コラム

【運送企業向け】『社員の幸せ、自社の成長戦略のためにM&Aを決断』なぜ財務優良・黒字企業が大手と手を組んだのか

業界別M&A
更新日:

⽬次

[表示]

昨今の物流業界はM&Aが経営手法のひとつであるということが認知され始めました。

  • オーナーの高齢化
  • 後継者不在
  • 業界の先行き不安
  • さらなる企業の成長戦略のため

など様々な理由でM&Aが実施されています。

ドライバー不足、経費の圧迫、外部環境の目まぐるしい変化、働き方改革など、様々な理由で苦労を強いられている物流業界、そのような中で経営者は今後の会社の行く末について悩んでおられるのは当たり前のことと思います。

あらゆる経営手法の中でM&Aが注目されていますが、実際、どのようにM&Aが進んでいるのか、オーナーはどのようなことを考えこのような決断を下したのか、今回は事例をもとにご紹介をしたいと思います。

関西の一般貨物運送業のM&A

関西の一般貨物運送業であるA社は売上5億程度、社員数30名、大手企業と直接取引のある財務優良、黒字企業でした。機械配送がメインであり、創業は50年、長く地域に根差した物流企業でした。オーナーのB氏は2代目、年齢は当時69歳でした。

先代から引き継いで以降、精力的に荷主との交渉をし、運賃の値上げに成功、さらには売上拡大のための営業なども成功しており、当時の決算では3年連続の増収増益でした。

オーナーを悩ます苦労

まわりからみれば、とても順調で安定した企業であったが、当時B氏は下記の2つに悩まされていました。

  • 国から求められる働き方改革
  • 自身の年齢
  • 後継者不在

上記三つが当時の悩みの種でした。

ご存じの通り、国からは働き方改革という名のもと、物流企業には様々な負担が強いられています。長距離物流事業は今後難しくなり、様々なルール改定によりドライバーの給与は下がる場合もあります。とはいえ、退職等の意向が出れば人員が足りず、仕事に穴をあけてしまう。ドライバーの採用も簡単にはできないため、中小企業にとっては死活問題です。

そんな中、B氏は高齢化してきた自身の年齢、さらには親族に後継者がいない状況を鑑み、今後の会社の行く末について非常に不安になっていました。万が一、自身に何かがあったときに果たして会社は存続できるのだろうか。実務を回せる幹部はいるが、はたして経営ができるだろうか。

元々大手企業に勤めていたB氏はサラリーマンと経営者には絶対的な素質の壁があることを理解しており、実務のプロであっても簡単には経営者にはなれないことを知っていました。今は業績がよく安定しているとはいえ、大手荷主に偏った状態では、荷主都合でいつ何が起きるかわからない。

先代から引き継いだ会社でもあり、10年以上勤めてくれているドライバーもいたため、彼らに今後も安心して働いてもらいたい、知己に根差したA社の歴史を紡いでいきたい、そんな風に考えました。

会社を引き継ぐ出口の方法として、

  • (1)親族承継
  • (2)社員承継
  • (3)第三者承継

がありますが、(1)は適任者がおらず、(2)は経営者としての感覚を持ったものもいないことや株の引き継ぐ資金の準備ができる者もいませんでした。
そうしてB氏はM&Aでの方法を検討し始めました。第三者に承継するのであれば当時の黒字経営、財務優良なときに動いた方が、自分が“選べる立場”で承継ができるのではないか、と考えました。

M&Aの準備、面談、そして成約へ

B氏は日本M&Aセンターのセミナーに参加し、その後担当者と情報交換をした末、実際に候補先を募ることとなりました。正直、自分の会社に買い手として手を挙げてくれる企業がいるのか、どんな会社が出てくるのか、期待と不安が交じり合った心境であったといいます。

しかし、そんな不安とは裏腹に候補先として2社が手を挙げました。上場企業及び準大手企業でした。両社の条件も出そろい、M&Aセンターの担当者と話し合いの末、一番相乗効果が生まれる、かつ社員を大切にしてくれそうな候補先として、準大手企業C社と面談することに決めました。

緊張のトップ面談を行い、両者の考え方や企業文化をすり合わせていきました。

C社はかねてより、同地域に拠点を構えたいと思っていましたが、なかなか都合よく土地などが見つかりませんでした。今回の提携を皮切りに、新たな地域に拠点を展開し、さらには相互補完した仕事のやり取り、さらに営業展開をしたいと話しました。従業員の雇用は継続を約束し、会社名も継続、大事な歴史は残しつつ、新たに補完できるものをバックアップする、という熱い思いをB氏にお話しました。

とても良い面談であり、B氏はC社との提携を決断しました。

その後は順調に進み、基本合意、買収監査を終え、最終契約に進みました。

そして最後には緊張の従業員開示。今まで一緒にやってきてくれた従業員たちがこの話をどう受け止めるのだろう、何を思うのだろう、反発はされないだろうか、など一番緊張する場面かもしれない。

土曜日の午前中にほとんどの社員を会議室に集め、B氏から今回の話をした。会社の行く末について、従業員の皆さんの今後について、それに加えて自分自身の事情、すべてを正面からうそ偽りなくお話をしました。
突然のことに驚きを隠せない従業員もおり、いろいろな質問が飛び交いましたが、丁寧にひとつひとつ説明し、従業員も自分たちのためにも今回の提携がプラスになるものだ、ということを理解していただき、一人の退職者も出ず無事に従業員開示を終えました。

全ての工程を終え、晴れやかな気持ちで本件の提携が成立し、B氏は顧問として、2020年5月現在、業務の引継ぎをしています。

最後に

今回の提携では

  • オーナーの年齢と後継者問題

  • 業界への先行き不安
    を解消でき、さらに

  • 連帯保証の解除

  • オーナー利得の享受

  • 従業員の福利厚生の充実や働き方改革の実行

が可能となった事例です。

昨今の物流業界はこれまでのように起業をすればどの会社も収益を稼ぐことができる時代ではなく、限られたパイを奪い合うような状況になっています。
そのような中で、しのぎを削って競争するのではなく、むしろ協調をして業界全体を好転させるように再編が進んでいくことを願っています。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

この記事に関連するタグ

「物流業界」に関連するコラム

2024年3月の物流業界M&Aを読み解く

業界別M&A
2024年3月の物流業界M&Aを読み解く

物流業界の2024年3月の公表M&A件数は10件2024年3月において公表ベースでのM&A(合併・買収・資本参加)は10件であった。2023年3月(7件)と昨年比では3件の増加になった。物流M&Aトピックを考察3月で大きく印象に残っているのはAZ-COM丸和ホールディングスが、C&FホールディングスにTOB(株式公開買い付け)を実施し子会社化を目指すと発表した事例ではないだろうか。アマゾンジャパン

2024年 物流・運送業界のクロスボーダーM&A

海外M&A
2024年 物流・運送業界のクロスボーダーM&A

こんにちは、日本M&Aセンター海外事業部の杉木です。東南アジアを中心としたクロスボーダーM&Aをお手伝いさせていただいています。本コラムでは、物流・運送業界におけるクロスボーダーM&Aの2024年の展望について、ご紹介していきます。「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支

物流業界M&Aの歴史とこれから

業界別M&A
物流業界M&Aの歴史とこれから

近年の物流業界のM&A動向物流業界のM&Aにおいては上場企業と非上場企業で切り分ける必要があります。10年以上振り返れば主要上場企業16社は非常にM&Aを多く経験しており、10件以上の企業が6社あり、実際はM&Aがそもそも盛んな業界であることが伺えます。毎年平均75件ほどのM&Aを行っており、安定的な件数を毎年重ねています。@cv_button加えて、非上場企業の非公開案件も、2019年度はM&A

食品企業と物流企業のM&Aについて

業界別M&A
食品企業と物流企業のM&Aについて

こんにちは。日本М&Aセンター業種特化事業部のの白鳥です。当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。今回は、食品卸領域から関連して、食品×物流に関わるM&Aのメリットや大切なポイントについて解説してまいります。@cv_buttonなぜ今この食品×物流の組み合わせが注目されているのか?当社で成約も多い、物流関係と食品関連会社とのM&A食品関連会社と

【物流業界向け】創業30年超の老舗企業の新規上場

業界別M&A
【物流業界向け】創業30年超の老舗企業の新規上場

創業から上場までの事業展開会社を創業なされてから30年余りで上場を果たされましたが、創業当時のお話お伺いできますでしょうか?本当に軽トラック一台で創業しました。なので、もともとはよくある運送業として1人でやっていました。人を増やして会社はちょっとずつ大きくなっていたけど、当時は荷主であるお客様との上下関係が明確で、正直しんどかったです。集金に行くけど満額払ってもらえないとかそんなことばっかりでした

【運送業界M&A事例】継がせる不幸にしたくない、2代目社長の苦悩とM&Aという選択

業界別M&A
【運送業界M&A事例】継がせる不幸にしたくない、2代目社長の苦悩とM&Aという選択

【譲渡企業様】・企業名⇒土屋自動車運輸株式会社・業種⇒一般貨物自動車運送業・売上(M&A当時)⇒899百万円【譲受企業様】・企業名⇒ホッコウ物流株式会社・業種⇒特定貨物自動車運送業・売上(M&A当時)⇒7,282百万円@cv_button譲渡企業様の概要とM&Aの検討理由直請け中心の一般貨物運送業土屋自動車運輸は東京都台東区(当時)に本社を置き、従業員は約100名、売上約9億円の一般貨物運送業です

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース