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M&Aレポート

『統合と再編の歴史から何を学ぶ?』製造業界再編M&A

2019.7.16

  • 製造

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私たちの生活に必要な、ありとあらゆるプロダクトを製造する「製造業」は、世の中で最も多くの人々の生活に不可欠な事業と言っても過言ではない。
緻密で行き届いた日本のものづくりは世界的にも高く評価されているが、近年では企業の規模を問わず、「後継者不足」が叫ばれるようになった。
そんな中で、M&Aは事業継承に悩む製造業企業の希望の光として定着しつつある。この記事では、M&Aによる事業継承を検討するために、製造業界の歴史や動向を紐解き、実際のM&A事例について解説する。

製造業の現状

製造業とは何か

まずは、そもそも「製造業とは何なのか?」、「製造業の事業特性は?」についての概観を見ていこう。

総務省による日本産業標準分類を参照すると、「製造業」の定義は以下の2点である。

⑴新たな製品の製造加工を行う事業所
⑵新たな製品を主として卸売する事業所

この他にも「部品など、完成された製品どうしを組み立てる事業所は製造業に分類される」、「製品の包装を行う事業所は製造業ではない」などの細かい条件はあるものの、簡単にまとめるなら「製造業=新たな製品を造り、売る事業」と捉えることができる。「メーカー」という単語を使えば、ピンとくる人も多いかもしれない。

製造業(=メーカー)の事業特性は、先行投資が多額にのぼることと、キャッシュポイントに至るまでの期間の長さだ。

製品を造るための工場建設や製造機械への設備投資、原材料の仕入れなど、初期投資は多額にならざるをえない。また、新たなプロダクトを生み出すまでには「企画・設計・開発・製造・卸売」といった段階が多く存在し、実際に儲けを得るまでに時間がかかる。

「製造業」は、初期投資をまかなえるだけの運転資金や、事業規模に合わせた適切なキャッシュフローが確立されていなければ、事業継続が困難な業界なのである。

また、ひとことで「製造業」と言っても、食料品から繊維、石油製品から生産用機械器具など、その形態は多岐にわたる。この記事では、その中でも特に「各種機械」や「電子機器」に焦点を当てて話を進めてゆく。

コロナによる製造業への影響

そもそも、新型コロナウイルス感染症の蔓延以前から、日本の製造業は厳しい状況に立たされていた。

GDP(国内総生産)よりも速報性が高い景気指標として用いられる、購買担当者景気(PMI)を見てみよう。PMIは、50以下で景気が悪い・51以上で景気が良好と判断されるのだが、コロナ禍以前の2020年1月時点の日本のPMIは48.4。これは、米中貿易摩擦やイギリスのEU離脱などによって世界的に不確実性が高まる中、自動車産業の輸出や生産を伸ばせなかったことが大きな要因だと考えられている。

そんな状況下で起こった新型コロナウイルスによる混乱は、製造業界にさらなる打撃を与え、1回目の緊急事態宣言が明けた2020年6月のPMIは38.4まで落ち込んだ。これは、外出自粛の要請や諸外国のロックダウンによる民間消費と外需の減少が理由だと考えられている。

2021年1月にはPMI値49.8と、おおよそコロナ禍以前の数値まで持ち直しているが、英米ユーロ圏の国々が2020年9月にはすでにPMI値50以上を記録していることを考えると、依然として厳しい状況は続いている。これは、外需減少によって起こった自動車産業のさらなる生産減が、部品・素材産業にまで影響を及ぼしていることが要因だと言われている。

これ以上コロナ禍が長引けば、特に中小企業にはこの先数年にわたって大きなダメージが残ることは想像に難くない。

では、現在逆境に立たされている製造業界は、どのような歴史を歩んできたのだろうか。次節では製造業界の歴史を振り返ってみよう。

2000~2007年「液晶・携帯電話需要がピーク!」成長市場を巡るグローバル規模のシェア争いが加熱

日本の2000年代の船出は、ITバブルとその崩壊から始まり、その後は新興国を中心とした外需主導での景気回復が加速した。製造業においては、特に液晶・携帯電話需要のピークに乗じて、マーケットシェア拡大戦略のメインエンジンとしてM&Aが広く活用されることとなった。

液晶業界

この頃、液晶産業においてはシャープが全盛。このことは「世界の亀山モデル」という言葉の知名度を鑑みても疑いようがないだろう。富士通ディスプレイテクノロジーズの譲受等によって液晶パネルからテレビまで一貫生産する戦略が成功し、「液晶のシャープ」という強いブランドイメージを築きあげることに成功したのである。

パイオニアはNECからプラズマディスプレイ事業を3,700億円で買収し、生産規模拡大を追及。国内における業界2位に躍り出ることとなる。

他にも、セイコーエプソンと三洋電機は両者の液晶事業を統合し新会社を設立(世界4位のシェア)するなど、多数のメーカーが液晶事業に参入し、競合激化の様相を呈した。

携帯電話業界

1990年代後半から爆発的に伸びた携帯電話の普及率は2000年代に90%を超え、携帯電話関連の事業も大手メーカーの統合・再編が一段と活発になった。

ソフトバンクは2006年、携帯電話事業の英ボーダフォンを約1兆7,500億円で買収。

京セラは三洋電機から携帯電話事業を譲り受け、いわゆる「ガラケー」市場のキープレイヤーとしての存在感を高めた。

自動車業界

自動車産業は国内需要の飽和からグローバルマーケットでの存在感を高めるべく、海外企業の買収・出資拡大等に力を注いだ。

ベアリング大手のNTNは、ドイツのIFA-Antriebstechnik GmbH社をM&Aで買収。日本発条、大同メタル等、他のサプライヤーもM&A(買収)を重ねることで海外展開を加速させた。

好景気に支えられた攻めのM&Aが隆盛を極める

「拡大競争」という言葉が当てはまるこの時期だが、日本の大手企業の特徴として「好景気」⇒「多角化」の路線をとることが多いと指摘されている。

後に巨額損失問題を招くこととなる東芝による米原子炉メーカー大手のウエスチングハウス(WH)の買収もこの時期(2006年)で、この後のリーマンショックを契機に、各社が軌道修正を迫られることとなった。

2008年~2014年 「撤退か?協業か?」リーマンショックを乗り越えるための事業再編

世界を飲みこむリーマンショックにさらされた2008年9月以降は、各社がそれまでの「競争路線」から「協業路線」、もしくは「撤退(事業再編)」の選択を迫られることとなった。

苦境を乗り越えるための守りのM&Aが活発に

三菱電機、ノキア・ジャパンの撤退など、携帯端末メーカーが相次いで事業の見直しを進める中、NECとカシオ、日立は各々の事業を統合するという大きな動きに出る。

一方で、東芝は携帯電話事業から撤退し、富士通に経営資源を引き継ぐ形で事業再編を進めることになった。

半導体市場においても、NECエレクトロニクスとルネサステクノロジが合併し、経営資源の最適化を通じて苦境を乗り越えるべく、M&A(合併)にのりきった。

総合電機メーカーの没落、「選択と集中」に向けて舵を取る

グローバル経済がリーマンショックからの立ち直りを図ると同時に、デジタル化が進展。韓国・台湾・中国等のメーカーの台頭により、国内の電機メーカーは非常に苦しい価格競争にさらされることになる。

NECはPC事業を中国のレノボに売却、日立はテレビ生産から撤退、東芝は白物家電事業を中国企業に売却。液晶テレビで世界トップシェアを誇っていたシャープは経営危機に陥り、2016年には台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ることとなった。

「脱・総合」を余議なくされた各社は、おのおののポジションを確立するべく「選択と集中」を押し進めた。

富士通は企業や官公庁向けのITシステム構築などのソフトウェア路線にシフト、ソニーはゲーム・音楽等エンターテイメント関連に力を入れ、三菱電機はファクトリーオートメーションなどの法人向け産業に経営資源を集中したのである。

2015~2018年「本業加速のためのM&A」

近年においては、特に大手電機メーカー各社において、自社のコアビジネスを見極め、それを磨くことでイノベーションを実現していく「本業革新」のためのM&Aが多く見られた。

単なる本業の選択と集中(リソースの再分配)ではなく、事業再編と並行して、異なる分野の技術や人材を新たに受け入れることでビジネスモデルのアップデートを進めているのである。

売却と買収の両輪でコア事業を磨き抜くリコーのM&A

2018年は大手電機メーカー各社において特に、自社のコアビジネスを見極め、それを磨くことでイノベーションを実現していく「本業革新」のためのM&Aが多く見られた。

単なる本業の選択と集中(リソースの再分配)ではなく、事業再編と並行して、異なる分野の技術や人材を新たに受け入れることでビジネスモデルのアップデートを進めている。

たとえば、リコーは非中核ビジネスのアナログ半導体事業を手掛けるリコー電子デバイスを2017年に日清紡グループに売却。一部株式は保有しつづけた上で、当該領域において「他力」を活用して成長させていく選択をした。

2018年には、同社は本業である「印刷領域」への集中を掲げ、「立体物向けの印刷技術」に強みを持つエルエーシー、「衣料や床材の印刷技術」を得意とするカラ―ゲートの2社を買収した。

各々の会社が持つ技術優位性と自社の技術を連携させることで、あくまで本業である印刷領域における付加価値を高めていく戦略を実践しているのである。

「手を組むことでビジネスモデルを変化させる」アマダのM&A

プレス機メーカー大手のアマダは、プレスの付帯設備(搬送機等)の設計・製作を行うオリイメックを買収することで、「プレスメーカー」から「提案(企画・設計)型のビジネスモデル」へと変化を遂げた。

同業を買収することでシェアを拡大するのではなく、異なる事業領域同士で手を組むことでビジネスモデルそのものの変革を図った好例と言えるだろう。

自動車業界内での垂直統合を通じて顧客ニーズに応える

近年では、旭化成や積水化成等の素材メーカーによる国内外の自動車部品メーカー(Tier1.2)の譲受も活発化している。その目的は、エンドユーザー(トヨタ・ホンダ等の自動車メーカー)により近いポジションをとって企画・開発力を強化することにある。

部品メーカーの譲受の恩恵を受けるのは素材メーカーだけではない。部品メーカーは「軽量化」「安全性向上」等のテーマを実現していくための、素材ベースでの研究・開発ノウハウを自社に蓄積していくことが可能となるのである。

中堅・中小製造業は「企画・設計力」が企業価値に直結する

中堅・中小企業のM&Aに目を向けてみても、2018年は「生産用機械メーカー」のM&Aが非常に活発であった。

生産用機械メーカーの中でも中堅・中小企業に多く見られる専用機メーカーは、近年得意先の技術者人材の不足を理由に、装置単体での受注のみならず「組立⇒加工⇒検査」に至る一連のラインを一括して請け負うことのできるキャパシティが求められる傾向にある。

中堅・中小製造業は、規模の問題から幅広い顧客ニーズに応えることが難しい現状に加えて、経営者や従業員の高齢化も年々進んでいく逆境に立たされている。

そんな中、相乗効果の見込める大手グループ内で更なる発展を目指す、という選択肢をとるオーナー経営者が増加しているのだろう。

一方で、中堅・中小生産用機械メーカーの買収を検討している会社は多い。

企画・設計(エンジニアリング)機能を内製化して付加価値を高めていきたい電子部品商社、一品物の装置設計技術を必要としている汎用機械メーカー、製造業向けのエンジニア派遣会社など、多様な企業が中堅・中小製造業者の「企画・設計力」を必要としているのだ。需要旺盛な分野であるため、比較的高い株価もつきやすい傾向も指摘されている。

「求められたものを高い精度で作る」ことではなく「顧客にとって必要なものを企画し形にする」ことが今後ますます求められる中、生産設備メーカーのM&Aはより活発化していくことが予想される。

製造業のM&Aの事例

ここからは当日本M&Aセンターが仲だった実際のM&Aセンターの事例を紹介する

譲渡企業様の概要とM&Aの検討理由

当初は譲渡オーナーのご子息が継ぐつもりだった

譲渡企業の市川ダイス社は、1962年創立、千葉県多古町に工場を構える金型メーカーだ。

M&A当時は2代目のオーナー社長である谷津博史様が経営者を務めておられた。経営承継を見据えてご子息である大幾様を3代目候補として社内に迎え、堅実に経営をされている。

大幾様は、「後を継いでくれ」といわれたことは一度もなかったが、幸せな幼少期を過ごさせてもらって、父や母、家族を支える「市川ダイス」の存在の大きさを認識するようになり、「恩返しのつもりで会社を継ごう」という気持ちになっていたという。

海外展開への挑戦を考えたときにM&Aという選択肢を考え始めた

ほどなくリーマンショックが発生し、その後は今後の成長において特に海外展開が必要不可欠であることを強く認識することになった。ただ、独自資本で海外進出をしようとすると、どうしてもスピードと資金力が足りない、仮に失敗したときは立て直せない、という不安を抱えていた。

そこで親子で相談の上、「M&Aという手法で大手グループの傘下に入る」という選択肢を考え始め、岡山県の同業大手のゼノーテック社と出会い、同社との資本提携を決断するに至った。

譲受企業様の概要とM&Aの検討理由

ゼノーテック社は岡山の金型メーカーで、粉末冶金金型を中心に、中国・マレーシア・インドネシアも海外展開をしてきた。

当時ゼノーテック社は、国内・海外での売上増加が目標だった。冷間鍛造金型や引き抜きダイスなどで素晴らしい技術を持った市川ダイス社を譲り受けることで、お客様に提供できる金型メニューが増えるという明確な狙いがあった。

また事業シナジーだけではなく、TOP面談等を通じて、市川ダイス社の暖かい社風にも共感し、同じグループとして、以後共に成長していきたいと考えた。

本件M&Aで重要となったポイント

「事業承継」ではなく「新たなチャレンジをし続ける」ためのM&A

本件についてはやはり、譲渡企業において親子で決断したM&Aであることが大きなポイントだ。「跡継ぎがいない」という理由が、M&Aの主な動機であった一昔前と比べ、状況は変化している。

あらゆる産業が大きな転換期を迎える中で、たとえ社内に後継者がいるケースであっても、大手と手を組んでいくという選択をするオーナー経営者が非常に増えている。

実際オーナーのご子息の大幾様は専務として、資金面・経営面において、親会社のバックアップを受けながら、今現在も市川ダイス社の経営に注力し続けている。

会社に対する家族それぞれの想い

「良いM&A」を考えるときには、当然、家族一人一人の想いも非常に重要になる。

関係者全てにとって納得のいく結果が得られなければ、本当に良いものとはいえないだろう。

M&A後、大幾様は、姉妹からは「将来会社がどうなるのか不安だったので、安心した」と言われ、また、お母様からは「あなたのおかげでM&Aができた」と感謝の言葉をかけてもらった。

なにより良かったのは、大幾様が、お父様(博史様)から成約のすぐ後に東京駅で呼び止められ、「ありがとう、お前のおかげだ、会社を頼む」といわれたことだ。

「会社が成長していくことに価値がある」

大幾様自身は、「自分としては“会社を継がない”という選択をしたつもりはない」とおっしゃいます。

「株主」としての立場は、信頼できる会社、経営者に託しながらも、会社を引っ張っていく運営においては、これからもずっと関わり続けたいという想いは非常に硬く、ゼノーテック社としても大幾様のこのような姿勢に強い安心感を持った。

もちろん、おじい様の代から代々受け継いできた家業を手放すことは並大抵の想いではなかったと思う。今後、「市川ダイスが成長しつづけていくことに価値がある」と決断された谷津様親子の想いを受け止められたゼノーテック様と共に、更なるチャレンジを重ねていくことだろう。

京都大学経済学部卒業後、株式会社キーエンスに就職。セールスエンジニアとして製造業の生産ラインの効率化に8年間従事。その後、日本M&Aセンター業種特化事業部 製造業支援室長として中堅・中小製造業の成長戦略・事業承継に係るM&Aの専門としている。

上席課長
製造業界支援室 室長
太田 隼平