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地域包括ケア時代における地域医療の担い手は、中堅か、大手か。

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今後、「かかりつけ薬局」として選ばれるには

2016年7月2日、共栄堂(新潟県)がクオールと資本業務提携を行ったことが発表された。また、レーベンプラン(静岡県)は阪神調剤薬局と提携した。さらに、NPホールディングス(香川県)がアインホールディングスと提携したことも記憶に新しい。今、地方の中堅薬局の動きが非常に活発である。彼らの提携相手によって、調剤薬局業界における再編の構図が変わるといっても過言ではない。

薬学部が6年制となり、薬剤師の高い専門性が求められる今、所属する薬剤師がどれだけ専門知識をアップデートできているかが、今後の薬局の存在意義を左右する要因の一つだ。

私達がメディカルシステムネットワークとの提携をお手伝いしたトータルメディカルサービスの大野社長(現・メディカルシステムネットワーク代表取締役副社長)は、メディカルシステムネットワークが持つ北海道の研修施設を見学した後、「(メディシス社の薬剤師への)研修レベルは全く違った」と語った。

研修のレベルの差は薬剤師の質の差につながり、地域医療の差となる。ほんの数年前まで、日本全国の薬局どこに行こうとサービスに変わりはなかった。処方箋を薬と交換することが薬局の役割だと世間から思われているような時代だった。しかし最近では、住む町の「かかりつけ薬局はどこか」によって、受けられる医療・サービスの質が変わってきている。

再編の渦中にある調剤薬局業界は、M&Aの相手の幅が広がっている

地域包括ケアの時代を見据え、再編まっただ中の調剤薬局業界で、どのように薬局の質を上げ、地域医療に貢献していくのか。最近M&Aの現場で私達がお会いするほとんどの中堅薬局のオーナーは、「自社を譲渡」すること、「他社を買収」すること、どちらも連携であることに変わりはないと、両方の可能性を考え、提携する相手を選んでいる。

業界再編というと、「大が小を飲むばかり」と感じる方も多いと思うが、自社の立ち位置から譲渡、譲受両方を選べる、それだけ提携相手の幅が広がっている時機といえる。

したがって、大手では地域医療を担えない、地域密着薬局が独立して残っていかなければならない、として大手を提携相手から排除する考え方に固執するのは、地域、社員、オーナーにとって損なのだ。

中央集権型の大手は地方に対応できないのか

大手薬局が地域医療に貢献できない主な理由は、「現場から離れているので、地域ごとに対応できない」からと言われることがある。しかし大手調剤薬局には必ず各地方ごとに支部があり、その下にエリアマネージャーがいる。このエリアマネージャーが実質的に現場を管理しているため、地域ごとの個別対応が可能になる。また、初出の共栄堂の場合、クオールと提携したからもう新潟・山形地域へ密着型の医療を提供できなくなったかといえば、そんなことはない。そのままの状態で薬局は続き、むしろ新潟、山形地方のクオール薬局と連携することで残薬交換(デッドストックエクスチェンジ)や、薬剤師の補充など、さらに柔軟に対応できるようになる。

さらに、今後共栄堂をかかりつけ薬局にしている地域住民は、「クオールカード」を持って、全国どこのクオールでも初診手続き要らずで処方を受けることができ、クオールアプリで、「薬の飲み忘れ防止」「健康管理」「電子お薬手帳」など多くのサービスを受けられるようになる。

利益重視の大手は、利益の出ない地方の薬局をつぶすのか?

