が自動車向け半導体に強みを持つメーカーであるアルテラ(Altera Corporation)を買収しました。これにより、インテルは自動車用の半導体市場を獲得することができ、自動運転、車内体験、電気自動車などの市場への足掛かりを作ることができました。

次にエヌビディア(NVIDIA Corporation)は、同社は画像処理や人工知能に強みを持ち、そのグラフィック処理の技術はゲーム機市場で絶大な信頼を得ています。近年では車載向けの半導体事業に取り組んでおり、同社が製造する自動運転に適している車載用半導体「NVIDIA DRIVE Orin」は世界乗用EVメーカーの推定シェア60%を占めると言われています。

上記のインテル、エヌビディアのように自動車産業に関連する半導体を製造している企業にとっては、電気自動車や自動運転などは特に追い風になるでしょう。

ルネサスエレクトロニクスの事例

先に記載したインテルはM&Aによる成長戦略に取り組んでいますが、国内半導体関連企業のM&Aも積極的に行われています。ここでは、ルネサスエレクトロニクスの事例を紹介します。同社は東京都に本社を構える半導体メーカーです。2003年に日立製作所と三菱電機の半導体部門を分社・統合しルネサステクノロジが設立されました。NECの半導体事業を手掛けていたNECエレクトロンデバイスカンパニーを分社・独立したNECエレクトロニクスとルネサステクノロジが経営統合され、2010年に現在のルネサスエレクトロニクスが統合新会社として設立されました。ルネサステクノロジ、NECエレクトロニクス、両社とも業績が悪化したため統合し、規模で競合他社との差別化を図ったものの、事態は好転しませんでした。そのため、人員削減や「事業の選択と集中」を行い、さらに経営を安定化させるために取った手段は、M&Aでした。

ルネサスエレクトロニクスの変遷

出典:書籍「図解 ルネサスエレクトロニクス―ひと目でわかる!」をもとに日本M&Aセンターが作成

合計1兆円以上のM&Aを実行

同社がM&Aを行う目的は、アナログ半導体部門の強化です。アナログ半導体はIoT関連製品やAIに使用されることが多く、例えばIoT関連製品で言えば、電源となるアナログのパワーマネジメントICがなければ、そもそもIoT製品は動きません。ルネサスエレクトロニクスはIoTやAI分野の成長があると見据え、アナログ半導体部門に着目しました。

2017年にアナログ半導体の大手であるインターシル(Intersil Corporation)、2019年には半導体部品の設計と製造を行うIDT(Integrated Device Technology)の買収を行い、その買収額は合計で約1兆円となりました。両社とも半導体企業ですが、経営不振に陥っていました。さらに、ルネサスエレクトロニクスが行ったM&Aが明確なシナジーが効果を期待できないものと世間から批判され、2018年ごろから大幅に株価が下がりました。

そんな中、2021年にダイアログ(Dialog Semiconductor Plc)を約6157億円で買収しました。ダイアログは、イギリスのアナログ半導体会社です。ルネサスエレクトロニクスはダイアログの持つ低電力技術により、IoT分野への更なる強化を目的としていました。この買収を発表した日、ルネサスエレクトロニクスの株価は前営業日比3.61%下がりました。(日経平均は前営業日比2.12%高)

日経平均が上がっている中での株価急落の理由は、ダイアログの買収による財務負担が懸念されたことが大きな要因です。また、過去に買収したインターシル、IDTとの相乗効果が表れていない中での追加買収であり、それは投資家から懐疑的な見方をされました。
果たして、ルネサスエレクトロニクスのM&Aは失敗だったのでしょうか。

堅調な決算推移

実際にルネサスエレクトロニクスの直近の決算を見てみると、元々同社は自動車向け事業が売上を牽引していました。しかし、21年の第2四半期の産業・インフラ・IoT向け事業が売上の中心となっています。


※ 出典:ルネサスエレクトロニクス 第1四半期決算説明会(2022年4月27日)投資家向け資料をベースに日本M&Aセンターが作成
売上は前年同期と比較して70.2%のアップとなっています。売上が7期連続で増えており、堅調に推移していると言えます。半導体業界全体が追い風であることを差し引いても、同社の産業・インフラ・IoT向け事業が売上の中心になりつつあることを考慮すると、アナログ半導体部門の強化を目指したM&Aが良い方向に働いているように思えます。直近で買収を行ったダイアログについても今後数年かけて売上を押し上げることが予測されます。

ルネサスエレクトロニクスは、東日本大震災、福島県沖地震、那珂工場の火災などに見舞われています。いずれも復旧力が驚異的であり、凄まじいスピードで回復していました。いくつもの災害を乗り越えてきた同社は、経営面でもかつての勢いを取り戻すことはできるはずです。

まとめ

今回は半導体業界の動向を解説しました。近年は自社の成長、または生き残りをかけてM&Aを行う企業が増えています。譲受け側の目線が多くなりましたが、どの事例についても譲り受けた企業の強みをどのように生かすかということに重きを置いています。

これからもM&Aは企業が成長していくための手段の一つであり続けるでしょう。本日解説した半導体関連はもちろん、その他製造業のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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