コラム

【食品・外食業界M&A事例】多店舗展開可能な強力ブランドをM&Aで獲得

江藤  恭輔

株式会社日本M&Aセンター/業種特化2部 部長

業界別M&A
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【譲渡企業様】
・企業名⇒A社
・業種⇒パン製造・小売
・売上(M&A当時)⇒4億
・オーナー様のご年齢⇒51歳

【譲受企業様】
・企業名⇒B社
・業種⇒ アパレル・飲食
・売上(M&A当時)⇒ –
・オーナー様のご年齢⇒ –

譲受企業様の概要とM&Aの検討理由

アパレル小売・リアル店舗の厳しい現実

ユニクロを展開するファーストリテイリングやZOZOタウンなどアパレル業界の中でも勢いのある日本企業が台頭しておりますが、実店舗を持つ小売業を主軸にする企業はネット購買とファストファッションの低価格化により、アパレルの小売業事業所数は1991年に13万店舗あったが2015年には8万店舗まで落ちてきております。

ライフスタイル領域での稼ぎが重要な時代に

そんなアゲンストな環境の昨今、実店舗を持つアパレル企業は本業での将来は悲観的です。これを回避するために新業態を開発する企業が多く、例えばインテリアや飲食などライフスタイル領域へ事業を拡げ、売上高、利益を補う傾向が見受けられます。

新進気鋭の副社長の手腕で飲食事業が100億円突破!

B社はアパレル企業の中でもいち早くこの危機を察知し、2000年に飲食事業をスタートします。
立ち上げ序盤苦しい時期はあったものの、現副社長が陣頭指揮を執ってから急拡大に成長し、現在では国内25ブランド、売上規模100億円、90店舗強の一つの事業ポートフォリオの立ち上げに成功しました。

圧倒的な実績があり、多店舗展開可能な強力なブランドが必要だった
一方でB社の展開している飲食ブランドを見ると、海外の人気ブランドを日本に上陸させ、20代、30代の女性をターゲットにSNSなどで拡散させ認知度を高めてきました。
しかし海外との提携は、慣習やその国独特のパーソナリティによるトラブルが発生することも多く、恒常的な利益を生むブランドの育成が難しいのが実情です。

よって国内で多店舗展開が可能な強いブランドをもつ企業を探していたのです。
さて、今回譲渡側の企業は地に足をつけて企業努力を欠かすことなく努力を継続した結果、顧客から厚い支持を獲得し続けてきた会社でした。

譲渡企業様の概要とM&Aの検討理由

海外で10年修行を積み創業

売手オーナーは調理専門学校を卒業後、フランスで10年もの間修行し、パン作りの技術取得もさることながらフランス料理業界の人脈を積み上げ、創意工夫を重ねてきました。
ただのパンではなく”料理のようなパン”と定評のある商材は、この経験が活きていました。

個人商店の経営でお金がなくても中古設備を改造

30歳で念願の一店舗目を出店します。パン事業の成功ファクターはいかに多くの成型したパンを仕込み、製造できるかが売上のすべてです。
オーブン、ミキサー、チャンバーなど大型で性能の良さが重要となるため、設備投資が数千万から数億円になることもあります。

本件譲渡オーナーは資金力がないかわりにメカニックの知識をつけ、中古でも良いものを徹底的に厳選して購入してきました。
さらに現場で安全面も担保しながら使いやすいように自ら改造、補強工作しながら設備を充実していったのです。

苦節20年東京進出で大繁盛店へ

その結果、2009年には東京にも進出し、現在カフェ業態も含めると6店舗の店舗を運営する企業にまで成長しました。
東京の店舗は現在日比谷に構えており、映画を見終わった客や、宝塚劇団を見終えた客などで連日長蛇の列ができる超繁盛店です。今や都内でも最も注目されるパン屋さんの一つになりました。

結婚を機に改めてお客様、従業員の今後ついて考える
これまで誰よりも現場に入り、寝る間も惜しんで働いてきた20年間。今では月9ドラマの監修の依頼が来るほど著名となったオーナーですが、3年前に結婚をし、女児を授かります。

「家族と過ごす時間についても考えるようになったし、またこれまで最前線で僕がやってきたけど果たしてそれって従業員の将来を考えると本当に良かったことだったのだろうか」と語っています。

そんなタイミングでM&Aという手法で個人、家族、従業員もハッピーになれる可能性があるということを、当社のセミナーを通じて知ります。

本件M&Aで重要となったポイント

譲渡するにあたって条件としていた点

売手オーナーは3つの点を今回M&Aの条件として重要視していました。

  • 候補先は地元以外でのマッチング
  • 従業員が継続して雇用され、さらに成長できるチャンスがあればなおよし!
  • 一番は譲渡オーナーが思う今イケてる会社!世界感を世の中に発信している会社。

当社食品専門チームが買手をマッチングすると第一希望先が現れる!
相手探しが始まると、譲渡オーナーの商材のブランド力、収益力の高さから多くの譲受候補先が現れます。

しかし、どの会社も譲渡オーナーからすると「イケていなかった」。
TOP面談からその先のステップにはなかなか進めずにいました。

そんな中、日本M&Aセンター・食品業界支援室がマッチングを開始した結果、B社を譲渡オーナーにご紹介。
「ラスボスがいきなり出てきた!びっくりしすぎて、なぜか拒否反応を示してしまいましたよ。」と譲渡オーナーが漏らすほどの第一希望先だったといいます。

商標権の論点とCOC問題が重なり長期化

B社としてもまさに願ったようなブランド力を持つ企業だったため、すぐに創業者である会長から前に進めるようにと一両日で意思決定をされます。相思相愛でのスタート、順調にご成約まで進むものと誰もが思っていました。
しかし、あらゆる想定外のことが起こるのがM&Aです。商標権の問題や賃貸借契約を結んでいる家主の反対(いわゆるCOC問題)などが起こり、M&Aのプロセスが停滞してしまいました。

スキームの調整で最終合意に至りましたが、TOP同士の面談の時期は秋口だったものが、最終合意・調整が終わったのは次の年の初夏になっていました。

最終調整がスムーズに進んだ理由

約1年弱に渡り交渉、条件調整が続いた案件でしたが、途切れず成約まで至ることができたのはなぜだったのでしょうか。大前提として、相思相愛だったということ大きかったと感じています。
譲渡オーナーは第一希望先であったため株価については従業員が満足できればというスタンスをつらぬき、比較的割安な譲渡対価でも納得されていました。

B社も買収監査において細かいリスクや未確認事項が多い中、多少の粗っぽさは目をつむり譲渡対価の減額交渉も行わず、譲渡オーナーの希望スケジュール通り決済を行われました。
M&Aは縁のもの。人間同士の関係と同じく、自分にとって何もかも完璧な相手など現れるはずはありません。

両社が、このM&Aで何が大事なのかを見失わず、お互いに叶えたい成約に向かって歩み寄りながら進んだために成約に至ったと言えます。

著者

江藤  恭輔

江藤 えとう 恭輔きょうすけ

株式会社日本M&Aセンター/業種特化2部 部長

青山学院大学法学部卒業後、埼玉りそな銀行にて法人営業を経て2015年に日本M&Aセンターに入社。食品業界を専門として製造業、小売業、外食業などのM&Aに取り組む。17年は丸亀製麺を展開するトリドールHDと「晩杯屋」のアクティブソース、「ラー麺ずんどう屋」を展開するZUNDのM&Aを手掛けた。

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