MENU
CLOSE

M&Aレポート

建設業界のM&A総まとめ【~2019年】

2019.12.30

  • 建設・不動産

Facebook Tiwter LINE

建設業界とは

業界定義

建設業法によると、建設業は「元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業」と定められている。
また、建設業界は住宅・商業施設などの建物を造る「建築」と、道路や鉄道、ダムなど、構築物の土台を造る「土木」の2分野から成り立っている。

事業特性

建築業界の事業特性は、大きく分けて以下の4点である。

・受注生産方式
・入札制度
・多重下請け構造
・関係業界が多い

建設業界では、発注者からの請負契約があって初めて業務がスタートする。そのため、現場や顧客の希望に応じた資材・機械・人材を調達しなければならない。また、天候や地質、地形に大きく影響される業務上、施工スケジュールは慎重に立てる必要がある。

また、国や都道府県などから発注されるいわゆる「公共工事」の際には、入札参加資格を持つ施工業者間での入札が行われる。近年では施工価格だけでなく、工事の質も重要視されはじめている。

さらに、建築業界では施主から工事全体の完成を請け負う「元請け業者」が、セクションごとに施工を「下請け業者」へ再発注する多重下請け構造が多く見られる。工事の規模によっては1次・2次・3次......と多くの業者が関わるため、外注管理には留意が必要である。

業界内だけではなく、不動産・住宅メーカー・建設機械など、連携する業界が多いことも建設業界の特徴のひとつである。

建設業界の近年のM&A

ここからは、近年の建設業界で行われたM&Aについて、歴史を紐解きつつ紹介する。
建設業界では昔から多くの統合が行われているが、近年では企業が重要視するポイントに変化が生じている

建設業界 経営統合の歴史

建設業界では、過去多くの統合が行われてきた。それは、建築資材関係・住宅機器・電気工事などの設備工事、ゼネコン、マンション、パワービルダーなど、あらゆる業種にわたる。(図表①参照)

建設業界は、戦後の成長期とバブル期に急激に業績を伸ばしたが、その後の公共事業の縮小により、会社数は多いまま需要だけが減り続け、徐々に “儲からない産業” へと転換していった。

2013年には、120年続いた名門土木のハザマが中堅ゼネコンの安藤建設と経営統合したが、これはメガバンクが主導したとされている。バブル崩壊後の救済型の経営統合が印象深く「建設業界のM&A=救済」のイメージがいまだに色濃く残っている。

建築資材や住宅機器などの業種は圧倒的な販売量が差別化を生み出すため、特に再編が急速に行われた業界である。設備工事関係は、電気工事・空調工事・給排水工事・管工事と工事を一貫して行うことにメリットを感じ、周辺業種とのM&Aが増加している。パワービルダーでは前号で述べたように、6社統合の影響でM&Aが急加速した。

戸建大手では大和ハウスがM&Aを得意としており、準大手ゼネコンのフジタ、当時ジャスダックに上場していたコスモスイニシア、福岡証券取引所に上場していたパーキング大手のダイヨシトラストなど、立て続けに買収に成功した。

マンション業界では、大京が2007年に供給数で業界トップだった穴吹工務店を買収。リーマンショック後の再編で生き残った財閥大手は低価格マンションに進出しており、大京や大和ハウスはM&Aを使ってその背中を迫っている。

ここ数年の好景気の間に経営体力をつけ、M&Aにより収益性を高めている中堅企業には一気に上位企業へと躍り出るチャンスが訪れていると言えるだろう。

図表①

友好的M&Aの普及

建設業において、M&Aは年々身近なものになっている。「M&A=企業の存続と発展を実現する有効な手段である」という認識は広く持たれるようになり、全国の至る所でM&Aが成立している。譲渡企業にとってはオーナー社長の事業承継問題の解決、譲り受け企業にとっては規模の拡大・他地域への進出・人材の獲得などを実現するための手段として、友好的M&Aが広く認知されてきているのだ。

