MENU
CLOSE

M&Aレポート

【~2020年上半期まで】物流業界M&Aの歴史とこれから

2020.8.17

  • 物流

Facebook Tiwter LINE

物流業界の現状

物流業界は、ネットショッピングやECサイトの普及に伴って年々市場規模を拡大している。特に、新型コロナウイルス感染症による外出自粛要請によって各業界が苦しむ中、自宅での消費行動がより一般的になり、物流業界はさらに需要を増した。

しかし、物流業界にとって、この状況は諸手を挙げて喜べるものではない。むしろ、需要や市場規模の拡大によって、現場の疲弊感は増すばかりであり、業界が抱える課題も浮き彫りになってきているのである。

物流業界の課題は、大きく分けて以下の3つが指摘されている。

①ドライバー・人材の不足
②激務化
③業務効率の低下

少子高齢化によって人材不足が叫ばれる中、ネットショッピングの普及で小口配送が増え、トラック1台あたりの積載量が大きく減少している。さらに「送料無料」を売りにした企業の増加や再配達要請の増加が追い打ちをかけ、ドライバーの業務は激務化している。

2017年以降、運賃の値上げが相次いでいるものの、激務によって人材が定着せず、業務の効率低下を招いているのが現状だ。業務効率の低下はさらなる激務を引き起こし、それによって人材不足が加速する。

上に挙げた3つの課題のそれぞれが引き金となって、負のスパイラルを形成しているのである。

上記のような問題を抱え、物流業界は大きく動こうとしている。

この記事では、運送業界のM&Aの歴史と動向について紹介する。このようなタイミングだからこそ、M&Aと言う新たな選択肢を検討することで、様々な課題解決の一助になれば幸いである。

物流業界の歴史と最古のM&A

近年増え続ける輸送量と深刻な人手不足、加えて労働規制の強化により、運送・物流業界は激動の時代を迎えている。まずは、物流業界のM&Aの歴史と現在の動向について紹介する。

馬車から鉄道へ

江戸時代以前の日本では、幹線輸送は馬車輸送が担っていた。そして、馬車輸送業を開業しようとすると、馬や馬車の調達、さらには幹線上の中継地点である宿駅の維持運営が必要であったため、相当の資力と信用がなければ開業ができない業種だった。資力や信用による参入障壁が高い業種であったと言える。

しかし、明治以降、鉄道網が整備され、幹線輸送の主役が馬車から鉄道へ移り変わり、それに伴い物流業者の役割も変化していった。主要業務は「馬車輸送およびそれに付随する集配業務」から「鉄道貨物取り扱い」に質的転換を果たしたのだ。

鉄道貨物取り扱い業とは、鉄道貨物輸送の両端の貨物取扱駅において、荷主と鉄道の間に介在し、鉄道輸送を補完し、発荷主戸口から着荷主戸口までの輸送を遂行する事業を指す。

具体的には、荷主・貨物駅間での貨物の集貨・配達、貨車への積み卸しなどの物理的作業や鉄道貨物の取扱業務(事務的作業)から成り立っていた。

鉄道貨物取扱業は、馬車輸送をしていた時代と比べ、わずかな人間とハカリがあれば簡単に開業できる点が特徴だ。そのため、小規模業者が乱立し、やがて鉄道輸送の効率と円滑な取引を阻害するようになっていった。

政府主導による集約合同

このような混乱した事態を解消するため、大正15年6月、鉄道省は小運送業界の集約合同に乗り出す。具体的には、中央においては大規模統括会社の合同を行うことで事業者数を抑制した。

また地方では、各駅において、それまで同一の駅で過当競争を繰り広げてきた運送店が合同して、1駅1店の合同会社を設立していった。これら一連の官製合併が、物流業界の最古のM&Aと言えるのではないだろうか。

ちなみにこのときの経過を踏んで誕生した合同運送会社が、のちに日本通運統合政策を経て誕生した「日本通運」だ。こちらのM&Aも官主導で行われた点が特徴である。

物流・運送業界でM&Aが活性化する理由

いま物流業界では活発にM&Aが起きている。M&Aというと、一昔前は身売りや乗っ取りというイメージを持つ方も多くいたが、現在は多くの方に「中小企業M&Aは存続と発展のための手段」と正しくとらえてもらえるようになった。弊社の山本夢人が講師を務める物流企業向けのM&Aセミナーなどでは、M&Aを活用して企業を発展させたいという経営者の方に多くご参加いただいている。

