M&Aレポート
M&Aを失敗させない重要ポイント・前半-IT業界M&Aコラム2019④-
2019.7.25
- IT

▶前回は、M&Aの実行前後で、実際にIT企業の経営がどう変化したかについて、実際の事例に基づきお話をさせていただきました。
しかし、M&Aというのは、そう簡単に実現、成功できるものではありません。
単純な物の売買のように、株式を買う、売る、というだけの話では全く無いのです。
そこで今回は、M&Aを進める上で、失敗させないための重要なポイントを、過去にあった失敗事例を参考にしながらお伝えいたします。
目次
重要ポイント 秘密保持の徹底
耐え切れず知人に相談、側面調査から情報漏洩に
M&Aは「秘密保持に始まって、秘密保持に終わる」という程、情報管理には徹底して気を配る必要があります。
M&Aを進める上では、当初の相談者は限りなく小人数に限定するのが鉄則です。
譲渡企業の経営の根幹に関わる情報や、買手企業のインサイダーとなり得る情報を常に内包するからです。
とはいえ、譲渡オーナーの立場では、孤独に一人考え込むのは、経験や知識が無く大変なことです。
過去には、オーナーが耐え切れず、知人に相談したことがきっかけで、「あの会社は近々売りに出る」と噂が一人歩きし、経営がし辛くなったという事例もあるため、当初相談する相手は、経験豊富で信頼できるアドバイザーに限るのがベストです。
また、提案を受けた買手企業も、その譲渡企業の側面調査を行うようなことは絶対に行ってはいけません。
過去には買手企業が、譲渡企業の取引先や、金融機関に対し、評判や内情を探る行為を行った結果、「M&A」という言葉を使わずとも、感づかれ情報漏洩に繋がったというケースもあります。
そうした場合、買手企業やその担当者に多大な責任が問われるケースもありますので、安易な側面調査を行うのは絶対に止めましょう。
重要ポイント② キーマンへの開示は契約直前に
キーマンが不安になり、意思決定に介入、M&A実行の妨げに
上記①の秘密保持、情報管理にも通ずるところがありますが、キーマンである役員や幹部への開示のタイミングは非常に重要です。
これまで長年一緒に経営を続けてきたというオーナーの心情から、幹部への開示を出来る限り早く行いたいとの気持ちを持たれることも理解できます。
しかし、相手が決まっていない段階での開示は、逆に相手を不安にさせ、モチベーションを低下させてしまうことにも繋がってしまいます。
創業者ではない、中堅中小企業の役職員は、資本と経営の関係や、M&Aに対して、正しい理解をしているケースは稀です。逆にひと昔前のメディアの影響からネガティブなイメージを連想されるケースも多いです。
そのため、M&Aの開示を行う際は、少しでも不安を払拭するため、相手企業や目的、相乗効果、今後の事業展開、役職員の処遇、取引先との関係等、気になるポイントを、出来る限り具体的かつ明確に伝えられる必要があります。
そしてこれらを、オーナーの決断として、自信を持って幹部に伝えることが出来れば、最初は不安があったとしても、理解し受け入れてくれます。
そうすると、開示を行うべきタイミングは、必然的に契約の直前がベストといいうことになります。
M&A相手との契約も決まっていない段階で、安易に開示してしまうと、その後に違う相手と契約する可能性もあり得るため、それが不安や混乱、場合によっては離職にも繋がりかねません。
また過去には、契約が定まらない段階で幹部に開示したことにより、オーナーのその後の意思決定に幹部が介入し、オーナーが本当に良いと思う相手とのM&Aが、実行し辛くなったという事例もあります。
M&Aを成功させるためには、開示するタイミング、内容は非常に重要だというのがお分かりになるかと思います。
重要ポイント③ 条件交渉は相手の立場を良く考えて
交渉のし過ぎで信頼関係が欠如。M&A後にも影響
M&Aには交渉がつきものです。
出来る限り高く売りたい売手と、リスクを抑えて安く買いたい買手との交渉事ですので、何事もなく、すんなりと進んで行くことの方が稀です。
しかし、お互いの立場を譲らず交渉し続けていても、平行線でまとまるものも、まとまりません。
特に、中堅中小企業のM&Aは、大企業同士のM&Aの交渉とは大きく勝手が異なります。
大企業同士でのM&Aは、双方のアドバイザーが、双方に高いボールを投げ合い、全体のパワーバランスの中で、合理的に契約内容、条件を駆け引きし、一つ一つ交渉して行きますが、中堅中小企業のM&Aでは、そこにオーナーの「気持ち、心」という、合理的には読めない変数が入ります。
また、オーナーと従業員の距離も非常に近いため、交渉の進め方次第では、M&A後の関係性にも大きく影響します。
売手、買手双方に言えることですが、過剰な交渉をした結果、M&Aが成立しても、その過程で信頼関係が崩れてしまっていては、折角のM&Aの相乗効果も半減してしまいます。
当然、実態より高過ぎる株価となれば、その後の経営、現場にシワ寄せが来て、従業員が苦労しますし、買手の論理で強気に交渉し過ぎても、M&A後に、売手オーナーや幹部と快い協力関係を築くのが困難となり、いずれのケースも良いM&Aにはなりません。
そのため、売手も買手も、交渉の過程においては、お互いが相手の立場に立ち、それぞれの立場での主張を理解、尊重する姿勢も大事で、本来のM&Aの目的が何であったのか、時折原点に立ち返り、大局的に捉え、進めて行くことが、良いM&Aを実行するためにも非常に重要です。
我々M&Aの仲介者も、常に上記のようなポイントでお客様が失敗しないよう、また、心より成功したと言えるM&Aを実現できるよう、最善のリスク管理と進捗管理、準備をした上で、仲介業務を行っています。
次回は、「M&Aを失敗させない重要ポイント 後編」として、M&A実行後の話にも触れつつ、お伝えしたいと思います。
外資系金融機関を経て日本M&Aセンターに入社。業界再編部の立ち上げのメンバーであり、現在はIT業界の責任者として、中小零細企業から、上場企業まで数多くの友好的なM&A、事業承継を実現している。これまで主担当として50件以上を成約に導いており、国内有数のM&Aプレイヤーの1人である。東芝情報システムとデンソーとの資本提携等を手掛ける。
IT業界支援室 室長