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M&Aレポート

不動産業のM&A事例(1) 後継者問題解決のため上場企業グループへ

2017.6.29

  • 建設・不動産

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日本M&Aセンターでは、業界再編が起こっている業界、M&Aの相談・成約件数が多い業界には業界専門のチームを設けております。不動産業もその一つであり、会社として力を入れてM&A成約の支援をしています。

今回より、当社で仲介をした不動産業のM&A(企業の買収・合併)の成約事例を6回に渡りご紹介します。オーナーが譲渡をした理由、対象企業の規模、譲り受け企業の業種など、異なるパターンの事例を取り上げ、ご紹介させていただきます。

M&Aで会社を譲渡される理由で最も多いのが、「オーナー社長の事業承継問題解決のため」です。不動産業も例外ではなく、オーナー社長の後継者がいない企業が多く、第三者に会社を引き継ぐM&Aを選択されるケースが増加しています。

第一回目は、後継者問題解決のためにM&Aを決断し上場企業のグループ入りをした事例をご紹介します。

事業承継の検討

譲渡企業A社は田中社長(仮称)が大手不動産会社勤務後、独立して設立。収益不動産を複数持つ賃貸部門、100施設弱の委託を受けている賃貸管理部門、不動産売買部門の3部門から成り立っていました。過去の不動産業での経歴から、地場の人脈や独自ルートにより、有力な不動産情報を保有しており、継続して堅調な業績を上げていました。

田中社長は60歳を超えたころから、事業承継を検討するようになりました。まずは娘の旦那を後継者の最有力候補として社内に呼び寄せました。
次期社長候補として育成を進めていきましたが、オーナー社長としてやっていくために必要な経営能力に不安を感じ、最終的には断念。親族だけでなく、従業員にも承継できる人物がいないことから、その他の手法を検討するようになりました。今後、A社がより安定的な成長を継続するためには、資金力、人材をはじめとする経営資源を豊富に持つ企業に経営を託すのが最善であると田中社長は判断し、当社にお相手探しを依頼いただくこととなりました。

上場会社との資本提携

田中社長の「より安定的な成長を実現したい」という希望を実現するために、当社では、そのご希望に添える資金力があり、かつA社の展開する東北地域でのM&Aを希望している企業に絞り、数十社をリストアップしました。田中社長は、そのうちの1社であるB社とM&Aの協議を進めることを決断しました。

B社は、関東圏での競争が激化する中、並行して地方展開も推進し、そのための戦略の一つとしてM&Aを検討していました。東北にはマンション分譲事業を中心に進出していましたが、十分には拡大できていませんでした。新規参入会社であるB社は東北の地場の有力な不動産情報が入る仕組みを持っていなかったのが原因でした。
B社は、関東を中心に事業展開する不動産業で、ディベロッパー部門に強みを持っています。田中社長は、B社が上場会社であること、同じ不動産業ではあるが異なる部門を強みとしていること、他地域の企業であり補完関係にあること、などの理由からB社との協議を優先したのです。

当社からA社をご提案したところ、正にB社が欲しいと思っていた地場の不動産情報のネットワークを保有している企業でした。また、フロー事業が中核となっているB社にとってストック事業を強化できるという観点からも、戦略に合致していました。B社の経営陣は自社の成長戦略を実現できる相手としてこのM&Aは大きなシナジー効果が発揮できることを確信し、当社からの提案の2日後には交渉を進めることを決断しました。

スムーズな商談過程

両社は強みを持つ分野が異なるものの、広義の不動産業同士でありシナジーも明確であったため、一度のトップ面談と弊社を介した情報のやり取りのみでお互いの理解を十分に深めることができました。トップ面談の後、翌週には基本合意をし、買収監査を経て、トップ面談からちょうど1カ月で最終契約となる株式譲渡契約を締結しました。

交渉過程での論点

M&Aの交渉過程においては、株式の価額、全体スケジュール、代表者の引き継ぎ、従業員の処遇、その他付帯条件について取り決めをしていきます。本件の場合、両社の意見が大きく割れる論点は出てきませんでした。株価についても、A社の事業部門を分解するような形で、各々の部門の資産の評価や収益性について見解をすり合わせ、最終的にA社全体としての評価額を合意するに至りました。

M&Aの成立後

株式譲渡の実行をもって、A社はB社の100%子会社となりました。B社からはその地域のマネージャーが新社長として派遣され、田中社長の後任となりました。田中社長は1年間の引き継ぎ期間を設け、情報ネットワークの引き継ぎや経営ノウハウの指導などを行いました。B社の狙いは次々と実現されることとなりました。A社との提携後は今までには入ってこなかった地場の情報が入ってくるようになり、A社経由の情報から複数の物件を手掛けることができ、短期間のうちに同地域の実績・売上を伸ばすことができました。

中堅・中小企業のM&Aの多くがそうであるように、A社は株主と代表者が変わっただけで、労働条件・環境は変わっていません。そのため、組織的な問題は起こらず、むしろB社のグループに入った後に、様々なプロジェクトが進行したことで、社員にとっても新しいビジョンが見え、プラスの影響を与えるものとなりました。現在A社は、B社グループにおいて、ストック事業の中核となる子会社として業容を拡大しています。

このように不動産業においてもwin-winを実現するM&Aが一般的であり、そのためM&Aを決断するオーナー社長が増えているのです。

※本連載は、2016年11月~2017年4月に全国賃貸住宅新聞にて連載した記事を転載したものです

慶應義塾大学商学部、米国コロラド大学ビジネススクールを経て日本M&Aセンター入社。
業界特化事業部の立ち上げに参画。以来、業界再編業種を中心に、幅広い業界でM&Aを支援。

課長
調剤薬局業界支援室 室長
山田 紘己