未上場企業のM&Aの目的は、譲渡側としては主に事業承継と会社の更なる発展を目指すこと。譲受企業にとっては、年々早くなるビジネススピードへ対応するための成長手段だ。皆さんの身の回りでもM&Aが増えてきて、ここ数年間でより身近に感じるようになった方も多いのではないだろうか。未上場企業のM&Aは必ずしも対外発表をする必要はないので、屋号や事業内容はそのままに、いつの間にか株主が変わっていた、ということも頻繁にある。

とりわけ物流業界は、今M&Aが活発に起きている業種の一つで、最も大きな理由は後継者不在の問題だ。なぜ後継者不在に起因するM&Aが多いのか、解説する。

そもそも日本全体の後継者不在企業は全体の65%で、3分の2が事業承継の問題を抱えている(出典:帝国データバンク)。物流業界の後継者不在率は平均とほぼ同じ66%だが、オーナー社長の平均年齢が全業種平均と比べて高いという傾向は見逃してはならない。

ただ、後継者不在といってもただ「子供がいない」というだけでなく様々なケースがあり、それが後継者不在率を押し上げている。まずはどのようなケースがあるのか、具体的に見てゆこう。

子供が継がないケース

1つ目は、子供が継がないケースだ。

オーナー社長のご子息は多くの場合、後継ぎ候補として良い教育を受け、有名大学に進学し、立派な会社に入ってキャリアを築く。一流企業で要職に就いていたり、医者や弁護士になっていることもある。そして父親であるオーナーがそろそろ引退、という年齢になると、ご子息もすでに30~40代半ばで責任のある立場になり、家庭を築き、子供の教育プランも決まっている。

そのような環境から、中小企業のオーナー社長になることに抵抗を感じるご子息が非常に多くなっているのだ。本人が良くても連帯保証や担保提供が必要になってくると、奥様が反対することも考えられる。

逆に、起業家のDNAを受け継ぎ、親の会社を「継ぐ」のではなく「自ら創業」したいという意欲的な方も存在する。お嬢様しかいない場合、特に嫁いでしまっている場合などは、ほとんど後継者候補にはならない。

子供がいるが、能力や適性の問題で継げないケース

2つ目は、ご子息がいるが、ご子息の能力や適性の問題で継げないケース。中小企業の場合、ご子息が役員として入社している事はままある。営業職に適性があったり、生産ラインの効率化や生産性アップのための業務改善には非常に高い能力を発揮したりと、特定の分野では優秀であっても、経理、総務、など全体を見渡し、リーダーシップをとって会社を率いる必要がある経営者に向いているかというとそうではない、ということがしばしばあるのが現実だ。

経営手腕は生まれついた能力に左右されることが多い。人口減少で運送業界だけでなく日本のマーケット全体が縮小していくのは明白であるので、その中で会社を伸ばしていくためには創業者以上の手腕とカリスマ性が必要とされる。

現在30~40代の子供を持つ60~70代くらいの創業社長の頃は、高度成長期で人を雇い、車を買えばある程度成長できたという部分が少なからずあるだろう。しかしいまは、企業のライフサイクルは短くなる一方で、ビジネスモデルや経営戦略を発案し実行していけるイノベーター経営者が必要な時代だ。

現状を維持していれば生き残れる時代は終わった。売上利益を伸張させるには今まで以上の手腕が必要となる。「先代以上の手腕とカリスマ性、そして経営者の能力を兼ね備えた人材は10人に1人」という説もある。能力や適性のない子供に無理に継がせて、会社を傾かせるわけにはいかないのだ。

子供に継がせたくないケース

3つ目は、お子様がいるが継がせたくない、というケース。

先代社長は会社創業の頃から今まで、幾多もの試練や苦難を乗り越え、酸いも甘いも知り尽くしている。良いことも沢山あった一方で、その倍以上の苦労もしてこられた経験があるので、そういった苦労を子供に経験させたくない、という気持ちが生まれるのも、必然的なことだろう。

また、現代はもはや長男が絶対に家を継ぐという時代でもない。息子には息子の、娘には娘の人生を歩んでほしいという考えがある。

約25年前の日本の合計特殊出生率は1.4程度で、うち男子は半分の0.7、そのうち上記のような様々な事情により、約半分が会社を継いだとして0.35の承継率。子供がいても、継いでくれるのは3人に1人程度、ということになるだろう。

近年の運送・物流業界のM&Aの動向

会社の後継者探しが難しい原因がある程度つかめたところで、ここからは2017年から2020年までの物流業界のM&Aの状況を説明する。様々な理由で後継者をあてがうことに困難のあった企業が、どのようにその問題を解決してきたのかを、実際の事例を見て学んでみよう。

2017年の物流業界M&A主な一覧

2017年の物流業界のM&A件数は56件だった(出典:レコフM&Aデータベース)。
この56件という数字は、「トラック運送会社」と呼ばれる、主にトラック等の輸送機関を利用した陸上輸送者の公表されたM&Aの件数である。

2013年に約60件とピークに達したM&Aの件数だが、それ以降は減少傾向を辿っている。ターニングポイントは2017年、4年ぶりに昨対増となっており、2018年は72件と約30%も増加していることが読み取れる。

人手不足と拠点拡大のニーズから、今後もM&Aの件数は増加していくことだろう。

2017年を代表する物流業界のM&A

2017年に行われたM&Aのうち、代表的な事例をいくつか紹介する。

ハマキョウレックスと千代田運輸のM&A

2017年2月、静岡県に本社を構える東証一部のハマキョウレックスは協和発酵キリンの孫会社である山口県の千代田運輸から全株式を譲り受けた。千代田運輸は山口県と福岡県に拠点を持ち、売上高は年間12億円程度であった。また、一部報道によると譲渡価額は数億円程度とされている。

ハマキョウレックスは3PL(3rdパーティーロジスティクス)企業として全国展開しており、特に食品・アパレル・医療医薬品に強みを持っており、譲渡企業の千代田運輸も、協和発酵キリンの孫会社として医薬品や食品関連の3PL事業を中国エリアで運営していた。

今回のM&Aでハマキョウレックスは千代田運輸のノウハウや取引先などを獲得することができ、さらには中国地方に新たな拠点を築くことにも成功している

一方の千代田運輸は、メーカーのグループ会社であることが成長の足かせとなっていたところを、物流専門企業の傘下に入ることで解決している。親会社のネットワークや人材を活用することによって、物流企業としての競争力を高めていくことが可能となったのだ。

このような、メーカーの物流部門の切り離しによるM&Aの件数は近年増加傾向にある。

グループ会社は物流会社としての力をつけ、親会社は本業に専念できる。

グループ会社が「自社製品の配送」という制約によって成長を続けていくことが難しくなってゆく中、親会社のメーカーが物流業務をアウトソーシングすることで、両者にとってwin-winの構造が生まれているのだ。

アスパラントグループとタカラ長運のM&A

2017年11月、アスパラントグループが運営するファンドが宝酒造の100%子会社であるタカラ長運の全株式を譲り受けた。なお、譲渡金額は非公開である。

対象企業は長崎県の鮮魚の輸送を起源とする総合物流企業として、長崎県をはじめとした九州地方で事業を展開していた。売上高は約56億円で営業利益は4.1億円程度であった。

タカラ長運は鮮魚輸送会社として1949年に設立され、2006年にタカラ物流システムの出資によって宝グループに参画した。2014年には宝酒造の100%子会社となり、鮮魚だけでなく基幹産業向けの重量物輸送や農産物なども手掛け、総合物流企業に成長していった。

タカラ長運の売上は減少傾向にあり、グループ会社の物流部門では今後の成長に陰りが見え始めていた。また、親会社の宝ホールディングスとしても、主要事業とのシナジー効果が十分ではなく「本業への経営資源の集中」という戦略上の譲渡を実行した。

本M&A実行後、対象会社は社名を「タカラ長運」から「長崎運送」に変更し、アスパラントグループからの役員派遣等を通じてさらなる成長を目指している。

社名変更によって、より一層物流専業企業のイメージがついた長崎運送は、アスパラントグループの支援を受けながら、新規顧客の獲得をはじめとした成長戦略を実施していくことになった。