M&Aの活用:「戦略的な譲渡」

近年では、オーナーが会社を譲渡する理由は事業承継問題に限らない。若い経営者による「戦略的な譲渡」が目立ってきているのだ。

ある西日本の建設会社の事例では、オーナーが40代と若く、会社の業績も安定して推移していた。しかし将来の業界環境を鑑みると自社単独での会社の安定・成長は難しく、大手企業との提携が必要と判断。

上場会社の傘下に入ることを決断した。その結果、「創業者利潤の獲得」だけでなく「販路拡大による売上増加」、「人材採用力の向上」、「資金面のバックアップ」、「従業員の処遇向上」というプラスの効果を享受することができた。

このように若いオーナーの場合、M&A後も引退せず雇われ社長になるケースが多い。この事例でも40代のオーナーは引き続き経営者として活躍しており、親会社からは「ゆくゆくは親会社の経営にも関与してほしい」と要請されているのだという。このように、企業の成長のためにM&Aを「活用」し、戦略的に会社を譲渡する時代が訪れているのである。

成約から成功へ

友好的M&Aが一般化するにつれ、M&Aが「成約すること」から「成功すること」に重点が置かれるようになってきた。M&Aの成約によって事業承継問題を解決するのはもちろん、M&A後の企業統合プロセスであるPMI(Post Merger Integration)に力を入れることで、いかにシナジー効果を創出し会社を成長させるか/いかに円滑に組織の融合を図るかといったことが重要視されているのだ。

M&Aは企業同士の結婚のようなものである。成約式では本物の結婚式のように、譲渡オーナー側からの手紙や花束贈呈、乾杯、記念撮影などを行う。これは譲渡企業オーナーの花道を飾るという目的だけではない。譲受け企業の経営陣・従業員が長年経営者としてやってきたオーナーの想いを知ることで、決意を新たに、M&Aを成功に導くことができるのだ。

建設業にも業界再編時代が到来

ご存知のように、建設関連業界は業界再編時代の様相を呈している。同業間のM&Aはもちろん、隣接業種も交えた再編が進んでいるのがこの業界の特徴だ。積水ハウスや旭化成ホームズなどのハウスメーカーによるゼネコンの買収が代表的な例だが、反対に、ゼネコンがハウスメーカーを買収している事例もある。あらゆる業態の会社でM&Aが行われ、建設業界内の垣根は低くなってきているといえる。

当社では業界再編を、「企業が集まることによって新しいビジネスモデルを作り上げること」と定義している。「新設工事に強い会社×維持修繕工事に強い会社」、「電気工事会社×管工事会社」など、新しいビジネスモデルを目指して多くのM&Aが行われている。

業界再編が進むと、その波に積極的に乗れるかどうかでその後の企業の成長に大きな差が生じる。規模のメリットはもちろん、ビジネスモデルの変化による差別化が進み、売上や利益率、延いては従業員の給与水準にまで差が出るだろう。

企業規模の大小を問わず、あらゆる経営者が業界再編の動きに注視すべき時代が来たのだ。

2018年の建設業界関連のM&A動向

2012年から始まった景気回復が高度経済成長期の好景気「いざなぎ景気」を超えて、戦後2番目の長さになったことが2018年12月の内閣府の研究会で確認された。

バブル崩壊後の建設不況、リーマンショックとその後の民主党時代の冬の時代を経て、地域などにより程度の差はあるにせよ、多くの建設業・不動産業の企業も、2018年の景気回復を感じたのではないだろうか。特に、オリンピック関連以外にも多くの大プロジェクトを持つ東京、「天神ビッグバン」が進行する福岡、2025年の万博開催が決定した大阪など、都市部では今後も大きな建設需要が見込まれている。

