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法改正による調剤薬局の加速する業界再編(その中で、必要とされる薬剤師の存在)4月2日通知から読み解く2020年改定

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近年、調剤薬局の業界再編はますます加速している。
2年に1度行われる調剤報酬改定によって、調剤薬局の運営を行い、且つ継続して安定した収益を出すことは非常に難しくなっている。

しかし、これは中・小規模調剤薬局に限ったことではなく、大手調剤薬局も対象である。
大手調剤薬局6社は、過去5年間に200店舗を閉店している。
すなわち不採算店の整理を行っておりその中には面対応・コンビニ併設店といった新型調剤薬局も含まれる。今後も店舗数を閉店させる傾向は強まるのは明確であると考えられる。

このような状況で、M&Aの手法も徐々に変化をしている。

変化するM&Aの手法

以前は大手調剤薬局が、M&Aにより中・小規模調剤薬局をグループ傘下に加える方法が一般的であった。しかし、近年、その手法が徐々に変化している。過去に大手調剤薬局に譲渡した企業が譲受企業になっているのだ。大手調剤薬局とM&Aを実行し、グループ傘下に入った調剤薬局が規模の利益を享受し、地場での店舗数拡大を行うというものである。

大手調剤薬局のグループに参画するメリットとしては、大きく2点ある。

①企業経営における豊富な資金の獲得が可能であること

②企業ブランドを活かした薬剤師確保が可能であること

という2点である。

なぜ、M&Aによる店舗出店が加速するのか

以前のコラムで安藤が紹介している様に、新規出店を行う場合、薬剤師の確保が必要であり、年間で10店舗の出店を行った場合に管理薬剤師を含め、少なくとも20名以上の常勤薬剤師の新規確保が必要である。さらに、パート薬剤師・医療事務スタッフの確保も行うとなると、採用費用、スタッフ研修の実施等の膨大な費用と時間を有することになる。

それに対し、M&Aによる出店のメリットは大きく2つあり、
①新規薬剤師や医療事務スタッフの確保の必要性がないこと、
②数字新規出店に対して、安定的な売上を確保できるという点である。

一般的にM&Aにより譲渡した企業のスタッフはリストラされ企業文化は一新される、というイメージがあるかもれない。

しかし、最近の調剤薬局業界におけるM&Aの傾向としては正反対であり、譲渡企業の人材や文化は貴重な財産であり、継続して雇用・維持することが通常である。つまり、譲渡前後での環境は何も変わらないのである。

その中でも必要とされる薬剤師

譲渡企業のオーナーは譲渡後、退任を希望する者もいるが、譲受企業としては、顧問契約等により、継続勤務を希望する場合が多い。

もちろん、譲渡時のオーナーの年齢にもよるが、近年では譲渡オーナーの若年化も理由の1つである。譲受企業にとって継続雇用のメリットは、長年管理薬剤師としての調剤業務における知見と経営・計数人員管理能力の2つを持ち合わせている点である。

今後も、法改正により調剤薬局業界の業界再編のスピードは加速の一途をたどると予測される。こうした傾向の中、管理薬剤師としての調剤業務とオーナーとしての経営・管理業務を兼務した薬剤師は大変重宝される存在であるのは明らかである。

業績悪化や年齢などによりM&A後は退任するというオーナーの譲渡相談に加えて、自らが経営してきた調剤薬局の更なる発展と、自身のキャリアアップも含めた戦略的M&Aによる譲渡も今後はますます増加すると考えられる。

調剤薬局業界に衝撃を与えた「4月2日通知」

薬局経営者ならだれもが頭を悩ませているだろう報酬改定だが、前回の2018年4月の報酬改定は大手調剤チェーン狙い撃ちと言われ、グループの処方箋受付回数と集中率でそれぞれバーを定め調剤基本料を大きく減点させた内容であった。

次回2020年の改定はどのような内容となるのか、今までの動向や4月2日に出された通知などから読み解いてみたい。

2018年4月改定は薬局のサービスの中心を対物業務から対人業務へと移行させる誘導策として大きな影響を及ぼした改定といえる。特に大型調剤チェーンは大きな影響を受け、先日発表があった各社の決算からはその厳しさがうかがえる。

そんな中4月2日に厚生労働省から「調剤業務のあり方について」と題された通知が発表された。

この通知の中で今まではグレーとされていた薬剤師以外の者が薬のピッキング業務を行うことを明確に認めている。「薬剤師の仕事は対物ではなく対人に重きをおけ」と国から言われているようなものである。ではなぜ2019年4月というタイミングでこのような通知が厚生労働省からわざわざ出されたのか。

通知により人繰りが改善するのか

業界に大きなインパクトを与えたこの通知を受け、薬局チェーン各社は人材配置の見直しや薬剤師以外の職員への研修実施などの対策を行っている。

そもそも各自治体により解釈が違ったこともあり、あまり大きな声では言えないが昔から事務やスタッフにピッキング業務をやらせていた薬局も中にはあったかもしれない。

しかし明確に調剤テクニシャンやアシスタントによるピッキング業務が認められたことにより、薬剤師の人繰りは以前よりは大きく改善することが容易に考えられる。

さらに通知以前からしっかりとコンプライアンスを守り、必要な薬剤師を各店舗に配置していた薬局はこの通知を機に大きく対人業務中心のサービスへと舵を切ることが可能となった。

もちろん以前からピッキング業務になれている事務がいる薬局の方が短期的に見れば恩恵を受けるかもしれない。しかし薬剤師をきっちりと配置していた薬局は事務のピッキングによってできた余裕で積極的に対人サービスへ力を注ぐことができることとなる。

実際に人件費を抑えるのは厳しいか

またこの通知により薬局経営における一番の課題でもあった薬剤師の確保と高騰する薬剤師の人件費の問題について、ある程度改善の兆しが見えることになるとも言われている。

もちろん全国的な人手不足やそれに伴う人件費の高騰の波は避けられないが、調剤アシスタント等の活用により今までよりは人繰りについて融通が利くようになるだろう。

さらに薬局経営を圧迫していた人件費についても、以前より余裕が出てきたという経営者も少なくない。

しかし今まで調剤事務の仕事しかやっていなかった事務がすぐに戦力になることを懐疑的に思う経営者も多く、実際には人件費は簡単には下げられないとも考えられる。

一方で国は人件費が下がる想定し、調剤料などの引き下げが行われる可能性が高い。多くの経営者はこの通知を受け、次回の報酬改定では容赦ない減算が行われるのではないかと予測しているのだ。

大手狙い撃ちだった前回の改定

報酬改定については今後の改定で薬局にとってプラスとなるような事態は想定しづらいといわれている。国の財政制度を考えると、低負担高福祉といわれている今の社会保障制度を維持するのは困難であり、国費で賄われる調剤報酬についての枠も今後はどんどん小さくなっていくことが予想される。

現在6万軒ある薬局を3万軒程度に減らすというのは誰もが聞いたことがあるはずだ。

前回の改定では大手調剤チェーンが主なターゲットとなり、目立ちすぎたための薬局バッシングであるといった声が多く聞かれた。

そのような側面もあるだろうが国や財務省としては今後の社会保障費の抑制といった面だけで見ると、大手の店舗だろうが1店舗の薬局だろうがどちらが今後の3万軒に残るのかは大した問題ではない。

ではなぜ先の改定では大手チェーンだけ厳しかったのか。その一つの理由に人件費の問題がある。

大手と中小では圧倒的に差がある人件費

財務省が社会保障費等の予算を決める際に参考にしている資料に医療経済実態調査という調査がある。病院や診療所、歯科、薬局の経営について国が無作為に調査した報告書である。そのなかで薬局の経営について調査された項目の中で興味深い点があった。

それは店舗数別の損益状況という題でまとめられた項目である。同一法人が行っている店舗数が1店舗、2~5店舗、6~19店舗、20店舗以上といった法人の規模別に調査された店舗の収益がまとめられている。

この統計の中で同じ薬局を営んでいるにもかかわらず、対売上の構成比率で項目別に明らかに数字が異なる数値があった。給与費等でまとめられていた人件費である。

1店舗の薬局は売上に対し給与費が21.6%を占めるのに対し、20店舗以上だと13.4%となっている。

1店舗では社長が管理薬剤師をしているケースがあるため給与費が高くなってしまうのは理解できるが、そのほかの店舗数と比べても20店舗以上の薬局は5%以上給与費が低くなっている。

これほどまでにチェーン薬局と個店とでは人件費に差があったことになる。

報酬改定に話を戻すと国や財務省が限られた社会保障費の中で調剤報酬を減らすのはやむを得ずと判断し、比較的余裕があった(またはあるように見えた)大手・大型チェーンにメスを入れたことは容易に想像がつく。

もちろんそれ以外の理由もあるだろうが、少なくとも財務省や厚生労働省が医療経済実態調査の統計から報酬改定の示唆を得ていることは確かだろう。

薬局として生き残れるか、明暗が分かれる次回の改定

このことから先ほどの4月2日通知と翌年の次回の報酬改定を考えると、報酬改定のメスが大手チェーンだけに入れられるというのは想像しづらい。むしろ対物業務への点数は今回の通知を機に会社の規模を問わず大きく減点され、対人業務の点数が大きく加算される可能性の方が高いともいえる。

そうなったときには大きく対人業務に舵をきれた薬局にとってはプラス改定となるが、そうでない薬局にとってはかなり厳しい改定となるだろう。

前回の改定のように会社の規模や集中率といった基準とは違う、今後国に必要とされる薬局かどうかという究極な基準が適用される可能性が高い。いずれにしてもこれからの薬局を取り巻く様々な状況には引き続き目を離せずにはいられない。

日本M&Aセンターでは様々な経営者とのネットワークやM&Aのトレンドなどから読み解いた、今後の報酬改定等の薬局業界についての動向をわかりやすく説明しているセミナーを開催しているので、役立てていただければ幸いである。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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