2017年の物流業界M&Aの特徴

2017年の物流業界の事例として2つの例をあげたが、両者に共通するのは「メーカーが物流部門の会社を切り離し、親会社と子会社が互いに本業に集中して競争力を高めていること」だ。

2017年以前にも物流グループ会社の切り離しのM&Aは行われていたが、2017年を起点として同様の案件は増加、2018年にはSBSホールディングスがリコーのグループ会社を譲り受けるなど、「物流部門切り離し」の傾向は年々顕著になりつつある。

この傾向は、人手不足や国内市場の縮小といった外部環境の悪化への解決策として、本業に経営資源を集中するという各企業の成長戦略が表れていると考えられるだろう。

2018年の主な物流業界M&A案件

2018年の物流業界のM&Aは公表ベースで85件であり、前年同様80件以上ある。10年前と比べるとその数は約2倍を記録し、物流業界のM&Aが徐々に浸透してきていることが垣間見える。
2018年を代表する物流業界のM&A ここからは、2018年に行われたM&Aのうち、代表的な事例をいくつか紹介する。

業界順位を大きく変えたSBSホールディングスによるリコーロジスティクスの買収

2018年当時、売上約1,500億、業界では18位のSBSホールディングスが売上約700億のリコーロジスティクスを買収して話題となった。SBSホールディングスがこのM&Aで業界順位を18位から一挙に12位へと押し上げたことも忘れてはならない。

メーカーに所属する物流子会社は、ドライバーや車両を確保しなければならないという課題に加え、自社グループ内の仕事への偏りすぎた売上構成で悩むことが多い。かといってグループ外での事業拡大は容易ではなく、将来の成長に不安を抱える企業も多いことだろう。

リコーロジスティクスも同様の悩みを抱えており、自前での成長ではなく他社と連携をする道を決断した。

他方、SBSホールディングスは「中期経営計画で売上を2,000億にする」という目標があり、さらにはリコーロジスティクスが得意とするドライ品を全国レベルで強化したいとも考えていたため、この話は願ってもない案件であった。

成長戦略の一手として双方の利害が一致し、成約に至ったのである。M&A後は、互いが所有するトラックや倉庫を共有して使うことや、グループ全体として倉庫の集約化等を行うことで早期のシナジー効果創出を実現した。

「物流子会社の切り離し」、「成長戦略でのM&A」という物流業界の2つのトレンドをつかんで業界順位を大きく変えたこの案件は、M&Aによる業界再編の象徴的な事例と言えるだろう。

ビックカメラによるエスケーサービスの買収

もう1つ象徴的な案件として外せないのは、ビックカメラによる物流部門の強化案件だ。

現代ではeコマースが広がり、ネットを利用した買い物が増加の一途をたどっている。それに伴って、BtoCの業態では、増加し続けるエンドユーザーへの配送需要とそれに対応する人手不足が課題となっていた。

この解決策として、BtoCを生業とする企業の物流部門の強化が一つの流れとなったのである。この案件の、ビックカメラによるエスケーサービス買収もまさにそれを象徴している。

家電量販店等では、購入品を消費者のもとへいかに速く届けることができるかが重要であり、その体制の確立度合いが大きな差別化につながっている。

2018年の物流業界M&Aの特徴

物流業界にはオーナーの年齢が60歳を超える企業が非常に多い。そのため、オーナーの高齢化や後継者不在など、譲渡企業には“譲渡しなければならない理由”があり、いわゆる事業承継型のM&Aが多いのが特徴だった。

しかし、2018年はいわゆる “成長戦略型のM&A” が増加し、一見譲渡する必要のないような収益力や健全な財務体質を持つ多く企業が、大手と手を組むことを決断した。

変化の激しい業界で「自前で成長していくことが果たして将来を考えたときに正解なのか?」という疑問を持ち、縮小する日本の市場の中で限られたパイを奪い合って競争することより、他社と手を組んで新しいビジネス網を作り上げていく協調の戦略をとろうとする企業が増えたと言うことができるだろう。

