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M&Aレポート

上場企業の株価と未上場企業のM&A株価の関係について

2022.7.7

  • IT

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先日M&Aにおいての譲渡を検討されているオーナーから株価についての質問を頂きました。質問内容は、以下の通りです。

“ロシア軍がウクライナに侵攻した影響を受け、足元での日経平均株価は下落基調である。そのような状況の中ではM&Aの株価も下がってしまうのではないか?”

感覚的には上場企業の株価が下がった場合、M&Aの株価も下がってしまうように思われますが、実際はどうなのでしょうか。
本コラムでは、上場企業の株価と未上場企業M&A株価の関係について解説します。

コロナ禍以降、日経平均株価は大きく変動している

2020年以降、日経平均株価は大きく変動しています。
まず最初に大きな影響があったのは2020年2月~3月にかけてです。新型コロナウイルスの世界的な大流行を受け、世界的な株安が起こり日経平均株価も大きく値を下げることとなりました。

その後、日本銀行による上場投資信託(ETF)の積極的な買い支えにより、一転して日経平均株価は急上昇することとなります。2021年9月には、バブル崩壊以来31年ぶりの高値を更新するなど、大きな話題となりました。
そして、直近2022年2月にはロシアがウクライナに軍事侵攻を行い、日経平均株価は少なからず影響を受けました。

現在の株価はコロナ禍のピークと比較し多少落ち着いているとは言え、管制相場による高値圏に位置しているものと考えられます。コロナ禍前の日経平均株価は2万3000円台であったのに対し、現在は2万6000円~2万8000円を行き来しており、依然として高い水準であるものと考えられます。この間、M&Aにはどのような影響があったのでしょうか。

国内のM&A件数と日経平均株価の関係について

株価について考える前に、日経平均株価によってM&A件数に影響が出たのかどうかを見ていきたいと思います。
もし仮に上場企業の株価と未上場企業のM&A株価との間に相関関係があるのであれば、日経平均株価が下がるタイミングはM&A件数が減少する可能性が高くなります。売主からすると、市況が悪くM&A株価が低いタイミングよりも、譲渡を先延ばしにして株価が高くなるタイミングを待つことになると考えられるためです。

出典:レコフM&Aデータベースと日経平均プロファイルより日本M&Aセンター作成

上記は日経平均株価と月毎のM&A件数を纏めたグラフになりますが、日経平均株価とM&Aの件数に殆ど相関関係が無いように見受けられます。

また余談となりますが、M&A件数は3月と12月に件数が大きく増加する傾向があるのですが、これは決算への影響や心情的な理由から、年内・年度内に成約させようとするスケジュールが多いということが挙げられます。

バリュエーションの理論から読み解く影響について

次にバリュエーションの視点からどのような影響があるかを考えてみたいと思います。
バリュエーションの理論上は、上場企業の株価が下がるとM&Aの株価も下がることとなります。M&Aの代表的なバリュエーション手法の一つに類似会社比準法(マーケットアプローチ)という手法があります。

これは評価を行う対象企業と類似する上場企業を複数選定し、当期純利益やEBITDA(償却前営業利益)や当期純利益等の財務指標からみて、類似企業の時価総額が当該指標の何倍程度に相当しているかを算出し、その倍率を対象企業の同様の指標に当て嵌め評価を行うというものです。

話を単純化させて考えると次のようなイメージとなります。

・類似上場企業の時価総額が100億円
・類似企業の税引後利益が10億円
・類似企業の時価総額は税引後利益の10倍相当となっているため、対象会社も税引後利益の10倍相当の評価額とする

※上記の例は類似企業は1社のみとし、また非流動性ディスカウントなども考慮していないという前提です。

このように類似会社比準法はその性質上、類似上場企業の時価総額が高まると、掛け算を行う倍率が高くなるため、評価額も上がることとなります。逆に類似上場企業の時価総額が落ちている場合、同様の理由から評価額は下がることとなります。

実際の影響は限定的である

大前提としてM&A株価の割高・割安等の公的なデータは存在しません。そもそも金額を公表しないことも多い為、わかりようが無いのです。ですが、日本M&Aセンターでは年間約1,000件のM&A成約実績があり、かなり精度の高い推定が可能と考えています。

結論を言うと、日本M&Aセンターの成約事例においては日経平均株価の上がり下がりのトレンドによって、M&Aの株価が影響を受けていることはないと考えています。

事実として2021年から2022年6月現在に至るまで、バブル崩壊以降では高水準の日経平均株価となっていますが、それによるM&A株価の高まりという現象は殆ど見られません。
逆にコロナウィルスの流行が顕在化した時期や、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった時期など、突発的に株価が急落する場面も幾つかありましたが、やはりそういったタイミングでM&A株価が影響を受けたケースは殆どありませんでした。

また、M&Aを本格的に検討している譲受け企業・譲渡企業と話をしていても、特段株価の市況を気にしている方々は殆どいらっしゃらないのではないかと感じています。

M&A株価を決定する要素は膨大であり、複雑なプロセスである

以上の理由から、上場企業の株価と未上場企業のM&A株価について、バリュエーションの理論上は影響がある筈だが、実際は殆ど影響していないと私は考えています。これは理論が軽視されているということではなく、M&A株価が複数の要因から決定されていることに起因しているものと考えられます。

未上場企業のM&Aの難しさの一つに、企業評価の客観的なマーケットバリューが存在しないということがあります。上場企業であれば、需要と供給に基づいて株価と時価総額が決定されるため、会社の価値(時価総額)は所与の数字となります。

一方で未上場企業は客観的に基準となる株価が存在しない為、複数のパラメーターから総合的にM&A株価を判断し、更に合意に漕ぎ付けなければならないのです。

対象会社の収益性、M&Aマーケット内でのニーズ、譲受け企業とのシナジーなど、M&A株価を決定する要素は膨大です。そのように考えると、ファイナンス的な観点でのバリュエーションは参考的指標の一つに過ぎないということと、更にそこに影響を与える上場企業の株価相場というのは、間接的かつ影響が小さいということなのでしょう。

従って、M&Aを検討される場合、足元での株価の変動には惑わされず、本質的かつ直接的な要因を注視して決断頂くのが良いものと考えられます。

最後に、幾つかの留意点についても触れておきます。
第一に、現在の上場企業の株価は外部的な要因に左右されている側面が強く、企業の収益力などのファンダメンタルが十分に反映されていないものと考えられます。逆に企業の好業績に伴って株価が高騰しているのであれば、M&A関連の投資にも積極的となり、結果としてM&Aの株価もポジティブな影響が出る可能性が考えられます。

第二に、上場企業株価の下落が著しい局面においては、上場企業が買収に晒されるリスクや、資本市場からの資金調達が困難となるリスクなどがあり、M&A関連の投資に消極的となり、結果としてM&Aの株価にネガティブな影響が出る可能性なども想定されることでしょう。

M&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。



コンサルタント紹介


株式会社日本M&Aセンター 
業界再編部 IT業界専門チーム シニアチーフ
田中 菖平

上智大学経済学部卒業後、日本M&Aセンター入社。業界特化型の業界再編部の立ち上げ時から在籍。ITソフトウェア業界を専門とし、豊富な成約実績を持つ。2017年度ディールオブザイヤー金賞受賞。