コラム

【IT業界M&A事例】M&Aによって総合交通インフラサービスへ

竹葉 聖

著者

竹葉聖

日本M&Aセンター 業種特化1部 チーフマネージャー/IVS2023 LAUNCHPAD KYOTO 審査員

業界別M&A
更新日:

⽬次

[表示]


【譲渡企業様】
・企業名⇒株式会社VISH
・業種⇒受託開発ソフトウェア
・売上(M&A当時)⇒約5億円
・オーナー様のご年齢⇒40歳

【譲受企業様】
・企業名⇒株式会社ヴァル研究所
・業種⇒受託開発ソフトウェア
・売上(M&A当時)⇒約20億円
・オーナー様のご年齢⇒51歳

譲渡企業様の概要とM&Aの検討理由

受託開発の会社として創業し自社サービス提供会社へ
譲渡企業のVISH株式会社は2004年に設立された会社です。創業当時は請負開発案件が中心でしたが、労働集約型のビジネスに限界を感じ、その後自社サービスの開発に着手していきます。

そして2011年頃、バスの位置情報管理(バスロケーションサービス)を特徴とする、業務管理システムであるバスキャッチをリリースします。ターゲット顧客は幼稚園、スイミングスクール、自動車教習所など、主にバスの送迎を行う施設です。

このバスキャッチはクラウド型のSaaSサービスであり、従来までのオンプレミス型のサービスと比較し、機能面・価格面で圧倒的な優位性を持っていたため、導入施設が急拡大していくこととなります。

導入施設の急拡大

2011年のバスキャッチのリリース後、導入施設数は順調に増加しており、2017年にM&Aの検討をした当時、導入施設数が1,000件超という状況でした。

このバスキャッチは平均すると月額約4万円のサービスです。つまり、1,000件の導入があるということは毎月4,000万円、年間で約5億円の確実な売上が見込まれることになります。
このように、会社は順調に成長している状況でしたが、急増するお客様からの問い合わせに対して営業人員が不足して対応しきれないという課題も抱えていました。創業者の藤井社長(当時)も営業に奔走する日々が続いていました。

新規事業への想い

藤井社長がM&Aを検討した当時、既に会社は何もせずとも拡大をしていくという状況にありました。一方で、藤井社長の中で、全く別の新規事業の立案に挑戦したいという想いも同時に芽生えつつありました。

最終的に、現在の会社とは全く別の領域で新しいことに挑戦する、という理由でM&Aを決断するに至りました。
藤井社長のように、若手の経営者が新しいことに挑戦するために会社を譲渡(イグジット)する事例は昨今非常に増えています。

譲受企業様の概要とM&Aの検討理由

ヴァル研究所とは?

ヴァル研究所は1976年に設立された老舗のソフトウェアハウスです。“駅すぱあと”というサービス名の方が有名かもしれません。
駅すぱあとはヴァル研究所の主力サービスであり、日本で最初に開発・販売された、公共交通機関(鉄道)の乗り換え案内ソフトです。

経営方針の転換

この有力な自社製品があるため安定的な成長を続けていましたが、2015年に代表が変わり(当時の太田元社長)、ベンチャー企業への出資やM&Aの検討など、攻めの経営も志向するようになっていました。

具体的には、位置情報管理のシステムのレッドフォックス社への出資(2017年1月)や、位置情報を活用したアドテクノロジーのジオロジック社への出資(2017年3月)などを行っていました。

###MaaSサービス企業へ
昨今、地方の過疎化や都心部への人口一極集中によって、公共交通の在り方も変化しています。ヴァル研究所もまた、社会の変化に対応できるよう、自社サービスを進化させる必要があると考えていました。

具体的には複合乗り換え案内サービスです。鉄道だけではなく、シェアサイクルや、公共バスなど、様々な交通手段を網羅し最適な移動手段を案内してくれるサービス。
そんなサービスの実現に向け、積極的に資本業務提携を検討していたのが当時の状況でした。

本件M&Aで重要となったポイント

両社は鉄道、バス、タクシー、自転車(シェアライド)等々を含めた総合交通情報インフラサービスを提供することを目指しています。
その第一歩として、鉄道とバスの情報インフラ技術の融合が実現しました。このように、自社に無かった技術をM&Aで相互補完するというのはM&Aでは一般的です。