2019年の物流業界M&A概要

続いては、2019年の物流業界におけるM&A事例を紹介する。

SBSホールディングス×京葉自動車教習所・姉崎自動車教習所

2019年6月、SBSホールディングスが京葉自動車教習所、姉崎自動車教習所を譲り受けた。物流業界が長らくドライバー不足に悩んでいることは周知の事実であるが、人材確保の新たな方策が世に示された初めての事例と言っても過言ではないだろう。

このM&Aの根底にあるのは、ドライバーを教習所の段階から確保していこうという発想である。新たに世に出ようするドライバーとの接触機会にもなり、さらには教習所の段階でグループのカラーを教育できるという点で、非常に効率的な戦略なのではないだろうか。

約6万社あるトラック運送業では、新たな人材を確保するために、他社との差別化をアピールすることが非常に困難になってきている。そのような状況下での新しい人材確保のモデルとして、今後の注目必至事例であるだろう。

ザ・サンパワー×伊豆箱根鉄道

7月、伊豆箱根鉄道はノンコア事業である介護事業を切り離し、ザ・サンパワーに譲渡した。

一昔前までは、多くの企業が事業を多角化し、様々な経営のポートフォリオを形成することで業績を伸ばしていたが、市場が縮小する現在では再度本業に集中する企業が増えてきている。

今回のM&Aもまた、その一環と考えることができるだろう。介護事業は高レベルの経営のノウハウが必要であり、かつ人材不足の悩みが絶えない業界であるからだ。

介護事業専門の企業であっても上記の悩みに苦しめられているのが現状である。一方の物流業界は、今や業界再編の真っただ中にある。どれだけ本業に磨きをかけ、他社と差別化していくか、ビジネスを進化させてステージを変えられるかが重要な経営課題となっているのである。今後もこうした動きには注目が必要だ。

あじかん×井口産交、岐阜プラスチック工業×橋爪運輸

中堅・中小企業では、物流の内製化の動きも出てきた。

近年はリコーやJP、協和発酵キリン等、大手企業の物流部門の切り離しが目立っていたが、これとは逆の動きが中堅中小企業では起こっていると言えよう。製造から物流まで一貫したビジネスは非常に効率がよい。

さらに昨今は、物流を外注している企業が、外注先企業の存続を不安視する声も多く耳にする。後継者問題やオーナーの高齢化は、もはやその企業単体の問題ではないのだ。

物流企業の取り合いになっている地域もあり、自前で物流部門を持っていることは経営の安心感へとつながるため、戦略としては非常によい事例と言えるだろう。

その他のトピックとして、2019年はタクシー企業同士のM&Aが4件あり、前年の2件からは着実に増えている。タクシー業界も、規模を大きくすることによって、ITによる効率化や新たなビジネスチャンスが生まれる業界である。

後継者不在やオーナーの高齢化も他人事ではなく、この業界にも引き続き注目が必要である。

2020年上半期物流関連のM&A一覧と今後のM&A動向

出典:レコフM&Aデータより当社作成

2020年上半期の物流業界のM&Aは27件であり、2019年上半期の件数が28件であったことを考えると、昨年と同じペースでの業界の再編が進んでいると言える。
物流業界はほかの業種と比べ、コロナ禍の影響でM&Aの件数が激減したというようなことは起きていない。

物流業界のM&Aは今後さらに発展していくことになると考えられており、そんな状況下で予測されるのは「成長戦略型のM&A増加」である。
レコフのデータはあくまで公表された事例の件数であり、例えばトラック運送業は6万社中98%が売上10億以下の企業である。つまり、中堅・中小企業のM&Aは実は多いものの、そのほとんどが公表されていない。公表されている件数よりはるかに多くのM&Aが行われている可能性は、常に念頭に置かれるべきなのだ。

実際弊社での成約実績を見ると、2019年度一年での成約件数は11件であったが、今期は第3四半期までですでに11件に到達している。さらには相手探しを始めた企業数も増加(非公表)しているため、必然的に成約数も増加していくのではないだろうか。

中堅中小企業の譲渡の理由については、以下の5点が主だったところである。

1. 後継者不在、オーナーの高齢化
2. 業界の先行き不安
3. 人材確保難
4. コンプライアンス対応への苦労
5. 成長戦略型(大手の力を借り、レバレッジをかけて更なる成長を遂げようという理由)