一方、平成最後の年となる2018年の「今年の漢字」は「災」と発表された。6月の大阪北部地震、西日本を襲った集中豪雨、9月の北海道地震、巨大台風と、日本全国を災害が襲ったのだ。建設業を中心とするインフラ産業は混乱を極めるとともに、その存在の重要性を認識したのではないだろうか。

業界の「災」といえば、スルガ銀行の不正融資問題などによる不動産業界への融資縮小の連鎖が挙げられる。異次元の金融緩和以降、急激に拡大してきた不動産業界にはブレーキがかけられることとなった。

建設業では、埼玉県に本社を構える株式会社エム・テック(資本4億6637万5000円)の倒産があった。2015年期には245億円の年商を誇る埼玉県有数の建設会社であったが、253億円超と多額の負債を抱え、民事再生法の適用を申請。業界内外に大きな衝撃と損害を与えることとなった。

そのような中、建設・不動産業界のM&Aは2018年11月末時点で208件と、2000年以降における最高件数である2005年の199件をすでに超えており、2000年以降過去最高件数となっている。(公表事例に限る)
これは、景気回復による大きな後押しや、親族・社内に跡継ぎがおらず、後継者問題からM&Aを検討する企業や、業界再編を勝ち残るために積極的にM&Aを活用する企業の増加によるものだと考えられるだろう。

建設・不動産業界は「メガ・プラットフォーム」の時代へ

現在の建設・不動産業界M&Aで日本M&Aセンターが最も重要な動向と考えている点は、大手企業を中心に「メガ・プラットフォームの構築」を志向する企業群が増えていることである。これは過去様々な企業が手がけてきた「多角化」とは異なり、業界内での競争に勝ち抜き、顧客・地域から選ばれる企業グループを形成するための「本業加速型M&A」といえる。

「通信インフラ」から「社会インフラ」へ。大手通信工事会社が業界再編の台風の目に

2018年10月、コムシスホールディングスがNDS・北陸電話工事・SYSYKENを、協和エクシオがシーキューブ・日本電通・西部電気工業を、ミライトホールディングスがTTK・ソルコム・四国通建を買収。これら大手3社による9社同時買収により、通信工事業界は本格的に3社に集約され、業界再編が終了したと見られている。

大手3グループは、近年、電気や管などの設備工事、土木・建設工事、ソフトウェア開発などの会社をグループ化している。通信インフラ建設の会社から社会インフラ全般を支える企業群へと進化を進めており、今後もメガ・プラットフォームとしての存在感を増していくことだろう。

自由化以降、積極的なM&Aで「地域」「業種」の枠を超えるエネルギー業界

2016年4月の電力自由化、2017年4月の都市ガスの全面自由化以降、エネルギー関連業界では、地域・業種の垣根を越えた営業活動が活発になった。その営業活動の一環として注目され、多く用いられたのが、M&Aである。エネルギー関連の企業によるM&Aの成約件数は年々増加しており、引き続き建設・設備工事業界の再編を牽引していくと考えられる。

・2016年、中部電力子会社のトーエネックが東京でプラント配管工事などを営む旭シンクロテックを買収
・2017年、西部ガスが東証一部上場のマンション販売会社エストラスト(山口県)を買収
・2017年、九州ガスホールディングスが鋼構造物工事業のケンコー(長崎県)を買収
・2018年、四国電力子会社の四電工が有元温調(兵庫県)、アイ電気通信(大阪府)、菱栄設備工業(埼玉県)の3社を買収

M&Aを活用し、建設業での事業展開を進める有力メーカー企業

建設・設備工事業界のM&Aでは、同業のみならず、異業種の企業が譲り受け企業となる事例が目立っている。その中でも、自社製品を持つ「メーカー」の企業が建設・設備工事会社をグループに迎え、新勢力として名乗りを上げているのが特徴的だ。

売上の波が大きい建設業において、M&Aがもたらす利点は多い。グループ経由の受注による安定性の実現は魅力的であるし、製品開発と施工力の相乗効果により、新たな製品の開発、新たな技術提案を目指すことも可能なのである。

