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M&Aレポート

「自社の企業価値は机上で計算できない!?」

2022.7.19

  • 製造

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昨今、多くの金融機関やM&A仲介会社が、無料で企業価値の簡易算定を行っていますが、ひとえに「株価」と言っても、算定する目的によって、その意味合いや算定結果は大きく異なります。
M&Aの世界においては、多くの評価方法が存在し、どの方法を選択するべきか見極めることが非常に困難です。本コラムでは、「自社の株価・計算方法を正しく知ること」「魅力的な株価での売却を実現するために必要な考え方」の2点を発信します。

算定目的によって異なる2つの「株価」

「御社の企業価値。評価してみませんか?」
金融機関やM&A仲介会社からこのように投げかけられたことのある経営者の方々は、少なくないと思います。
企業の価値、すなわち株式価値の評価方法というのは一つではありません。

上場企業であれば、誰が見ても明らかな市場株価が日々設定されておりますが、非上場企業については、株価算定の目的や、計算方法次第で、株価の算定結果も大きく変化します。

顧問税理士の先生等がしばしば出してくれる「相続税評価額」は、「税務上の株価」という位置づけで、その名の通り相続税の評価に使われる株価で、基本的にはどの先生が計算しても、ほぼ同じ計算結果になります。

それに対して、主に当社のようなM&A仲介会社が計算する株価は、「M&A株価」すなわち「第三者が株式を買うと仮定した金額」です。計算手法も複数存在し、かつ収益性や業界特性等の前提条件を、どう考慮するかで評価額が大きく変化します。

自社の株価を算定することをお勧めした際に、よく「顧問税理士に株価算定してもらっているので、別にいらないよ」と言われることもありますが、「全く別ものですよ」と説明しています。第三者に売却した際の株価は、全く違った計算方法となることから、M&A株価の算定プロセスや、現時点での自社の株価を大まかにでも把握していくことは、非常に大切です。

M&A株価の主な計算方法

M&Aの株価計算は、保有資産の評価と収益性をバランスよく反映させた「時価純資産+営業権法」、類似業種の上場企業の株価水準を自社にあてはめて計算する「類似業種比準法」、将来生み出すキャッシュフロー予測に着目した「DCF法」等様々、存在します。

中堅・中小製造業における最もベーシックな計算方法は、「時価純資産+営業権法」です。
会社が持つ資産価値(BS)と稼ぐ力(PL)の両方をバランスよく考慮して、評価する方法は、ロジックそのものも納得感を得やすい計算方法です。

他方、設立年数が浅く、伸び盛りのベンチャー製造業等は、未来成長性を加味したDCF法(未来の収益をベースに株価を算定する)を選択する等、どの評価方法を選択するかについては、ケースバイケースで考えていく必要があります。

譲渡する側の企業からすると、「一番高く算定してもらえる評価方法で作ってよ」と思われるかもしれませんが、譲受けする側の考え方とロジックが合わなければ、いくら高い株価を見積もろうが、机上の空論にしかなりません。

当社で企業価値の評価を依頼頂いた際は、依頼主の企業の成長ステージや、ビジネスモデル等を考慮して、最適な方法をチョイスし、「企業価値評価書」として、M&A検討の入り口段階で、オーナー経営者様に情報共有させて頂いております。

企業価値評価をお見せすると、時にはこのような感想をいただきます。
「企業価値が思ったより低いので、M&Aにむけて動くのはまだ先かな・・・」
「他社の評価のほうが高かったけど、御社はあまりうちの価値をわかってくれてないようだね」

どちらも率直かつ正直な感想かと思いますが、企業の本当の株価、つまり実際にいくらで譲渡が可能かどうかは、いくら前提条件を精緻に整えたとしても、机の計算ではじき出せるものではありません。

「机上価値」と「市場価値」の両方を知ろう

逆に、それならば「企業価値評価書」が果たす役目は何なのでしょうか?
M&A仲介会社のアドバイザーが計算する、理論上の株式価値が果たす役割は、いわば「モノサシ」です。