たとえば、メディカルシステムネットワークは、お馴染みのお客さんが高くなるという制度はおかしいと考え、かかりつけ薬剤師指導料を算定できる状態でも、今年は算定しない方針だ。これは、患者にとって、より良いサービスを受けているのに価格が高くならないという、今までの調剤薬局業界の常識からは考えられないことを可能にしている。しかしこれは、彼らが大手であり、利益を出しているから成し得ることだ。

今後、調剤報酬改定で薬価は下がり、地方だけで経営している薬局は在宅、研修、IT、採用など次世代への取り組みの投資がしづらい上に、過疎化が進めば、地域密着の薬局がそのマーケットだけで稼いでいくのは難しくなるだろう。

しかし、地方にも薬局を必要とする住民はいる。そこに医療を届けるためには、メディシス社のように「都心で稼ぎ、地方で耐える」という「理念」があり、そして「利益」が出ているという大前提がある。やはりスケールメリットは大きく、大手と提携したことで、仕入れ値が下がり、加算もとれるようになる薬局は多い。

##地域住民のために中堅薬局が孤立無援で戦うべきなのか
地域住民のきめ細かいサービスのために、地元の薬局が単独で残っていかなければならない。これは、「地域薬局」を掲げる中堅薬局経営者が口にする言葉だ。ただ、譲渡した地方の薬局オーナーのこんな言葉がある。「今振り返ってみて、大手と提携すると薬剤師が辞めてしまう、患者さんが来なくなってしまう、というのは、自分が必要とされていると感じたいがゆえの幻想だった」。

たとえば、食品スーパー業界で考えてみてほしい。20年ほど前に多くあった、地域で複数店舗行っている「地域密着スーパー」に行くと、品ぞろえは少なく、価格も高い。しかしイオンなどの総合スーパーに行くと、同じ食材がより安く手に入る。またポイントカードの他社連携や、家電、洋服、ドラッグ、マッサージやデイサービスまで、その他の商品やサービスも充実させ、もはやアミューズメント要素まで備えている。その結果、住民は総合スーパーを選び、今や「地域密着スーパー」はほとんど見かけなくなった。誰でも品ぞろえがよく、買い物が楽にできる店を選ぶ。地域住民の立場で考えたとき、どういう調剤薬局のあり方がベストなのか。

かかりつけ薬局のあり方とは

調剤薬局の大手と中堅における価格面の差は今のところ(メディシス社のような例を除けば)ないが、日本調剤は注射針の回収や、学校薬剤師、メディカルシステムネットワークは医療情報誌「なたね」の発行、アインホールディングスはドラッグ業態であるアインズトルペで健康、美容へのアプローチをしており、それらすべてが次世代の薬局の機能を見据え、IT投資をしている。

地域住民の医療、健康知識のレベルはその地域にある薬局のレベルに同じといわれる。大手の薬局をかかりつけ薬局とする住民は、しっかりした研修を受けているかかりつけ薬剤師に健康面に関する相談ができ、ITの活用で最先端のサービスを受けることができる。

24時間対応薬局や在宅対応薬剤師により、高齢者は安心して生活できる。だが、地域に設備投資の遅れた薬局しかなく、それらをかかりつけに選ばざるをえない住民は、適切なケアを受けられず医療格差が生まれる。理想とする地域住民へのきめ細かいサービスの提供とは、かけ離れてしまうのだ。

大手と提携するのは負けなのか

現在、10店舗の薬局だとしよう。1店舗の薬局を買収して11店舗になることが地域のためなのか、それとも300店舗の薬局と提携し、310店舗となって、地域に大手の技術とサービスを提供するのが地域のためなのか。大手と提携したから身売りだ、地域医療の崩壊だというのは、今は昔の幻想だということがご理解いただけたと思う。 すでに中堅の戦いは中盤戦を迎え、大手は同じ大手と提携の道を探している。大手薬局の提携は、公表される2~3年前から当社に相談に来られており、公表された時に同じ規模の薬局が提携に焦ってももう遅い、というのが実情だ。

相手の幅が広がっている今がチャンス

経営者の素晴らしい努力により、大手薬局に近いサービスや、地域ならではのサービスを提供している中堅薬局もある。しかし、単独では住民が望むサービスの提供に対していずれ限界がくる。大手と提携したからといって地域医療が崩壊するというのは幻想だと述べた。

M&Aでどういう道を選んだにせよ、その薬局の果たす使命はその後何も変わらない。むしろ地域住民によりよいレベルの医療の提供ができる後ろ盾を得たと考え、提携先のノウハウをどんどん取り入れ、自社が賄う地域医療に活かしていくべきだ。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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