M&Aレポート
『病気をきっかけに第三者への事業承継を決意』不動産賃貸管理業界のM&A事例①
2019.5.15
- 建設・不動産

目次
賃貸管理業界はやがて4社に集約されていく
日本では、市場の成長が止まり、業界再編されていく業種が多々みられます。銀行、家電量販店、コンビニエンスストア、医薬品卸などの業界をみてみると、業界再編が進み、結果として企業グループは概ね4社に集約されていきました。
私たち日本M&Aセンターでは、こうした再編が進む業種を“再編業種”として、対応する専門チームを設けてM&A(企業の買収・売却)のお手伝いに注力しています。
そしてこの賃貸管理業界においても、人口減少、経営者の高齢化、IT化など再編圧力が強まっており、今後再編型のM&Aが増えるだろうと考えています。
M&Aコンサルタントとして企業経営者に寄り添い支援する中で、M&Aを通じて企業を永続的に発展させ、良い会社にしていこうとする経営者の姿を多くみてきました。今回は、どのような会社が企業を買い、売却をした経営者はどのようなことを考えたのか、いくつかの事例をご紹介したいと思います。
病気を経て、自身が元気なうちに事業承継を決断
【譲渡企業】:A社
・所在地⇒関西
・業績⇒年商3億円未満
・事業内容⇒不動産賃貸管理・仲介
・株主⇒藤田社長(仮称)
・従業員⇒約10名
【譲受企業】:B社
・所在地⇒関東
・業績⇒年商100億円以上
・事業内容⇒不動産賃貸管理・仲介・その他
・株主⇒上場企業のため複数
譲渡企業A社は藤田社長(仮称)が地場不動産会社勤務後、独立して設立。はじめは小さな不動産仲介会社として手堅く経営されてきましたが、同業者の勉強会やセミナーなどを通じて、賃貸管理業に活路を見出され、やがて地場でもっとも知名度の高い賃貸管理会社へと成長していきました。
事業承継の検討
藤田社長は65歳を超えても、事業承継を強くは意識しませんでした。一般的には、50代のうちに事業承継を考えはじめる経営者も多いですが、賃貸管理業という業種柄、新規営業したり新たな設備投資をしなくても安定した収益が見込めるため、藤田社長自身まだまだ大丈夫だと考えられていたようです。
そのような中、とある冬の定期健診に行ったところ、腫瘍がみつかりました。ガンではありませんでしたが、体調が優れないことが多くなりました。その間、今この瞬間引退したら会社はどうなるのかと考えると不安は募るばかりでした。
しばらく病院に通い体調は回復しましたが、今後同じことが起きるだろうから今のうちに対策をしようと友人の経営者にも相談してみました。
そこで、社内で後継者を探すべきだというアドバイスをもらいましたが、社内のNo.2は株式を引き受けることも、経営を引き継ぐことも、リスクが大きいからと断られてしまいました。
一歩譲って雇われ社長になるとしても、株式を引き受けるということは家族からの同意を得られないとのことでした。
第三者の後継者を探すということ
親族内承継の選択肢はなかったので、残された方法は第三者に経営を任せるということでした。お互い良く知っている近隣の同業者に話をしようと思いましたが、変な伝わり方をしてしまうと顧客離れがおきてしまうかもしれない、という懸念がありました。
かといって、少し離れた知らない経営者にお願いするのも違和感がありました。結果、個人で後継者を探すよりも、専門のアドバイザーに頼ったほうが会社としてのリスクも低いと判断し、当社にお相手探しをご依頼いただくこととなりました。
本気で検討してくれる先を選別することが大事
藤田社長の希望である「後継者問題を解決し、残された従業員に安心して働いてもらいたい」という希望を実現するため、当社ではA社に興味を持ちそうな候補先のリスト(ロングリスト)を約50社分提示しました。
そこから、藤田社長が提案してほしくない先を除き、買収資金も問題なさそうな先に絞ると約半分になりました。そして、経営者の派遣を条件に加えると約5分の1に絞られました。その5社のうち、人的資本が豊富で、客付け力も安心できる上場企業のB社から交渉を進めることにしました。
B社サイドから見ると、A社が持つ地場での抜群の知名度と、顧客(管理物件オーナー)との強固な信頼関係はかなり魅力的でした。
同時に、A社の管理システムは古いものを利用しているため、手打ちで空室情報を更新していました。B社のシステムを導入すれば固定費が削減できることは、良い伸びしろとして評価されました。
M&Aの条件交渉
M&Aの交渉過程では、株価、スケジュール、社長の引継ぎ条件、従業員の処遇、その他付帯条件について取り決めをしていきます。買収交渉というと、ドラマにでてくるようなドライなイメージが先行しがちですが、M&A仲介の現場においてはもう少しマイルドに完結します。
当然、売り手は高く買い手は安く、という原理が働くものですが、それぞれの優先順位は異なるので、両社Win-Winになる方法を模索していきます。今回は同業者であり共通点も多かったことから、交渉はスムーズに決まりました。
M&A後
株式譲渡の実行をもって、A社はB社の100%子会社となりました。B社からは新たな代表取締役が派遣されました。新代表は、まずシステムの変更と財務の上場基準への変更にとりかかりました。A社の従業員からすると、使い慣れたシステムを変えることはかなりの負担だったようで、多少のストレスはあったようです。
財務についてもCFOのような人材はいないため、藤田前社長と経理担当者が時間を割いて対応していきました。はじめの1、2ヶ月は大変でしたが、業務効率化と処遇の向上が実現できました。
慶應義塾大学商学部、米国コロラド大学ビジネススクールを経て日本M&Aセンター入社。
業界特化事業部の立ち上げに参画。以来、業界再編業種を中心に、幅広い業界でM&Aを支援。
調剤薬局業界専門グループ