日本を代表するメーカーであるパナソニックが、年商352億円を誇る総合建設業の松村組を買収。パナソニックの誇る先進技術・企画設計力と、松村組の高い施工能力・ノウハウが融合することにより付加価値の高い住空間ソリューションを創出し、事業拡大を図っている。

2017年には、接着剤国内最大手起業のコニシが静岡県藤枝市に本社を構える地域最大手企業の角丸建設を買収。コニシの誇る補修・改修・耐震・補強工事に関する材料・工法・施工能力と、角丸建設の誇る建築工事・リノベーション工事・土木工事の高い施工力を組み合わせることで、老朽化する社会インフラの改修・補修需要取り込みを目指している。今後もこのような有力企業による建設業の買収は進んでいくだろう。

売上5~10億円の電気工事会社の株価が上昇

電気工事会社は同業によるM&Aニーズも多くあるが、メガ・プラットフォームにおける重要な機能の一つとして、隣接・関連業種からも高く注目されている。電気工事会社は年商1億円前後の企業においても多くの引き合いがある状況だが、組織化された一定の従業員で構成される年商5~10億円の企業が特に高く評価される傾向にある。

大手の採用ブランディングにより人材不足の波を乗り越える

建設・不動産業の企業は「今までとは異なる経営」が求められる時代を迎えている。その大きな理由に、人手不足が挙げられる。建設業界において、今後5年間で『団塊世代大量離職に伴う就業人口の激減』、『働き方改革による一人当たり就業可能時間の激減』の大きな2つの波がいよいよ迫っているのだ。

これからの時代は、今まで以上に「働き手からも選ばれる会社」に変革していくことが求められる。「報酬・福利厚生」、「人材教育制度」、「仕事での経験」において高いブランド力を持つことが経営の重要な要素となり、中堅・中小企業が大手の採用ブランディングを目的としてグループ入りする事例が増えてくるだろう。

リーマンショックから10年以上が経ち、東京オリンピックも間近に迫っている。企業経営もM&Aも、金融情勢に大きく左右されることになるが、M&Aで失敗しないためには、譲渡希望企業は「タイミングを逃さないこと」、買収希望企業は「本業加速型のM&Aにこだわること」がポイントになる。

2019年の建設業界関連のM&A動向

2019年は、 “オリンピック” という巨大な建設需要や、自然災害の多発による復旧工事需要の増加等、建設需要を増加させる出来事が多く起きた。

その一方で、建設業界の働き方改革導入による厳しい残業規制、そして引き続き深刻な就業人口の激減という業界課題も、これまで以上に目立つ年であった。

建設業界はまさに大変革時代の真っただ中にある。その中で、業界プレーヤーがどのような目的を持って、どの様なM&Aを実施しているのか、2019年の動向を振り返ってみよう。

過去最高成約件数を連続更新!更に活発化する建設業界のM&A

2019年における建設業界の当社M&A成約件数は11月末時点で102件。前年の83件を22%以上も大きく上回る増加を見せ、2018年から引き続き、建設業界は好景気に沸く1年となった。

2019年の1年間だけで、当社宛に譲渡相談を頂き、具体的にお相手探しを始められた建設会社数は177社。売上は数千万円から数十億円と、様々な規模の建設会社がこのタイミングでの会社譲渡を決意し、実施した。

譲渡理由は、後継者不在・行先不安・早期引退・成長戦略と様々であるが、本当に注目すべきは「なぜ景気の良いタイミングで会社を売るのか」という点である。

直近3年間で純資産やキャッシュがしっかりと積み上げられ、依然として収益性が高い会社を譲渡するのは気の迷いか、戦略的なのか。

どちらにせよひとつはっきりと言えるのは、「会社は戦略的な計画がない限り、どこも引き受けてくれない」ということである。このロジックについては、後半でしっかりと説明する。

2019年における業種別の成約割合

建設業界での当社M&A成約件数が過去最多であるのは先述したとおりである。では、29ある建設業界のうち、どの業種のM&A成約割合が最も多いのだろうか?

2019年度、11月末時点における各業種の業界全体に占める成約割合は、管工事・ゼネコン・測量設計が他業種に比べて多く、各11%程度で、これは業界全体の33%を占める。次いで電気工事・土木工事、そして鉄筋・鉄骨が各7%程度で業界全体の21%を占め、その他の業種はそれぞれ2~4%であった。

M&Aは相手がいて、つまり、相手に必要とされて初めて成約が実現する。
これは売手買手両方に言えることで、この観点からみると、「建設業界の成約業種=建設市場において必要とされる割合が高い業種」であると言えるだろう。

実際にM&Aの成約件数割合が高い業種を見てみよう。

管工事は老朽化が進んだ日本のインフラの維持修繕を担っているし、それに伴って河川道路トンネル等社会インフラの調査・測量・設計を行う企業の重要性が増している。さらに、市場のシェアそのものを獲得するために必要なゼネコンは業界にとって不可欠である。

次いで全ての設備工事の根幹に必要な電気、水道本管や通信機能というインフラ工事に付随する土木工事、そして構造物の根幹を担う鉄筋鉄骨が4~6位。

これを見て分かる通り、2019年度の建設業界におけるM&A成約会社は、社会のインフラ機能に関連する業種が主導している。

売手・買手の立場の逆転、売手が交渉力を持ったM&Aの構図

M&Aが行われる際、多くの場合は売手買手のどちらかが他方を選ぶという構図になるが、2019年の建設業界はその構図に変化が訪れた年でもあった。
従来、建設業界のM&Aには「買手が売手を選ぶ」という構図が多く見られた。つまり、M&A実施時の価格を含む諸条件の決定において、買手側が優位性を持っていたのである。

しかし、2019年度における建設業界の当社M&A成約事例では、売手買手の立場は逆転しており、売手側が強い交渉力を持つM&Aの実施が目立った。

この要因は大きく分けて2つある。

①高い収益性
②買手が有さない技術やノウハウの存在

実際に当社が携わった成約事例のうち2件は、売手1社に対し最終的な買手候補が複数社名乗りを上げ、交渉過程を経て売手に優位な諸条件が作り込まれていった。

もちろん、買手はこの条件に納得した上で成約をすることになる。

一方の会社は2社の買手候補が競合関係になり、もう1社は3社の買手候補が競合関係になった。いずれの場合も、その中の1社が成約を実現したのであるが、売手にとって候補先の選択肢が複数ある状況は非常に望ましい。

以上のように、価格やM&A実施後の運営体制を含むM&Aの諸条件において、売手にとって好条件が提示されやすいのが現在の建設業界におけるM&Aなのである。

好景気の仕組みを理解することの重要性

前述の通り、ここ数年にわたって建設業界は好景気に沸いており、市場は需要過多の状態である。どの建設会社にインタビューを実施しても、どこも仕事がありすぎて、施工管理技士が足らずに仕事を断っている状態が明らかになっている。

つまり、現在の建設企業には純資産がしっかりと積み上がり、収益性が高い財務状況がある。これには “オリンピック” という巨大な建設イベントが関係している。

よく勘違いされるのが、「自分たちはオリンピック関連の受注は受けていないから建設業界の好景気はオリンピックとは無関係だ」という意見を聞くが、これは正しくない。

オリンピックのような大きな建設イベントがある時期は、大手やその協力会社の施工能力がそのイベントに集中し、中小規模の工事まで受注する余裕がなくなるため、その分中小企業が、大手の手が回らない工事を受注しているのだ。

これによって、近年の中小企業は高い収益力を保持している。しかしながら、オリンピックのようなビッグイベントが終わると、大手グループとその協力会社は全力で中小規模の工事を受注しに動くようになる。

そうなれば、今仕事が取れている中小企業は太刀打ち出来なくなり、収益性は低下、純資産が減少、いざ会社を譲渡しようとしても買手候補を見つけることが困難を極め、最後には廃業も選択肢に入ってくることになる。

以上が、先ほど少し触れた「会社は戦略的な計画がない限り、どこもM&Aを引き受けてくれない」という文の本質だ。

M&Aは、実施しようと思えばいつでも会社を売れるというものではない。5年後10年後の経営計画実現に対する障害や課題を認識したその瞬間から本気で相手探しを始めなければ、瞬く間に交渉力を失うことになるのである。

つまり、M&Aを実施すべきタイミングは「収益性が良いとき」なのである。この超好景気が永続するわけではないという事実をしっかりと理解し、今こそM&A実施のタイミングあると認識されるべきである。

災害時インフラ復旧のための建設需要

2019年は、近年のうちでも特に自然災害の多い年であったと言える。

10月に発生した台風19号、9月の台風15号、8月に発生した九州北部豪雨と福島県沖の地震、6月発生した山形県沖の地震、5月に発生した千葉県南部の地震、と宮崎日向灘の地震、2月に発生した北海道胆振地方中東部の地震、そして1月に発生した熊本県熊本地方の地震。遡るといかに多くの自然災害が日本を襲ったかがわかるだろう。

自然災害の発生による深刻な問題は、国のインフラ設備の停止である。

インフラ設備を復旧するのは建設会社だ。自然災害が発生すると、建設会社は復旧関連の受注を受けることになる。実際に2019年の自然災害による被災地の復興工事を通じて、収益性を高めた企業は多いだろう。


このように、2019年の建設業界はオリンピックの建設需要と自然災害被害エリアのインフラ復旧工事という2点の好景気要因を享受した年であったと言える。

ここで注意すべきは、これらの工事需要はあくまで一過性のものであるということである。つまり、近年の高い収益性は自分たちの実力以上の財務状況であるということだ。

これを理解している経営者は何人いるだろうか。この見極めの誤りは、今後の大きな経営判断の誤りを生み出すことになる。今こそ慎重な分析が肝要なのである。

社会インフラとして機能する大手通信工事会社による業界再編の加速化

これまで述べてきた通り、建設業界は社会インフラとしての機能を有する業界である。

2018年度の振り返りコラムでも、通信インフラから社会インフラと成長を遂げている通信大手3グループについて述べた。

具体的には、コムシスホールディングス・協和エクシオ・ミライトホールディングスの3グループである。

通信業界の業界再編が2018年度に完了した後、彼らはM&Aの実施を更に加速させ、継続的に隣接業種のグループ取入れを実施している。

コムシスホールディングス事例
北興産業
北有建設

協和エクシオ事例
ウィナー・エンジニアリング
永和ビルテック
永和メンテナンス
北第百通信電気

ミライト事例
東海工営、都建設
トーエイ電気通信

このように、大手3グループは2018年から継続的に隣接業種のグループ化を進めているが、彼らのテーマはやはり「インフラ」である。

インフラグループとして機能するために何を強化すべきか、彼らは明確に分かっている。だからこそ、目的達成のためにM&Aを確実に実施するのである。

上記の企業はそれぞれ、企業グループとして生き残るために、隣接業種である電気、管などの設備工事、設備工事を行う前段階で行われる土木・建設工事、また、建設業界データトランスフォーメーション加速としてソフトウェア開発会社等をグループ化している。

通信工事大手は既にインフラグループとして機能しており、今後も建設業界を新たなステージへと導いてくれることだろう。

建設業界のデータトランスフォーメーション

2019年に建設業界におきた大きな変化は、テクノロジー業界とのM&Aの活発化したことである。これには、建設業界にとってデータトランスフォーメーションが急務である、という状況が影響している。

テクノロジーの取入れは人材不足や技術力の進化に直接的に関係するため、大手企業はテクノロジー分野の会社とのM&Aにかなり積極的だ。

全体的なM&A成約件数自体はまだまだ少ないものの、2019年は明確な動きが見て取れた。

設備工事業界の中でも特に積極的にIT関連会社とのM&Aに取り組んでいるのが、通信工事大手の協和エクシオだ。2018年の公表事例では5社全てが建設会社であったのに対し、2019年に公表されている協和エクシオのM&A実施先5社のうち3社がIT関連企業である。

また、橋梁の設計技術に強いJFEエンジニアリングは、AIエンジン開発ベンチャーのAnyTech(日経XTech優秀賞受賞、IVS準優勝、楽天テクノロジー&イノベーションアワード 金賞受賞)をM&Aによりグループ化した。

以上のように、建設業界のテクノロジー分野との融合は今後ますます活性化することだろう。

「受注もう1件という壁(施工管理技士不足で受けたい仕事があっても受注が取れない)」

現在、日本全国の健全な財務体制を有する建設会社は、仕事がありすぎて受注を断っているという状況にある。

この原因の1つには、技術者不足が挙げられるのではないだろうか。
建設業界の就業人口減少、人材不足は他業界に比べて特に深刻化している。1991年の就業人口は約1,181万人であったと言われているが、それがここ数年では約860万人と30%近く激減しているのである。

さらに予測を今後4年間にまで拡げよう。建設業界の目前には巨大な課題が迫っている。団塊世代大量離職に伴い更なる就業人口の激減と、また大手を中心に2019年4月から導入が始まった働き方改革による一人当たり就業可能時間の激減だ。

この課題の解決には、人材採用のための巨額の費用、そして建設業界そのもののブランド価値向上が不可欠である。

まずは採用コストについて。一般的に優秀な人材を採用するための最低限の採用コストは新卒1名につき約500万円、中途1名につき約800万円となり、仮にこれらの費用を投資して採用を行ったとしても、彼らが本当に次世代の担い手となるかは分からないところが怖い部分である。

次に業界のブランディングについてだが、建設業界そのもののブランド力は非常に弱いと言えるだろう。

例えばGAFAがいるIT業界は業界そのものが強いブランド価値を有するため、放っておいても優秀な人材がどんどん集まってくる。これは、IT業界が創成期から今まで、業界のブランディングに巨額の投資をつぎ込んできた賜物である。

建設業界においても、今後ますます業界ブランディングのための投資が求められることは想像に難くない。

2019年建設業界のM&A動向振り返り、最善策を選択するタイミング(いつM&Aに取り組むべきか)

これまで述べてきた通り、2019年度におけるM&Aの動向を振り返ると、近年会社をM&Aで譲渡を実現した会社は「業界の今後の動向を的確に予測し、経営者自身/会社/従業員の将来のための最善策を取った」ということが分かる。

M&Aは検討を始めるタイミングが非常に重要である。収益性と純資産が株価に直接繋がってくるからだ。

株価への高い評価を得て、交渉力を持ってM&Aに取り組むこと重要性を理解し、意思決定が出来る優れた経営者の存在が、建設業界のM&Aに大きく関連しているのである。

2019年に建設業界の当社M&A成約数が過去最多数となったことも、優れた中小企業の経営者による戦略的な経営計画の存在があるからこその結果だろう。

同志社大学商学部卒業。在学中に、外食事業会社の取締役として8年間経営に携わる。2012年公認会計士試験合格後、大手監査法人にて外資証券会社及び国内PEファンドの財務監査及び内部統制助言業務に携わる。その後大手M&Aアドバイザリー会社を経て日本M&Aセンターに入社し、建設業界のM&A成約に取り組む。AIベンチャー企業とJFEエンジニアリングのM&A、上下水道工事会社とミライトとのM&Aを手掛けた。

ディールマネージャー
建設・不動産業界支援室
高山 義弘