M&Aで大手の力を借りることで、燃料費やトラック購入費、銀行借り入れの利息等の経費の大幅削減、さらには人材確保の悩みからの解放、その他連帯保証の解除等さまざまな悩みが解決する。

トラック運送業に至っては企業数が飽和件数を迎え、現在では減少の一途をたどっている。
すなわち限られたパイを奪い合う時代に入っているのである。必然的に再編は避けられない状態となっており、今後もM&Aが活性化していくであろう。

「国の働き方改革は現場を理解していない、大手企業のみが達成可能なルールだ」という意見をよく聞くが、裏を返せば政治方針は国に対しての発言力を持たないことには変えられないということである。発言力を持つにはある程度の規模が必要であり、6万社ある企業がそれぞれ各自で戦っていくのではなく、手と手を取り合い、集まることが肝要になってくるのではないだろうか。

今後もこの業界の経営の一助となれるよう、引き続き尽力したい。

続いては2020年上半期の物流業界を代表するM&A事例を紹介する。

SBSホールディングス(東証1部)×東芝ロジスティクス

2020年のM&A事例のなかでも、特に話題に上がったのはSBSホールディングスと東芝ロジスティクスのM&Aだ。

SBSホールディングスは、昨今M&Aを盛んに成長戦略として取り入れ、実行している企業の一つである。特に2018年に行われたリコーロジスティクスとの大型M&Aはまだ記憶に新しい人も多いだろう。

今回の東芝ロジスティクスとのM&Aも、メーカー物流子会社の切り離しM&Aである。SBSホールディングスは、今回のM&Aにより東芝ロジスティクスの持つ4PL事業のノウハウ獲得・海外ネットワークの強化を図った。一方で切り離しを実施した東芝は、選択と集中が狙いである。

「物流子会社の切り離し」、「成長戦略としてのM&A」という物流業界の再編の大きな流れを象徴するM&A事例だと言えるだろう。

鈴与×アライズイノベーション

物流×IT系のM&Aが増えていることもトレンドの一つである。物流業界の企業×ソフト情報・システムのマッチングは6件にのぼっており、(レコフM&Aデータ調べ)なかでも、鈴与は2020年にIT企業と2件のM&Aを実施している。

2020年6月に買収したアライズコーポレーションは、ソフトウェアを主力商品としてAIソリューション事業を展開している企業です。鈴与は今回の買収を通して、グループの業務効率化、自動化を図った。

「物流」に付加価値をもたらすための、物流×異業種のM&Aは今後も増加していくだろう。

非公表のM&A

実際には、中堅・中小企業同士の非公表のM&AがレコフM&Aデータに公表されている件数よりも数多く起こっています。日本M&Aセンターの物流業界のM&A成約実績でみても上半期で7件の成約があり、譲渡の話も増加傾向にある。コロナ禍において、今こそアクションを起こそうという企業は多く、譲渡の相談、譲受をしたいという相談はかなり増えている。

物流業界M&Aの動きについて

ここからは、近年の物流業界のM&A動向について、新型コロナウイルス感染症の状況等を含めて考察する。

リーマンショックを参考にコロナ禍を乗り越える

コロナショック後の物流業界の動きを、リーマンショックを参考にして考えてみよう。

リーマンショックの翌年、会社都合による失業者数は前年比倍増の110万に上り、経済は大打撃を受けた。そんな中、混乱期を好機と捉え、経営手法の有効な一手段としてM&Aを実行し続けたストラテジック・バイヤーも多数存在する。いずれの企業も、平時には成し遂げられない成長を果たしたことが特徴である。

リーマンショック直後は、国内需要減退に対応すべく、生き残りをかけた業界再編型のM&Aが相次いだ。MUFGによる消費者金融大手アコムの買収や、NECエレクトロニクスとルネサステクノロジの合併はリーマンショック直後に起こった代表的な業界再編M&Aである。

物流子会社の切り離しについても、リーマンショックの翌年と翌々年の2009年、2010年が直近10年間で件数の最も多い2年間となっている。

なかでも、リーマンショック後の物流業界M&Aを代表するのは日立物流である。日立物流は、リーマンショック後の2008年から2012年にかけて9件ものM&Aを実施したのである。

国内M&Aにより、国内既存物流事業の効率化・合理化を推し進めながら、国内の新物流領域の強化に成功。同時に世界的な不況であることにも着目し、クロスボーダーM&Aを推進、グローバル物流網の拡充を果たした。その結果、2008年に3,528億円だった売り上げは、2018年に2倍の7,088億円へと増加した。株価は140%増(1,280円→3,075円)を果たし、業容拡大、企業価値向上を実現した。

コロナ禍で混乱している“今” こそ戦略的に動ける企業が、10年後に業界を担う企業なのである。

加速する業界再編

先述の通り、不況時は業界の再編が加速する。
「“今” 経営が変わらなければ、“次” はない。」と私たち日本M&Aセンターは考えている。

いま「動く」ことは、業界を「動かす」ということなのだ。

世界的大混乱の現在、物流企業の中堅・中小企業のオーナー経営者がとるべき行動は、以下の3つが挙げられる。

①企業買収を積極的に展開して業界再編をリードする

②業界トップクラスの企業に自社を売却し、安定したグループの一員として発展してゆく

③同地域に根ざす数社で集まり、ホールディングスカンパニーなどで合従連衡する

昨今では、「会社を譲渡する」ことはネガティブなイメージではなく、ゴールの一つとして浸透してきている。成長戦略としてのM&Aを行うことは、企業の発展にとどまらず、業界の発展に寄与する行為なのである。

業界の再編は譲渡企業側があって初めて成り立つものであり、実は「売り手市場」であることも事実だ。大手と組む成長戦略型のM&Aはタイミングがかなり重要であり、そのタイミングとして “今” は絶好のチャンスであると言えるだろう。

今、買収戦略をとっている企業とは

では、現在のコロナ禍でM&Aによる買収戦略に取り組める企業とは、どのような企業なのだろうか。

新型コロナウイルス感染症が流行する以前の2019年下半期と、流行後の2020年上半期の物流上場企業のM&Aを比較してみよう。
2019年下半期、物流上場によるM&Aはハマキョウレックス、ファイズ、鴻池運輸、トランコム、安田倉庫、日本通運の7件(6社)であった。対して2020年上半期は4件(4社)で、ヒガシトゥエンティワン、山九、トランコム、SBSホールディングスである。

注目していただきたいのは件数ではなく、企業の財務指標。その中でもROE(自己資本利益率)を比べてみよう。ROEは純利益を自己資本で除した指標で、その企業が自己資本をうまく活用して利益を生み出しているかを表す。つまり、ROEを企業間で比較することで、その企業の効率性を読み取ることができる。
実際の数値の比較は割愛するが、その点を考慮して比較すると新型コロナ感染症流行による混乱のさなか、2020年上半期にM&Aを実施した企業が高い数値を出していることが分かるはずだ。

新型コロナウイルス感染症流行前は、ROEが低い企業も投資を積極的に行っていたが、コロナ禍においてもM&Aを行うことが出来る企業は、自身の資産を有効に活用できている企業であると言えるだろう。経済が下降している今、効率性を高めることのできる素地のある企業が、戦略としてM&Aを実施できているということである。

中堅・中小企業を含め、他の業界に比べて効率性の高い物流企業にとって、今ほどの好機会はない。危機の中で動くことの重要性は、日立物流の例が実証している。

いま勇気を出して踏み出す一歩は、業界に勇気を与え、自社だけでなく業界全体に良い流れを作り出すだろう。
その選択肢を取ることのできる企業のオーナー様にこそ、是非とも業界を担っていただきたいと願っている。

私たち、日本M&Aセンター物流業界支援室は、激動の物流業界でコロナ禍の “今” 動こうとされる皆様のお力になれるように、精一杯尽力させていただきたいと褌を締める思いである。

東京大学工学部卒。野村證券株式会社、土木資材メーカーの副社長として経営に参画後、日本M&Aセンターに入社。経営者としての経験をもとに中小企業オーナーの立場に立ったM&Aを提案。2019年度全社MVP・全社最高売上を記録。

業界再編部 部長
物流業界支援室 室長
山本 夢人