M&A検討プロセスの中で、譲受け企業から、例えば「3億円」と条件提示された折に、世間的に高い水準なのか、果たして逆に割安な条件になっているのか、「企業価値評価書」という客観的なモノサシがなければ、合理的に判断することができません。

他方、実際のM&Aの譲渡価額については、合理的かつ精緻な計算プロセスで決定することがほとんどありません。

「どうしてもこの技術が欲しいので、相場の倍でも是非進めたい」というケースもあれば「M&A後の追加投資も考慮すると、相場の7割程度が現実的かなぁ」という判断に至ることもあります。

つまるところ本当の企業価値は「譲受け側次第」なのです。

自社の「市場価値(本当に自社がいくらで売れるのか)」は、実際に候補となる企業に提案をして初めて、明らかになります。「テストマーケティング」という言葉があります。

自社がいくらで売れるかに高い関心のあるオーナー経営者様に対しては、机上の評価を幾度もシミュレーションするよりは一度、市場に自社の価値を問いかけてみる、いわばテストマーケティングを私はお勧めしています。

当然ながら、秘密保持を遵守した提案が前提となりますが、複数の企業からの実際のオファーを見比べてみることで、自社の価値を見出してくれる新たな企業像が発見できるかもしれません。

「企業評価は机の上で起こってるんじゃない、市場で起こってるんだ!」
そんなところでしょうか。

高い株価を実現する2つの要素

このテストマーケティングにおいて重要な事は、「会社の業績」だけではなく「タイミング」が非常に重要です。

過去(2007年頃~)後継者不在を理由に会社の譲渡を検討していたある優良企業(利益率20%以上)のオーナーの話です。
そのオーナーは、リーマンショック前から、会社譲渡の可能性を検討しておりましたが、なかなか踏ん切りがつかず、具体的なアクションを進められずにいたところ、2009年リーマンショックが訪れたことを契機に、譲渡に向けたアクションをスタートさせることになりました。

譲渡対象となる企業については、盤石な経営基盤により、リーマンショック下でも黒字・安定経営を続けられていたため、当初、相手探しは全く問題ないと踏んでおりましたが、その後3年経っても、希望する条件を提示する譲受け企業が現れることはありませんでした。
リーマンショックによって、「譲受けができる体力の残っている企業が大幅に減少してしまった」のが大きな要因です。
高い企業価値が実現するかどうかの条件は、自社の状況だけではなく、市場環境も非常に重要なのです。

仮に、自社の状況が横ばいであったとしても、買いたい意欲のある企業が市場にあふれているタイミングであれば、好条件での譲渡が可能になります。他方、上記の例のように、いくら自社の業績・景況感が上向き加減であったとしても、買収を検討している会社が多い、業界の「旬」のタイミングを逃してしまうと、納得いく価格での譲渡は難しくなってしまいます。

業界それぞれ、「旬」の時期が存在します。M&Aで高い株価額が付きやすいタイミングは、成長期を超えて成熟期に差し掛かるかどうかというタイミング、この時期をどう見極めるかによって、企業価値は大きく変わってきます。

ガソリンスタンドやドラッグストアといった業界は、中堅・中小企業も含めて、かつて多くのM&A(業界再編)が発生しましたが、今現在においては、大手企業の統合・切り離し等以外のM&Aはほとんど行われておりません、少し前にピークと言われていた調剤薬局業界も2020年を差し掛かる前のタイミングでM&Aの旬のタイミングは過ぎました。

「譲渡せざるを得ないときに譲渡できない、譲渡したくないときこそ譲渡し時」と、あるオーナー経営者がおっしゃっていましたが、自社や業界の「ベストタイミング」を見極めて、積極的に自社の価値を市場に問いかけてみる思い切りと決断力を持てるかどうかが、企業価値最大化の秘訣なのではないでしょうか。

製造業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。

京都大学経済学部卒業後、株式会社キーエンスに就職。セールスエンジニアとして製造業の生産ラインの効率化に8年間従事。その後、日本M&Aセンター業種特化事業部 製造業支援室長として中堅・中小製造業の成長戦略・事業承継に係るM&Aの専門としている。

チーフマネージャー
製造業界専門グループ
グループリーダー
太田 隼平