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M&Aレポート

【調剤薬局業界M&A事例】:損得勘定だけでは語れないM&A

2019.8.29

  • 調剤薬局

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【譲渡企業様】
・企業名⇒有限会社A
・業種⇒調剤薬局
・売上(M&A当時)⇒2.7億円
・オーナー様のご年齢⇒65歳

【譲受企業様】
・企業名⇒R調剤
・業種⇒調剤薬局
・売上(M&A当時)⇒300億
・オーナー様のご年齢⇒―

調剤薬局2店舗で2.7億円の売上を誇る優良企業

独立後、20年で譲渡を検討

今回ご紹介させて頂くA社は、東北のとある県で2店舗の調剤薬局を営む企業でした。

1980年に東京の薬科大学を卒業後、病院での勤務薬剤師経験を経て、1999年に独立をして有限会社Aを設立し、20年間経営者として走り抜けてきた加藤社長がオーナー経営者です。

ご長男が既に社内で取締役として勤務していましたが、調剤薬局業界の今後10年20年を見据えた中で、単独での生き残りは難しい上に、譲渡先を見つけるチャンスがあと2-3年のうちになくなってしまうと考え、2018年4月頃より譲渡について検討を始めました。

最初は当社に相談をする予定はなく、知人の働いている大手調剤薬局2-3社に声をかけ、譲受をしてくれるところがないかを探していたようでした。

大手企業から譲渡の打診を受ける

検討をし始めると、直接相談を持ち掛けた大手の会社1社から具体的な株価を示した上で「ぜひ譲受をしたい」という話があったそうです。

しかし、その株価が本当に適正な価額なのかどうかがわからない、ということで我々のところに相談に来てくれました。それがわたしと加藤社長との出会いでした。

提示されていた株価と適正株価で倍近くの乖離

加藤社長からは「今話をしている会社は信頼できる知人も働いていているので、株価が著しく低い額でないのであればこの会社への譲渡で進めたいと思っている。本当の自社の価値がどれくらいかが知りたいだけなので、恣意的な適正株価が算出されてしまうのを防ぐため、日本M&Aセンターの原さんには提示額は教えないよ。」と言われました。

その時はわたしも、「その知人の方をすごく信頼しているようだし、当社の出番はないかな」と思っておりました。

しかし、私が所属する調剤薬局専門チームのメンバーや社内の公認会計士と協議をし、算出した適正株価を加藤社長に伝えると、「原さん、提示された金額と倍近くの乖離があるけど、本当なの?」と大変驚いているご様子でした。

提示されていた株価6,000万円に対し、当社が算出した適正株価は1億1,200万円だったのです。当然といえば当然で、候補先1社が検討して出てくる株価と候補先50社以上が検討して出てくる株価ではそれくらいの差が生じるのです。

その日から、“本当に有限会社Aが一緒になるべき会社がどこなのか”を加藤社長と二人三脚で考える日々が始まりました。

最初の候補先は4社

当社がまず提案した58社のうち、4社が1億円以上の株価の提示をしてくれました。いずれも、県内に既に店舗を持っている企業でした。

“譲渡日後、すぐに1名薬剤師を補充することができる”という条件を付けていたため、4社と少なめでしたが、何はともあれ、候補相手が出てきたことで加藤社長もホッとされているようでした。

運命の出会い

相手先社長と息子の出身大学が同じで先輩後輩の関係だった!

4社の中から会社の理念や、今後の県内での出店戦略をヒアリングし、その中から加藤社長と私は第一候補としてR調剤という会社を選びました。

R調剤は隣接している市に店舗は持っていたものの、有限会社Aが店舗を持つ市に一気に2店舗の出店が可能である本件譲受に対して、高い相乗効果を見込んでいました。

その後TOP面談を行ったところ、R調剤の社長と加藤社長の息子さんの出身大学が同じであることが分かり、大変話が盛り上がり二人は意気投合されました。

この日、加藤社長はR調剤であれば自分が大事に育ててきた会社を託すことできる、と本当の意味で譲渡を決断なされたのです。

マリッジブルー

TOP面談後、基本合意書の締結、監査、最終契約書内容の合意と順調に進んでいたのですが、最終契約書締結予定日の1週間前、日曜日の夜9:00頃に加藤社長から私の携帯に電話がありました。

「本当にR調剤でいいのか、息子が継ぐ選択肢はないか。原さん、実を言うとこれでいいのか不安なんだ。」いつもの強気な加藤社長とは思えないほど、消え入りそうな声で不安が次々と浮かんでいるようでした。

そこから2時間ほど、“なぜ最初に譲渡を考えたのか”“息子さんが50歳になる20年後の業界はどうなっているか”じっくり話をし、最終的には不安が解消され、最終契約日当日を迎えることができました。

会社同士の結婚式である成約式の開催

最終契約締結日は、東京で成約式を開催いたしました。加藤社長の奥様はもちろんのこと、息子さんにも来ていただき、シャンパンでの乾杯やR調剤の社長からの花束贈呈など、晴れの日にふさわしいよい式になりました。

1週間前にあれだけ悩んでいた加藤社長も、すごく楽しそうに奥様や息子さんとこれからの人生についてお話をなされていたのが印象的でした。

損得勘定だけではないM&A

オーナー経営者が株式を譲渡すると、株主である社長の連帯保証は解除され、資金繰りに悩まされることもなくなり、今までストレスであった様々なことから解放されます。

しかも創業者利潤としてふつうのサラリーマンが一生をかけても手にすることができない額の金銭を受け取ることができます。

一見すると事業承継方法にとってよいことだらけのように感じますが、オーナー経営者にとって、会社の代表として駆け抜けてきた20年間を考えると、やはり損得勘定だけでは割り切れないなにかがあるのだと思います。

我々は、そういった感情の部分についてもオーナー様にしっかりと寄り添ってサポートをしていかなければならないということを、再認識させて頂けた、そんな加藤社長との出会いでした。

青山学院大学経済学部卒業後、大和証券株式会社を経て、日本M&Aセンターに入社。 入社以来、調剤薬局業界の担当として地域問わず、中堅中小企業のM&Aに取り組む。 2020年3月度全社年間最多成約数を記録。

課長
調剤薬局業界支援室
沖田 大紀