今後両社がどのような成長を遂げて行くのか注目が集まります。

著者

竹葉 聖

竹葉たけば きよし

日本M&Aセンター 業種特化1部 チーフマネージャー/IVS2023 LAUNCHPAD KYOTO 審査員

公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、2016年に日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして7年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年には京セラコミュニケーションシステム(株)とAIベンチャーの(株)RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISH、22年には(株)USEN-NEXTHOLDINGSと(株)バーチャルレストラン等を手掛ける。IVS2022 LAUNCHPAD NAHA及びIVS2023 LAUNCHPAD KYOTO審査員

この記事に関連するタグ

「IT業界」に関連するコラム

日本屈指のスタートアップが考える「これまで」と「これから」

業界別M&A
日本屈指のスタートアップが考える「これまで」と「これから」

皆さん、こんにちは。株式会社日本М&AセンターIT業界専門グループ齋藤です。2023年12月5日、6日に経営者及び起業家向けのセミナーイベント「経営活性化フォーラム」を開催いたしました。IT業界専門グループリーダーの竹葉聖がモデレータを務め、EastVenturesパートナー金子剛士氏、dely株式会社取締役CFO戸田翔太氏をお招きし、『日本屈指のスタートアップが考える、「これまで」と「これから」

M&Aと近年加速するAIを活用した収益性向上戦略

業界別M&A
M&Aと近年加速するAIを活用した収益性向上戦略

皆さん、こんにちは。株式会社日本М&AセンターIT業界専門グループの田中樹です。2023年12月5日、6日に経営者、起業家向けのセミナーイベント「経営活性化フォーラム」をハイブリッド開催いたしました。@cv_button当イベントの目的は、M&Aの戦略的アプローチ、成功事例の共有、業界別の専門知識、中小企業の支援策に焦点を当て、ビジネスの未来を探求することです。その中で当社IT業界専門グループグル

IT業界におけるクロスボーダーM&A 2024年の展望

海外M&A
IT業界におけるクロスボーダーM&A 2024年の展望

日本M&AセンターにてASEANのクロスボーダー案件を手掛けている河田です。日本国内でも多くの件数を誇るIT業界のM&Aですが、最近は海外マーケットへの進出を検討している企業も増えてきております。本記事では、IT業界のクロスボーダーM&Aについて2023年の振り返りと2024年の展望について解説します。「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?日本M&Aセンターは、海外

2023年のM&Aを振り返る

業界別M&A
2023年のM&Aを振り返る

皆さん、こんにちは。日本M&AセンターでIT・スタートアップ業界のM&A責任者を務めています竹葉です。私は、前職の監査法人を経て、2016年から日本M&AセンターでIT業界専門のM&Aセクターの立ち上げから現在に至ります。この業界に身を置き、8年目となりました。今年も年の瀬が近づいてきましたので、2023年のIT・スタートアップ業界を中心にM&Aを振り返りたいと思います。M&AOnlineの調べに

スタートアップ経営者必見!直近のベンチャーM&A動向と今準備すべきこと

業界別M&A
スタートアップ経営者必見!直近のベンチャーM&A動向と今準備すべきこと

最近では、未上場企業のM&Aが経営手段の一つとして浸透しつつあるように感じています。さらに、スタートアップ業界でのM&Aも増加しつつあり、スタートアップ企業のM&Aのタイミング、M&Aを実施する上でのメリット、相談すべき相手についてまとめようと思います。直近のスタートアップM&A動向について世界的なコンサルティングファームであるEYJapanが昨年発表したスタートアップM&A動向に関する調査レポー

譲渡オーナーとの語らい Vol.14 (茨城県・受託開発ソフトウェア業)

業界別M&A
譲渡オーナーとの語らい Vol.14 (茨城県・受託開発ソフトウェア業)

茨城県で受託開発ソフトウェア業を営む会社を経営、2022年に自社の成長を目的に銀行向けパッケージソフトウェア業を営む上場企業へ株式を譲渡し、上場グループの一員となりました。社長である唐田様は様々なご経験をお持ちで、地域の若い方たちにご自身の経験を伝え地方創生に貢献していきたいと仰っております。唐田様のたくさんのご経験談から、今回のM&Aについてお話を伺いました。@cv_button成長速度をスピー

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース